成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(後編)動きだす産官学パートナーシップ
SAFの導入拡大をめざして、官民で取り組む開発と制度づくり
なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?~2030年度のエネルギーミックスとCO2削減を達成するための取り組み
成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(前編)どんな課題を解決するの?
国際的なエネルギー情勢やエネルギー政策の動向、エネルギー安全保障問題などに精通し、経済産業省のエネルギー関連の委員会で多くの委員を歴任してきた小山堅氏に、日本のエネルギー安全保障の重要性やその成り立ちと現状、国際的な競争と協調についてうかがいました。前後編の2回でお届けします。
―まず、エネルギーの観点から見た日本の環境と、エネルギー安全保障の基本的な考え方とその重要性について教えてください。小山 エネルギーは、我々の暮らしに欠かすことのできないものです。照明、冷暖房、移動はもちろんのこと、経済・産業・社会生活の運営のすべてに不可欠ですから、エネルギーの供給を考える際には「必要十分な量を」「合理的な値段で」「いつでも」手に入れられることが基本になります。世界の主要国の多くは、自国内に石油、石炭、天然ガスを持ち、国産エネルギーでかなりの部分を賄っています。エネルギー需要の急激な伸びが話題になっている中国でも、自給率は8割以上もあるのです。かつてエネルギー自給率が低かったフランスは、原子力発電(原発)に注力した結果、自給率が5割を上回る状況になっています。経済大国である日本は多くのエネルギーを使用しており、中国、アメリカ、ロシア、インドに次ぐ第5のエネルギー消費国に位置します。にもかかわらず、日本のエネルギー自給率は1割程度にすぎません。これは主要国の中でも群を抜く低さです。日本の電源ポートフォリオをみてみると、石油、石炭、天然ガスの3つの化石燃料が全体の8割を占めます。残りは、再生可能エネルギーや原子力。これら化石燃料以外の国産エネルギー(※原子力は準国産エネルギー)の比率を長年かけて少しずつ増やしてきましたが、東日本大震災や原発事故の影響もあって今でも8割を化石燃料に依存しています(「2018―日本が抱えているエネルギー問題」参照)。エネルギー資源に乏しい環境下で、十分なエネルギーを安定的に供給確保するためには、日本は海外からの輸入に頼らざるを得ない宿命にあるといえます。つまり、エネルギー供給は国際情勢に大きく左右されることになります。そこで、さまざまなエネルギー安全保障の取り組みが重要になってくるのです。
―二度のオイルショックにより、日本は深刻なエネルギー供給の危機を経験しました。エネルギーの安定的な供給のために、どのような取り組みがおこなわれているのでしょうか?
小山 1960年代から1970年代前半に高度経済成長期を迎え、大量のエネルギーを消費し、輸入する国となっていた日本を襲ったのがオイルショックです。1973年の第一次、そして70年代後半の第二次と、日本は二度にわたって石油供給の危機を迎えました。その頃の日本はエネルギー供給に占める石油の割合が7割を超えており、供給が止められればそれこそパニックになります。そこで日本は国の難局を乗り切るために、エネルギー供給の構造改革として「多様化」「分散化」「関係強化」「不測の事態への対応」という4つの対策に取り組みました。「多様化」とは石油に依存したエネルギー構造を他のエネルギーに転換するエネルギー代替政策で、原子力発電や再生可能エネルギー、石炭、天然ガスの割合をできるだけ増やすことで石油のウエイト削減をめざすものです。また、輸入元の「分散化」も図りました。それまでは石油の輸入元の大半は中東でしたが、それ以外の産油国からも石油を輸入するようにしたのです。そして分散化を進めながらも、主要産油国である中東とは経済・政治の「関係強化」で石油を安定的に供給してもらう努力を怠らないようにしました。石油以外の経済を発展させたい、技術を発展させたいといった産油国のニーズに対して、技術協力や経済支援をおこなったのです。さらには、「不測の事態への対応」能力も高めました。戦争や紛争、革命が起きる地政学的リスク、異常気象や自然災害や事故、これらは事前に予測することができません。そのようなアクシデントが起きたときのために、石油備蓄法に基づいて石油を常に備蓄することにしたのです。
原子力発電所、石炭やLNGの火力発電所などさまざまなタイプの発電所をつくり、平時には使わない石油を蓄え、産油国への経済協力をおこなう。どの取り組みにも投資が必要で、コストがかかります。しかし、エネルギーの重要性を考えるのであればコストをかけてでも対策すべきだという判断が、オイルショックを機に、政府だけではなく産業界や国民のコンセンサスとして生まれ、現在にいたっています。またこれらの取り組みの大前提として、エネルギーを無駄に使わず消費量を少しでも抑える「省エネ」があることは、言うまでもありません。もう一つ付け加えると、日本政府は1960年代から、日本のエネルギー企業が海外で石油やガスの生産・開発などの上流開発をおこなうことを積極的に支援してきました。海外企業が開発した石油を単に輸入するのと比べ、安定供給の面においても、価格の面においても優位性があると考えてきたからです。また、企業側の視点で言えば、利益率の高い領域に踏み込むことで、国際競争に耐えるだけの強い体力をつけられます。日本企業の上流進出は国益に合致するという認識に基づいた取り組みなのです。
―石油危機をきっかけとしたエネルギー安全保障のための包括的・多面的な取り組みが進む一方、東日本大震災で日本は再びエネルギー供給の危機に直面しました。
小山 石油危機をきっかけとしてこれまで取り組んできた対策の多くは、「水際までの安定供給」、つまり海外でのエネルギーの供給の支障にどう対応し、どう乗り越えるのかということに主眼が置かれていました。しかし当然のことながら、エネルギーを最後に使うのは国内の消費者ですから、国内に入ってから最終消費者に届けるまでのサプライチェーンにおける対策も重要です。ここが十分ではなかったことを露呈させたのが、東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故でした。国内で発生した自然災害と事故が、エネルギーの安定供給に甚大な影響をおよぼしたのです。東日本大震災以降、国内供給インフラのレジリエンス(強靭さ)への意識が一段も二段も上がりました。今年2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震でも、地震という自然災害により発電所がストップし、ブラックアウトが発生しました。ここでも予見することのできない事象が国内のインフラに損傷を与え、北海道内295万戸の電気が止まってしまったのです。今後、原因究明がなされ(「日本初の“ブラックアウト”、その時一体何が起きたのか」参照)、その結果に応じて具体的な対応が検討されると思いますが、カギとなるのはエネルギー需要に対して供給の予備力をどれだけ確保するかでしょう。不測の事態が起きたときのバッファーをどれだけ持てるか。バッファーの取り方には、電源の多様化、需要の管理、連系線の増強などさまざまなオプションがあります。いずれもコストがかかりますが、エネルギーの重要性をかんがみれば対応は不可欠です。私は、エネルギーの安全保障にはコストがかかって当然だと考えています。コストとは、すなわち何かへの投資です。電源や連系線などへの投資をどう確保するかも、これから先の日本のエネルギーの安定供給の面で重要なポイントになります。―これまでと同様、水際対策は欠かせませんし、加えて近年は国内の供給インフラの脆弱性に対する対策の必要性も浮き彫りになった。ある意味で、エネルギー安全保障問題はこれまで以上に複雑になったということですね。後半では、エネルギー資源をめぐる国際間競争と日本の強み、そして国際協調の重要性について伺います。
長官官房 総務課 調査広報室
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