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ときに「乾いた雑巾をさらに絞る」などと表現されるほど取り組みが進んでいる、日本の省エネルギー(省エネ)。しかし、省エネルギーセンター専務理事の奥村和夫氏は「企業における省エネ推進体制の見直しや新技術の導入、発想の転換により、まだまだ省エネの余地はあるはず」と話します。「省エネ大賞」をはじめとした事業で省エネ関連情報を発信し、企業に省エネポテンシャルの見つけ方などを指南する同センターから見た「省エネの現状と将来」について、前編・後編の2回でお届けします。
—省エネの重要性については多くの人が理解していると思われますが、あらためて省エネの意義や役割を教えていただけますか?奥村 省エネには、3つの意義があります。まずひとつ目は、有用なエネルギーを大切に使うということです。2019年秋の台風15号や19号によって起こった停電、2018年の北海道胆振東部地震の際のブラックアウト、2011年の東日本大震災後の計画停電など、近年、天災を通じて多くの方が電気やエネルギーの大切さを実感されていると思います。豊かな生活や円滑な経済活動においては電気や熱などのエネルギーが不可欠ですから、これを大切に使用すること自体に、重要な意味があります。日本の一次エネルギー供給の約90%は化石燃料ですが、そのほとんどを輸入に頼っている現状では、エネルギーセキュリティの観点からも省エネが重要です。2つ目は、地球温暖化問題における意義です。日本は2016年に発効した「パリ協定」のもとで、温室効果ガス(GHG)を2013年度比で、2030年度に26%削減、2050年度までに80%削減を目指しています(「今さら聞けない『パリ協定』 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」参照)。このためには、CO2を排出しないノーカーボンや排出量を抑える低カーボンなエネルギーへの転換も必要ですが、省エネも対策の切り札になるものと考えています。3つ目の意義は、経済価値の創出です。これまでに省エネの観点からハイブリッド自動車やLED照明などをはじめとするさまざまな商品、サービスが開発され、経済的な価値を生み出してきました。低環境負荷が評価されているハイブリッド自動車は、日本の自動車の全保有台数の約20%を占めるまでになっていますし、LED照明も2030年度にストックで100%という政府目標に向け、普及が順調に進んでいます。これら省エネは生産やサービス活動におけるコストの低減、生産方法の改善をうながすもので、2度にわたるオイルショック後に日本の産業が国際競争力を高めたのも、省エネが大きな要因の一つだと私たちは考えています。
一般的に「省エネ」という言葉には、何かをがまんし、生活の質を落とさないと達成できないかのようなイメージがつきまといます。しかし、がまんというより、むしろ「より快適な暮らしをつくる」あるいは「より合理的な生産方法に変える」手段になり得るのが省エネであり、「良い効果をもたらすものだ」という理解を広めていきたいと思っています。
—省エネルギーセンターは、第一次と第二次の石油危機の間の1978年に創設されたそうですね。日本のエネルギー供給構造の脆弱性を克服すべく、省エネと脱石油を本格化させた時期に創設され、以来40年あまり省エネ推進の専門機関として活動されていますが、具体的にどのような役割を担ってきたのでしょう? 奥村 当センターは、政府が進める省エネ政策への協力を活動の基本とし、産業や家庭、あるいは国際協力などにおいて、エネルギーの利用者と同じ目線から、省エネを推進してきました。主な役割としては、「省エネ情報の発信」「省エネ管理技術・手法の開発と現場での活用」「省エネ人材の育成」「国際協力の推進」「省エネ政策への協力」を担っています。ひとつずつ簡単に説明しましょう。まず「省エネ情報の発信」については、毎年実施している「省エネ大賞」と「省エネ総合展ENEX」が当センターの看板事業になります。最先端技術を世の中にいち早く紹介することで、その普及に貢献しています。たとえばハイブリッド自動車やLED照明、最近ではZEB(ゼロ・エネルギービル、つくるエネルギーと消費するエネルギーがプラスマイナスゼロとなるビル)などを早くから省エネ大賞として表彰し、普及の動きを後押ししてきました。LED照明については商品化された当初の2007年から表彰をおこなっています。
「省エネ管理技術・手法の開発と現場での活用」というのは、主に中小企業などに対する診断事業やコンサルティングサービスです。①企業のトップ以下、どのような社内体制で省エネに取り組んだらよいか ②現場において省エネポテンシャルをどう見つけるか ③設備の運用や新たな投資など、短期的・長期的にどのような対策を実施したらよいか ④対策による改善効果を評価し、その後の省エネ活動にどうつなげるかという①〜④のPDCAサイクルについて、きめ細かなアドバイスをおこなっています。また最近、エネルギーフローをすみやかに把握・分析するIoTツールを開発し、より効果的なコンサルティングに役立てています。「省エネ人材の育成」にも力を入れています。省エネを効果的におこなうには、省エネ活動を企画し組織的に展開できる人材や、設備の維持管理をおこない、その性能をひきだす知見や技能を持つ人材が不可欠だからです。“暗黙知”となりがちな知見や技能を、事例紹介やマニュアル、ツールの形で“形式知”に転換し、教育プログラムとして普及を図っています。また、国家資格である「エネルギー管理士」の試験や、当センター独自の検定の実施を通じて、エネルギー管理を指導できる人材を育てています。
2度のオイルショックを乗り越えた日本は、世界トップレベルの省エネ先進国です。この知見を海外にも普及すべく、設立当初からこれまでに約100カ国を対象に、「国際協力の推進」もおこなってきました。近年の事例では、中国、ベトナム、インドなどで省エネ政策・制度が制定・改正された際に助言をおこないました。その結果、各国で日本と同様のエネルギー管理手法が採用されるにいたっています。また、ASEAN地域では省エネの専門家を育てるトレーナーを養成することで、省エネ人材の育成を支援しています。日本の高い省エネ意識・技術・制度は、諸外国に驚きとともに受け入れられ、多くの学びを提供しています。また、当センターが果たしている役割に、「省エネ政策への協力」があります。日本の省エネ活動の基盤となっている法体制が「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)」ですが、その中では設備や運用の判断基準(省エネガイドライン)が定められており、事業者にその遵守を求めています。この判断基準があるからこそ省エネが進むという側面があるのです(「時代にあわせて変わっていく『省エネ法』」参照)。当センターは、この判断基準を時代の要請に合うように改正するため、基礎情報の整理などのサポート業務をおこなっています。また、政府の政策の一環である「中小工場・ビル向け無料省エネ診断」も、これまでに20,000件ほど実施し、省エネ提案をおこなってきました。
—後編では、生産やサービス活動の現場で実際におこなわれている省エネの成功事例や、温室効果ガス削減の高い数値目標が掲げられた2030年、2050年に向け「省エネにできること」について、うかがいます。
長官官房 総務課 調査広報室
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