【インタビュー】「まだまだ残っている、省エネのポテンシャル」―奥村 和夫氏(後編)

奥村 和夫氏

省エネルギーセンター専務理事の奥村和夫氏のインタビュー。前編「省エネは、快適な暮らしと合理的な生産方法を実現する手段」 に続き、後編では、生産やサービス活動の現場で実際におこなわれている省エネの成功事例をうかがいます。さらに、温室効果ガス(GHG)削減の高い数値目標が掲げられた2030年、2050年に向けて「省エネにできること」についてうかがいます。

「省エネ大賞」表彰企業に学ぶ

―省エネルギーセンターが主催している「省エネ大賞」は、一般消費者からするとエアコン、冷蔵庫、照明器具などの家電製品がまず頭に浮かびますが、そうした製品以外にも、すぐれた省エネ活動を表彰しているそうですね。表彰された事例について、お聞かせいただけますか?

奥村 「省エネ大賞」で表彰された省エネ活動には、現場での課題とそれに対する工夫があらわれており、示唆に富んでいます。「省エネ法」のガイドラインをベースにしつつ、独自の工夫を加えたり、発想を転換してみたりすることで、さらなる省エネ効果を生み出しているのです。いくつかの表彰事例を紹介しましょう。

1つ目は、東京都墨田区にある自動車部品の金型製作会社の例です。「これからの時代のモノづくりは、地球環境へ配慮が求められる」というオーナーの強い信念のもと、従業員20人が全員参加で省エネを推進しています。具体的にはコンプレッサ、エアコン、事務所の設備などが更新され、社員のアイデアで設備を効率的に運用しています。年間の削減目標も設定し、月次で数値を把握、目標が達成できなければ原因究明と対策を徹底し、活動を継続させているそうです。中小企業では、省エネ意識があまり高くなかったり、意識はあるもののどこから着手すればよいかわからない、費用対効果が気になる、忙しく着手できない……などの理由から、省エネがなかなか進まない実情があります。しかし、中小企業でもトップのリーダーシップがあれば省エネ活動を展開できる、という良い事例です。

2つ目は、東京都に本社のある大手電子部品メーカーの例です。大企業の場合、省エネ体制は整っているものの、さまざまな理由からなかなか機能していないというケースがあります。この企業でも、生産部門は品質や納期に責任を持とうとするためにエネルギーを多く使う傾向があり、一方エネルギー供給部門(ユーティリティ部門)ではそれを正確に把握できなかったり、生産部門に配慮したりして、結果的に必要以上のエネルギー使用を見過ごしているという問題を抱えていました。しかし、トップが両部門の連携をうながすことで、工場内のクリーンルームの空調を必要最小限のエネルギー運用に変えることなどを実行し、大きな省エネ効果を得ることができました。部門の垣根を取り除き、スムーズな意思疎通ができるようにすることで、事業所全体の省エネを加速させた事例です。

先の2つの事例は組織や体制の話でしたが、技術の進歩に省エネポテンシャルを見いだした事例もあります。たとえば、ある自動車メーカーでは、新たな塗料を開発したことで塗装工程の一部を省略することに成功し、省エネと汚染物質の排出削減を両立させました。また、業務用ビルのリフォーム時に、空調・湿度調整・換気・照明を一体で管理するシステムを提案する企業もあらわれています。これまで、業務用ビルの空調はオーバースペックであることが多く、省エネの余地が残っていました。これをリフォームによってZEB(ゼロ・エネルギービル/つくるエネルギーと消費するエネルギーがプラスマイナスゼロとなるビル)に近い状況にすることができる技術で、こうした技術が登場したことは喜ばしいことです。

奥村 和夫氏

産業界からは、時折、「省エネはもうやりつくした」との声が聞こえてきます。しかし表彰企業の努力を見ていると、まだまだポテンシャルはあるのだと気づかされます。私たち省エネルギーセンターとしては、表彰企業の好事例が他社を刺激する材料になり、連鎖反応で省エネが推進されることを期待しています。

―そのほか、現場でできる有効な省エネ対策はありますか?

奥村 地道な努力ではありますが、やはり日々変化する生産やサービス活動の実態に合わせて設備・機器の設定が最適になるようチューニングすること、さらにはチューニングの結果をマニュアル化して、だれもが継続的に運用できるようにすることが重要です。また、設備・機器の適切な保守は省エネのみならず、生産性の向上にも効いてくるはずです。

温室効果ガス削減に向け、省エネにできること

―インタビュー前編「省エネは、快適な暮らしと合理的な生産方法を実現する手段」で、省エネはGHG削減の切り札になるとのお話がありました。2030年、2050年のGHG削減目標達成に向け、省エネができることは何だとお考えですか。

奥村 政府は、2030年度までに最終エネルギー消費を2013年度に比べ原油換算で5,030万kl程度削減する目標を立てています(「時代にあわせて変わっていく『省エネ法』」 参照)。これを達成するには、お話したような現場の工夫を、産業から家庭まで、さまざまな場で草の根的に展開し、成果を積み上げていくことが重要です。

また、その際は、システマティックな視点を導入することがポイントになります。工場においては、個々の設備だけでなく生産システム全体で、サービス業においてはビジネスモデル全体で、ビルにおいては周辺区画全体で…という風に、IoTやAIなどのテクノロジーも活用しながらシステマティックに対策を検討すると、効果が最大限に引き出せるものと考えます。

さらに2050年度に向けては、GHGを2013年度比80%削減するという高いハードルが設定されています。この目標達成に向けては、これまでの取り組みの延長線上にはないイノベーションに挑戦することが不可欠です。たとえば、産業部門の中でもCO2排出量が多い製鉄プロセスにおいては、水素を使うことでCO2排出量の削減をはかる「水素還元製鉄」という超先端技術に期待が寄せられており、実用化が待たれます(「水素を使った革新的技術で鉄鋼業の低炭素化に挑戦」 参照)。

また、すでに実用化された技術、あるいは近々実用化される見込みの技術の中で、省エネやCO2削減について革新性を持ち、かつ普及効果がおおきいものにも着目する必要があります。たとえば、化学工業は日本の産業におけるエネルギー消費量の約4割を占めていますが、その中でも、化学物資を分離したり精製したりする「蒸留プロセス」に約4割のエネルギーが使われています。この部分をどうやって省エネ化するかが、長年の課題でした。

奥村 和夫氏

しかし、つい最近、蒸留プロセスを効率的におこなうことができる省エネルギー型のシステムが実用化されました。蒸留をおこなう「蒸留塔」内部での熱交換を効果的におこなう技術や、蒸留プロセスで発生する熱を「ヒートポンプ」を適用して効果的に回収して利用する技術により、これまでのプロセスに比べてエネルギー消費を50〜60%程度削減できるため、普及が進めばきわめておおきな効果が発揮されると期待されています。

もうひとつ、普及効果がおおきい省エネとして、工場などで熱を搬送する際に使われる配管からの熱ロスの増加を防止する技術が登場しています。屋外にある蒸気などの熱搬送用の配管は、老朽化やメンテナンス不足によって、水分の侵入などにより断熱性能の劣化が進みます。その防止のためにはリプレイスが必要とされますが、コストがかかることから、なかなか進んでいません。しかしこれを放置すれば、せっかく作った熱エネルギーにロスが生まれてしまいます。そこで、大規模な改修を必要とせず、既存の配管の上から巻きつけるだけで水分を含んだ断熱材の機能も回復できるという高機能部材が開発されました。工場やビルでは熱を搬送する配管がいたるところで使われており、そこからの熱ロスは無視できない量になっています。そのためこの技術の普及が進めば、大幅な省エネにつながるでしょう。

2030年、そして2050年へ向けては「徹底した省エネ社会の実現」をはかっていく必要があり、当センターとしては引き続き、みなさまの役に立つ省エネ推進活動を最大限実施していきたいと思います。

―省エネにはまだまだポテンシャルがあるということがわかりました。ありがとうございました。

プロフィール
奥村 和夫(おくむら かずお)
1955年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、1978年に通商産業省入省。中小企業庁調査課長、資源エネルギー庁新エネルギー対策課長、内閣官房内閣参事官、特許庁秘書課長、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)総務部長、中国経済産業局長、日本貿易振興機構ニューヨーク・センター所長を経て、2008年に財団法人省エネルギーセンター専務理事に就任。その後、2012年に同センターの一般財団法人への移行に伴い、一般財団法人省エネルギーセンター専務理事となる。

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