【インタビュー】「国際競争力を高めつつ、安定供給を維持するために 」-月岡 隆氏(後編)

月岡 隆氏

石油連盟会長の月岡隆氏のインタビュー。前編「可搬性・貯蔵性に優れた石油は、エネルギー供給の“最後の砦”」に続き、後編では石油をめぐる世界の動向と日本の立ち位置、さらに2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」(「今さら聞けない『パリ協定』~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」参照)や、持続可能な開発目標「SDGs」と石油に対する見解をうかがいます。

資源に乏しい国・日本がとるべきポジションとは

―海外の動向にも詳しい月岡会長におうかがいしたいのですが、近年グローバルな石油情勢にはどのような変化があるのでしょうか。また資源の乏しい日本は、世界の中でどのようなポジションをめざすべきなのでしょう。

月岡 石油というのは、世界の政治経済の動向を左右する重要な物資であり、先の中東で起こった日本のタンカーに対する攻撃を受けての各国の動向から伺われるように、その安定供給の確保はすべての石油消費国にとって最重要な命題です。今回の事態については、いますぐに日本への安定供給に支障をきたすものではありませんが、引き続き中東エリアのリスクが高いことを示しており、注視していかなければなりません。万が一のリスクにそなえ、日本には現在200日分以上の石油の備蓄があります。石油各社としてはそれぞれ、船会社と安全航行の確保のために情報共有と対策の検討を進めるとともに、政府とも連携して対応していくつもりです。

また、国家的な立場から見ても、石油は国力にも影響をおよぼす“戦略商品”であり、産油国はいわば石油という“外交カード”を持っているわけです。ちょっと前まで石油輸入国だったアメリカは、シェールオイルやシェールガスの技術開発で産油国の仲間入りをはたし、今やOPEC(石油輸出国機構)のシェアをおびやかすほどになっています(「2018年5月、『シェール革命』が産んだ天然ガスが日本にも到来」参照)。しかし、一方では緊急時にそなえて自国産の石油を温存しておきたいという思惑もあるようで、最近は価格をにらみながら輸出と輸入のバランスを探っています。このように勢力図が変化する中で、OPEC側にも将来にわたって継続的に安定した販売先を確保したいという考えが出てきました。

こうした世界情勢の中で、資源に乏しい国である日本がエネルギーの安定的な確保のためにとれる手段は4つあります。1つは従来からおこなってきたように、製造業などの技術で外貨を稼ぎ、その経済力で産油国から石油を買う手段。2つ目は、石油・天然ガスの上流開発(資源開発・生産の段階)において、日本企業の自主開発(自国の資金や技術を使って資源を開発し、生産・販売などの権限を得ること)の比率を2030年までに40%に高める取り組み。3つ目は太陽光発電、風力発電、地熱発電など、自国内でのエネルギー開発の推進。そして4つ目は、産油国やこれから石油需要が伸びるアジアの消費国と日本との連携です。

4つ目の取り組みは、たとえば官民で推進しているアブダビ、サウジアラビアの国営石油会社に鹿児島・沖縄のタンクを貸与する産油国共同備蓄や、ASEAN諸国に対する石油備蓄制度構築あるいは相互融通などの対アジア備蓄協力。さらに、アジア地域に日本の高度な技術で製油所を建設・運転するプロジェクトもこれに当たります。

これは、安定した販売先を確保したいOPEC諸国、自国内に製油所を持ち石油化学製品の生産もふくめて産業のすそ野を広げたいアジアの消費国、精製する原油を優先的に輸入できるカードを持ちたい日本の三者がWin-Win-Winの関係を築くプロジェクトといえます。その土台には、長年つちかった日本と産油国のゆるぎない信頼関係があります。資源はないが技術は持っている日本の、今後の重要な選択肢のひとつといえます。

―日本における石油製品の需要は1999年の約2億4600万㎘をピークに、2017年には1億7500万㎘まで落ち込んでいます。そのような状況でも、石油の安定供給に向けたたゆまぬ努力が必要、ということでしょうか?

月岡 隆氏

月岡 その通りです。日本国内の環境変化だけを見て判断するのはまちがっています。世界に目を向ければ原油・エネルギー需要は伸びており、国際競争は激しくなっています。ですから、国際競争力を高めながら日本のエネルギーの安定供給にも貢献できるという発想で、アジア市場をはじめとする世界の石油市場で生き残っていかなければなりません。また官民をあげて産油国との信頼関係をいっそう強化し、これをベースにした供給ルートを確保することは非常に重要です。

かつて13社あった日本の石油元売会社が3グループにまで集約されたのは、国際競争力を高めるという意味で望ましい姿です。世界のオイルカンパニーを見渡せば、産油国ではすべてが国営会社ですし、非産油国でも準国営です。あるいは、民間企業であっても、国を代表する巨大企業がしのぎを削っています。日本の石油会社はいっそうの高度化・効率化に向けて、たゆまぬ努力によって国際競争力を高め、巨大企業がひしめく世界の石油市場で肩をならべて戦い抜かなければなりません。そして、その中で得られた収益を、新たな技術開発など将来への前向きな投資に振り向けることが、日本の石油業界の持続可能性を高め、エネルギー安定供給の実現につながります。

現実への対応の積み重ねこそが、未来の「脱炭素化」への近道

―前編「可搬性・貯蔵性に優れた石油は、エネルギー供給の“最後の砦”」で月岡会長は、石油業界にはアゲインストの風が吹いているとおっしゃっていました。パリ協定やSDGsなどではCO2の排出に厳しい目が向けられ、電気自動車(EV)の普及も見込まれています。石油連盟としては、どのような見解をお持ちでしょうか。

月岡 パリ協定やSDGs(持続可能な開発目標)が時代の要請なのはよく理解しており、地球温暖化問題や廃プラスチック問題などには真摯に取り組むべきだと認識しています。ですから、電源(電気をつくる方法)の構成の中で、再生可能エネルギーのシェアを増やそうとするエネルギー基本計画にも賛成です。しかし、「何が何でも石炭・石油は認めない」というような極端な論調には異議をとなえたい。たとえば、現在も世界の発電の約40%は石炭になっており、これを今すぐゼロにしたら、世界経済も人々の生活も成り立たなくなってしまいます。

「過去」と「未来」をつなぐ「今」のエネルギー政策をどう整理すべきか。ここからスタートしなければ議論は進みません。現実に対応しながら、理想の形にもっていく努力をすべきなのです。現実への対応というのは、たとえば石炭火力発電でも使えてCO2排出量を液化天然ガス(LNG)発電並みに減らすことのできる「ブラックペレット(半炭化ペレット)」のような「バイオ燃料」の開発など、今すぐCO2をゼロにはできなくても、少しずつでも温暖化を遅らせることのできるイノベーションを開発・活用するというようなことです。また、日本の技術で減らした海外のCO2排出については、日本の貢献分として日本の排出量から差し引きするよう主張することも必要です。

電気自動車(EV)の普及に関していえば、災害の多い日本では電動オンリーのEVよりも、燃料で起動し、走っている間に蓄電池に電気を貯めるハイブリッド自動車(HV)や、バッテリーへの外部充電機能を加えたプラグインハイブリッド自動車(PHV)のほうが、実情に適しているのではないかと感じています。そう思うようになったきっかけは、2011年の東日本大震災です。

電気が途絶えた中でも、自動車さえ動かすことができれば、夜間の照明や携帯電話の充電、暖房、ラジオやテレビの視聴が可能だと、あのとき気づいたのです。マイカーは、いわば各家庭に備わった発電機のようなもの。そう考えると、EVは内部に溜めた電気を使い切ってしまえば、電力供給が復旧しない限りは充電ができず、使用できません。そのような災害時のことまで想定すると、災害の多い日本では、可搬性・貯蔵性に優れた分散型エネルギーである石油燃料が使えるハイブリッドタイプのほうが、役立つ機会が多いのではないかと考えています。

月岡 隆氏

最後に繰り返しになりますが、災害などで電力・ガスの系統が断たれた際にも、エネルギー供給が可能なのは、可搬性・貯蔵性に優れた石油です。災害の多い日本でのエネルギーの安定供給を果たす責任がある立場にいる私たち石油連盟としては、皆さんにていねいに石油の必要性を説明していかなければならないと感じています。

―ありがとうございました。

プロフィール
月岡隆(つきおか たかし)
石油連盟 会長。1951年生まれ。1975年出光興産株式会社に入社。執行役員需給部長、取締役需給部長、常務取締役(兼)常務執行役員経営企画部長を経て、2012年取締役副社長。2013年代表取締役社長。社長時代に昭和シェル石油との経営統合など改革を進める。2018年、同社代表取締役会長、石油連盟会長に就任。

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