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ガスは、化石燃料の中では温室効果ガス(GHG)の排出が比較的少なく、供給の安定性も高く、バランスのとれたエネルギーと言われています。その特徴や歴史的背景、課題などについて、日本ガス協会会長の広瀬道明氏にうかがいました。前編・後編の2回でお届けします。
—ガスは現代のくらしや産業に不可欠なエネルギーです。改めてその歴史を振り返り、ガスが果たしてきた役割を教えていただけますか? 広瀬 日本で都市ガス事業がスタートしたのは、明治5年(1872年)のことです。横浜の馬車道通りにガス灯が灯ったのがはじまりで、文明開化の象徴でもありました。それ以前は、夜道を歩くときは提灯で足元を照らしていたのですから、道路全体を明るく照らすガス灯の登場はおおいに人々を驚かせたといいます(「【日本のエネルギー、150年の歴史①】日本の近代エネルギー産業は、文明開化と共に産声を上げた」参照)。しかしその後、技術革新によってガス灯より明るい電灯が登場すると、街灯は電気に取って代わられるようになりました。そこで、ガスの用途は、光源から熱源や動力源へとシフトしました。ガスと言って一般的にすぐに思い浮かぶのは給湯器や調理用ガスコンロですが、燃焼性にすぐれ、取り扱いも容易な都市ガスは、産業分野や業務用分野のガスボイラー、ガス工業炉などにも多く使われています。また最近では、国際的な船舶の排出ガス規制の強化を受けて、液化天然ガスを燃料とする船舶も増えています。 さらに、ガス単独の用途にとどまらず、ガスから複数のエネルギーを生み出すことで近年注目を集めているのが、「ガスコージェネレーション(ガスコジェネ)システム」です(「知っておきたいエネルギーの基礎用語~『コジェネ』でエネルギーを効率的に使う」参照)。ガスコジェネとは、都市ガスやLPガスなどを燃料として、エンジンやタービン、燃料電池といった装置で発電するとともに、このとき発生する熱を回収して給湯や冷暖房に使うという効率性の高いシステムです。よく知られている「エネファーム」も、家庭用燃料電池を使用するガスコジェネです。エネルギーをより有効活用できるうえ、「停電対応型」であれば、自然災害などによる停電時にも発電が可能であり、エネルギーの安定供給に役立ちますので、今後さらなる普及推進をめざしています。約150年の歴史の中で、ガスは常にほかのエネルギーと競争し、さまざまな革新を通じてガスの用途を変遷させる一方で、ガスの原料そのものも時代とともに変わってきています。ガス事業がはじまった当初は、石炭を蒸し焼きすることでガスを発生させていました。それが1960年代になると、石炭より安価な石油系のナフサがいったんはガスの原料の主役になりました。しかし、石炭や石油には大気汚染という問題がついて回り、石油には地政学的なリスクもあります。そのため、次の原料はクリーンであると同時に、将来的に安定した供給が見込めることが条件になりました。そこで白羽の矢が立てられたのが、メタンを主成分とする天然ガスです。このような経緯があり、現在はマイナス162度で冷却し液化した天然ガス(LNG)が、都市ガスの主原料になっています。ちなみに2019年は「LNG導入50年」という節目の年にあたり、1969年11月4日にアジアで初めてのLNGを米国アラスカ州から受入れた横浜で、2019年11月に記念行事をおこなう予定です。
—ほかのエネルギー資源と比べて、ガスにはどのような特徴があるのでしょう?
広瀬 日本でガス事業が始まってから約150年の間、ガスはほかのエネルギー資源との競争の中で技術を磨き、革新を生み出してきました。ガスはLNGを主原料にしたことで「環境性」「供給安定性」「経済合理性」の平均点が高く、バランスのよいエネルギーになりました。なぜ、これらの点ですぐれているのかを説明しましょう。まず「環境性」ですが、天然ガスを液化する際に不純物を取り除いたLNGは、燃焼時のCO2排出量が石炭の約6割、窒素酸化物(NOx)は石炭の約2~4割と低くなっています。硫黄酸化物(SOx)は排出ゼロ、ばいじん(ススや燃えかす)もほとんど発生しません。それゆえ、化石燃料の中ではもっともクリーンなエネルギーです。「供給安定性」については、天然ガスは埋蔵量が豊富で世界各地で産出されるため、石油のように国際情勢の影響を受けるリスクが低く、安定的に入手することができます。現在、日本の主な輸入元はオーストラリアや東南アジアで、そのほかはロシア、中東、アメリカなどです。LNGは気体の状態と比べて体積が1/600と小さくなるため、大量輸送・大量貯蔵が容易というメリットもあります。「経済合理性」については、世界的に取引量が拡大し、取引形態が多様化する中で、価格体系も柔軟化してきました。今後とも経済合理性を高める努力を続けていきます。こうした特徴から、LNGは日本のエネルギー需要と温暖化の抑制に貢献しています。
—国内の供給体制として、都市ガスとLPG、2種類の供給方法があるのはなぜですか?また国内の安定供給のリスクとしてはどのようなことが挙げられますか?広瀬 パイプラインでガスを供給する都市ガス事業と、プロパンガスボンベを個別にお客さまに配達するLPG事業の2つがあるのは、経済合理性によるものです。パイプを地下に埋設するにはコストがかかるため、都市ガスは需要が多くあることではじめて採算がとれます。需要がそれほど多くない都市部以外では、LPGの方が経済合理性にかなっています。今後も日本では2つのガスが並立して継続するでしょう。ただし、両事業で共有できる安全装置や燃焼技術などについては、協力体制を敷きながら一緒に取り組んでいます。国内の安定供給で最大のリスクとなるのは、なんといっても地震です。それを思い知らされたのは1995年の阪神・淡路大震災でした。特に、地中にガス管を埋設する都市ガス事業は大きな被害を受けました。それ以来、都市ガス業界は対策を強化し、「設備対策」「緊急対策」「復旧対策」の3本柱で地震に備えています。どのような対策か、詳しく説明しましょう。
まず「設備対策」について。阪神・淡路大震災時のガス関連被害のほとんどは、各家庭や事業所につなぐ「低圧導管」と呼ばれる細い管の継ぎ目からのガス漏れが原因でした。そこで耐震性を高めるために、低圧導管を鋳鉄製からポリエチレン製への切り替えを加速してきました。次に、地震発生時の「緊急対策」としては、揺れの大きかった地域のガス供給を停止することによって二次災害の防止に努めています。その際、ガスの供給エリアをあらかじめ細かく分割することで、供給停止エリアを必要最小限にとどめる対策もとっています。3つ目は「復旧対策」です。大規模地震でガスの製造・供給がストップした場合は、可能な限りすみやかに復旧作業をおこなうため、全国のガス事業者が救援に向かう体制を整えています。阪神・淡路大震災以降に起こった5つの大きな震災では、数千人規模の応援を派遣する「復旧対策」を実施し、導管や敷地内配管の修繕、開栓作業などの迅速化を図ってきました。特に近年は、より早期の復旧やタイムリーな情報発信への社会的要請がいっそう高まっています。2018年の大阪北部地震では、11万戸の復旧を1週間で完了させましたが、今後も都市ガス業界として迅速かつ柔軟に動けるよう改善を積み重ね、社会からの期待にこたえていきたいと思います。このように、災害時に全国のガス事業者が一丸となって支援するのは、ガス業界の中で長年つちかわれた伝統です。2年前のガス自由化(「実施から1年、何が変わった?ガス改革の要点と見えてきた変化」参照)で新規参入した事業者にも、この伝統は受け継がれており、ガス協会としても心強く思っています。くらしや産業に対して安定供給を続けることは、ガス事業最大の使命であります。われわれは、「安定供給」を、めざすべき最大の価値とし、その大前提としての「安全」も含めて、今後も追求していきたいと考えています。—ガス業界を取り巻く環境は、地球温暖化問題への対応、米国のシェールガスの台頭、ガス小売全面自由化が重なり、大きく変化しています。これらを受けてガス事業の今後の展望をどのようにとらえているのか、後編でお考えをうかがいます。
長官官房 総務課 調査広報室
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