中小企業の脱炭素化投資を後押し!カーボンニュートラル投資促進税制がリニューアル
ALPS処理水の海洋放出から1年。安全性の確認とモニタリングの状況は?
SAF製造に向けて国内外の企業がいよいよ本格始動
飛行機もクリーンな乗り物に!持続可能なジェット燃料「SAF」とは?
電力が取引される日本卸電力取引所(JEPX)の「卸電力市場」は、今や電力産業に欠かせないものとなっています。「電力の全面自由化」によって新しく電力業界に参入した小売電気事業者も交え、卸電力市場の取引量はどんどん増えています。4年前の2019年、新たに加わった取引手法が、「電力先物取引」です。「先物取引」というと難解な印象がありますが、この手法をうまく取り入れることで変動する電力の価格リスクを抑え、安定的な価格で電気を調達できている電気事業者もあります。電気事業者はもちろん、今後は大量の電気を使用している企業なども役立てられそうな、「電力先物取引」についてご紹介しましょう。
電力の価格変動リスクを回避するために必要となる電力先物取引の具体的な制度設計に関する議論がなされたのは、2018年に開催された「電力先物と市場の在り方に関する検討会」です(議論の内容は「電力先物市場の在り方に関する検討会報告書」(PDF形式:2,345KB)も参照)。この議論を踏まえ、2019年9月、東京商品取引所(TOCOM)において電力が試験的に上場され、日本初となる電力先物取引が始まり、2022年4月に本上場され本格的な運用となりました。
大きい画像で見る
「先物取引」とは、その時々の時価に応じて売買をおこなう通常の取引(現物取引)とは異なり、「将来の約束した期日に、あらかじめ約束した数量の商品をあらかじめ定めた価格で売買すること」を現時点で約束する取引です。
現物取引と先物取引の違い
日本の電源(電気をつくる方法)は火力発電の割合が高く、そこで使用される石油や石炭、液化天然ガス(LNG)など燃料の多くを輸入に頼っています。燃料の輸入にかかる費用は世界情勢に左右されがちで、燃料費が変動すれば市場の電力価格にも影響がおよびます。また、夏や冬など電力需要が高まる時にも、市場の需給バランスにより電力価格は大きく変動する可能性があります。この時、先物取引を使えば、どんな価格変動が起ころうとあらかじめ決めておいた価格で電力を購入することができ、未来に起こりうる価格変動リスクを回避(ヘッジ)できます。
実際には、先物取引を活用している電気事業者の多くは、「現物」と「先物」をうまく組み合わせて価格ヘッジしています。あるケースを見てみましょう。以下のグラフは、ある年の8月分の電力に関する先物の価格グラフで、縦軸は価格を、横軸は時間を示しています。その年の2月、来年度の需給計画を立てようとする小売電気事業者A社は、価格が高騰しがちな8月分の電力について、先物を活用して購入価格を固定しておこうと考えました。2月の時点で、8月分の電力先物を10円/kWhで購入できました。これはつまり、2月時点で、「8月の電気は10円/kWhになるだろう」と予想した売手と買手が電力先物市場に存在していることを意味します(①)。
各時点における、売り手と買い手が想定する8月電力価格の推移(8月限商品の先物価格)①
ところが、実際には、JEPXのスポット市場(明日発電する、または販売する電力の売買がおこなわれている市場)の8月の平均電力価格が15円/kWhまで高騰しました。先物価格は、決済月(この例の場合は8月)には現物価格と一致するよう、商品設計されているため、この時、A社は2月に10円/kWhで購入を約束しておいた8月の先物建玉(未決済のまま残っている先物取引)を取引最終日に決済し、電力先物取引において5円/kWhの利益を得ることができました(②)。
各時点における、売り手と買い手が想定する8月電力価格の推移(8月限商品の先物価格)②
電力先物取引は現物を伴わない金銭取引のため、それと同時に、明日、需要家に販売する現物の電気をスポット市場で15円/kWhで購入する必要がありますが、電力先物取引で利益として獲得した5円/kWhを引いた、実質10円/kWhで電気を調達することができます(③)。このようにして、価格の変動リスクを電力先物取引でヘッジするわけです。
各時点における、売り手と買い手が想定する8月電力価格の推移(8月限商品の先物価格)③
電力市場は「ボラティリティ(価格の変動性)」が非常に高く、経営破綻に至るような大きな損失が生じる可能性があります。そのため、取引相手の信用リスクを管理することがとても重要です。電力先物取引には、将来の取引が確実に履行されるようなしくみが設けられています。清算機関が売方・買方の間に入り、双方から債権・債務を引き受けて債権・債務の当事者となります。こうして清算機関が決済を保証することで、個々の取引当事者は、取引相手が信用できる相手かどうかを意識せずに取引することができ、信用リスクを“遮断”できます。これは世界の先物取引において共通のルールとなっています。
(出典)株式会社日本証券クリアリング機構の資料を基に経済産業省作成
電力先物取引が開始された2019年以降、取引高は右肩上がりで増加しています。電力先物取引市場に参加しているのは、電力事業者だけではありません。金融機関、商社、外資企業など多様なプレイヤーが参加し、約定(売買の成立)しやすいような環境がつくられつつあります。最近は、大量に電気を使用する事業者(たとえば自社工場を持つ事業者など)が、自社のビジネスに影響を与える要素のひとつとして電力の価格変動に着目し、電力先物取引に関心を持つケースが増えてきています。2023年には、JEPXのスポット市場で取引される電力量に対し、電力先物取引量が約7%に達しました。とはいえ、先行する欧州の電力先物市場では現物市場の数倍以上の取引があるとも言われており、日本の電力先物取引の規模もさらに伸びる可能性があると言われています。
電力先物の取引高の推移
電力先物取引は、開始から4年が経過し、取引参加者のすそ野を広げるための取り組みやニーズに応えるような市場の運営など、電力先物取引の活性化のための対応が求められる段階を迎えています。後編では、もう少し詳しく電気事業者のヘッジ例をご紹介するとともに、電力先物取引の活性化に向けて進められているさまざまな取り組みをご紹介しましょう。
商務・サービスグループ 商品市場整備室
長官官房 総務課 調査広報室
※掲載内容は公開日時点のものであり、時間経過などにともなって状況が異なっている場合もございます。あらかじめご了承ください。
従来の太陽電池のデメリットを解決する新たな技術として、「ペロブスカイト太陽電池」が注目されています。これまでの太陽電池との違いやメリットについて、分かりやすくご紹介します。