2023年6月の電気料金、なぜ値上がりするの?いくらになるの?
ロシアのウクライナ侵攻などを背景として生じている、世界的なエネルギー危機。2022年、燃料の価格は大きく高騰し、その影響で、日本でも電気料金のうち「規制料金」と呼ばれる種類の料金が改定されることとなりました。しかし、改定されることは知っていても、どうやってその額が決まったのか、結局いくらになるのか、燃料価格が下がったら電気料金も下がるのか…など、電気料金について詳しくはわからないという人もいるのではないでしょうか。今回は、2023年6月の電気料金改定について、その経緯や理由、最終的な改定後の電気料金の水準などについてご紹介しましょう。
エネルギー危機で、電気の「自由料金」が「規制料金」より高く?!
今回の改定がおこなわれるに至った経緯として、まず電気の「自由料金」が最近どのようになっていたかを見ていきましょう。
自由料金とは、1995年から進められた「電力システム改革」の中で、電力の「小売部門」、つまり販売に関する自由化がおこなわれたことで生まれた契約メニューです。2016年4月には小売部門の全面自由化が実施され、みなさんの家庭の電力(低圧部門)でも、自由料金を選べるようになりました。
ただ、フェアに競争がおこなわれる環境がじゅうぶんに整っていない状態で自由化を急に進めると、「規制はないが実態は独占状態」となってしまうおそれがありました。そこで、「規制料金の解除基準に適合するまで」という条件の下、経過措置として、これまでの「規制料金」が存続することとなりました。
その後、たくさんの企業が電気の小売事業に乗り出し、自由料金メニューで電気を販売することとなりました。これらの自由料金は、これまで、規制料金を下回る水準で提供されてきました。
しかし、2022年、大きな問題が起こります。世界的な燃料価格の高騰です。ロシアのウクライナ侵攻にともなうロシア産資源の禁輸措置、新興国のエネルギー需要の高まりなど、さまざまな理由で燃料が高くなりました。これに為替の影響も加わって、日本の燃料輸入価格も高騰。燃料の輸入価格は、2022年のもっとも高いときで、液化天然ガス(LNG)で対2022年1月比1.7倍、石炭は同2.8倍、原油は同1.7倍となっていました。
燃料輸入価格の推移
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その結果、2022年9月以降、全国平均でみて規制料金と自由料金の価格(単価)が逆転し、自由料金のほうが高くなってしまうという事象が発生しています。これはどういうことなのでしょう?
家庭用電気料金月別単価の推移(青:規制料金/オレンジ:自由料金)
それには、「燃料費調整」というしくみが関わっています。「燃料費調整」とは、電気をつくる燃料の調達価格の変化を、電気料金に自動的に反映するものです。基準となる調達価格を目安に調整額が計算されます。調達価格が基準より高くなればその分が電気料金に上乗せされ、安くなれば電気料金から差し引かれます。
この燃料費調整に関して、規制料金では上乗せできる金額の上限が設定されているのですが、自由料金では上限設定の義務がありません。自由料金が規制料金を上回るのは、燃料費高騰で燃料調整額も増しているからなのです。
なぜ規制料金は値上げされるの?値上げ幅はどうやって決まったの?
一方で規制料金については、燃料費が高騰しているにもかかわらず、燃料費調整の上限によって、その値上がりは2022年2月以降、順次ストップしていました。
大手電力各社の規制料金の推移と燃料費調整の上限到達時期
上限を上回った調達コストは、電力会社が負担することになります。これが、各電力会社の赤字の原因となりました。
料金改定をした大手電力7社の連結決算概要(2022年度)
当時、燃料価格が下がる見通しが立たない中で赤字供給を続けることは、電力会社の経営の持続性や、電気の安定供給に悪い影響をあたえます。こうした背景の下、大手電力会社7社は、規制料金について約3割~約5割の値上げを申請したのです。
電力会社が規制料金の値上げをおこなう際は、「電力・ガス取引監視等委員会」による審査の上で、経済産業大臣の認可を受けなくてはなりません。電力・ガスの適正取引と消費者保護の両面で“市場の番人”としてにらみをきかせている「電力・ガス取引監視等委員会」は、中立的・客観的・専門的な観点から、前例にとらわれない、きわめて厳格で丁寧な審査を実施しました。
たとえば、燃料費については、石炭(海外炭)の単価やLNGの中長期契約価格について、より安価な調達をおこなっている事業者の価格を基準として査定する「トップランナー査定」をおこなって、効率化を求めました。人件費についても、賃上げ分の原価算入を認めないなどの査定を実施。また修繕費などの固定費についても効率化を求めることとして、過去6年間の費用水準を横で比較して「効率化係数」を各事業者に設定(最大23%の効率化)、その係数を使って修繕費などの費目を査定しました。下記の表は、各電力会社の申請した額と査定結果を費目別に示したものです。
各電力会社の申請した額と査定結果
こうしたきびしい査定の結果、値上げ幅は、申請された額より低い14~42%に圧縮されました。
申請前・電力各社の申請値・査定結果の料金でくらべた、標準的な家庭(※)における電気料金
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- 市場の番人、「電力・ガス取引監視等委員会」
さらに、政府がおこなっている「電気・ガス価格激変緩和対策事業」(電気・都市ガスの使用量に応じて料金の値引きをおこない、家庭や企業などを支援する政策)などの効果も合わさって、7社のうち6社では、改定後の電気料金の水準は申請前より低くなりました。
申請前・改定後の料金でくらべた、標準的な家庭における電気料金
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さらに、これをウクライナ侵略が起こる前の2022年2月の料金と比較してみると、全社がほぼ同じ水準か、それ以下に抑えられていることがわかります。
改定後・ウクライナ侵攻前の料金でくらべた、標準的な家庭における電気料金
また、同じようにエネルギー危機に対処している諸外国とくらべても、日本の電気料金は値上がり幅を抑えることができています。
たとえば、ドイツの家庭用電気料金は、2021年で42円/kWhだったのが、2022年で53円/kWh、2023年で67円/kWh(5月末時点で確認可能なもの)と上昇しています(ドイツ・エネルギー水道事業連合会の公表資料をもとにIMFデータベースの為替を基に年毎の平均値を使用して計算、2023年は4月までの平均値。「年」単位)。それに対し、日本の家庭用電気料金は、2021年で28円/kWh、2022年で34円/kWh、2023年で35円/kWh(5月末時点で確認可能なもの)と推移しています(電力取引報などより計算。「年度」単位。ただし、2022年は4~12月、2023年は1~2月。)
幸いなことに、2023年6月時点では、LNGなどの燃料の輸入価格は下落傾向にあり、これは数ヶ月遅れで電気料金に反映されます。「激変緩和対策事業」の値引き水準は、9月使用分は半額となり、10月使用分以降は未定となっています。
電気は生活や仕事に欠かせないもの。世界的なエネルギー危機は今も続いていますが、できるだけ電気料金の値上がりを抑制できるよう、さまざまな対策をおこなっていきます。
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