【インタビュー】「先進技術で石炭のゼロエミッション化を目指し、次世代のエネルギーに」−北村 雅良氏(後編)

北村 雅良氏

石炭エネルギーセンター(JCOAL)会長、北村雅良氏のインタビュー。前編「安定的で安価な石炭は今も重要なエネルギー源、技術革新でよりクリーンに」に続き、後編では、石炭に関するCO2削減のための新技術や、海外で取り組む大型プロジェクトなどについてうかがいます。

すでに始まっている「クリーンコール」革命

―前編では、石炭火力発電の課題は「CO2排出量」にあり、そのためには「効率化」と「CO2排出の抑制」が必要だとのお話がありました。具体的にはどのような方法があるのでしょうか。

北村 まず発電の効率化からお話ししましょう。当センターは、170あまりの会員企業を抱える団体で、各種の情報収集と広報発信、調査研究などの事業のコーディネーションをおこなってきました。石炭火力発電の高効率化にも、さまざまな方法でチャレンジしています。

火力発電では、1990年代後半から、石炭を燃焼させてつくる蒸気を従来よりもさらに高温・高圧にして発電する「超々臨界圧発電(USC: Ultra Super Critical)」という技術を導入しています。熱効率が43%(送電端効率HHV※:40%相当)と高いため、従来にくらべて同じ量の電気を作るための燃料の使用量が少なくて済み、その分CO2排出量も少なくて済むのが特徴です。たとえば、電源開発株式会社(J-POWER)が運営する横浜市の磯子火力発電所がそうです。ここは世界最高水準の高効率の石炭火力発電所として知られ、ばいじん、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)も大幅に処理しており、天然ガス火力発電と同じぐらいクリーンになっているのです。煙突から煙が見えないので、訪れた方は一様に驚かれます(「なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?~2030年度のエネルギーミックスとCO2削減を達成するための取り組み」「国によって異なる石炭火力発電の利活用」参照)。

このように、日本の今の石炭火力発電所は、高効率のプラントへのリプレースが進んでおり、従来のイメージとは全く異なっています。USCをさらに進めた「先進的超々臨界圧発電(A-USC: Advanced-USC)」も2020年以降に実用化の見通しで、成功すれば熱効率は50%近く(送電端効率HHV※:46%相当)に上がります。

北村 雅良氏

一方、石炭をガス化して利用する「石炭ガス化複合発電(IGCC: Integrated Coal Gasification Combined Cycle)」という技術も開発が進んでいます。ガスタービンと蒸気タービンのダブルで発電するしくみで、広島県の「大崎クールジェンプロジェクト」では、IGCCの実証試験を2017年から開始し、順調に試験目標をクリアしています。2019年3月からは、ガスタービン、蒸気タービンに加えて燃料電池まで組み合わせたトリプル複合発電「石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC: Integrated Coal Gasification Fuel Cell Combined Cycle)」という次世代技術の実証事業にも着手しており、2030年以降に実用化していく計画です。これによって熱効率60%近く(送電端効率HHV※:55%相当)を達成できる見込みです。

こうした先進技術は、もともとは化石燃料などの資源に乏しい日本で、輸入に頼らざるを得ない石炭を少しでも効率的に使おうという省エネ技術として開発されたものでした。結果としてそれがCO2削減にもつながっています。

さらに、大崎クールジェンプロジェクトでは、CO2を分離し回収するという技術も組み合わせ、実証試験をおこなう予定です。分離回収したCO2については、CO2を地下深く貯留する「CO2回収・貯留技術(CCS: Carbon dioxide Capture and Storage)」や、CO2を資源として有効利用する「カーボンリサイクル」も含めた「CO2回収・有効利用・貯留技術(CCUS: Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」に取り組む必要があります。すでに北海道苫小牧市でCCSの実証試験が実施されています(「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる『CCUS』」参照)。

石炭利用のゼロエミッション化を目指すには、こうした「革新的クリーンコールテクノロジー(Innovative CCT)」を創出することが必須であり、次の技術、次の技術と切れ目なく技術革新をしていくことが肝心です。

前編でお話したように、地球上には石炭に頼らざるを得ない国も少なくありません。その際に、発展途上国では、採算面などから低効率な安い発電プラントを使ってしまうことが往々にして起こります。しかし、そこでもっとも高効率なプラントを使うことができれば、広く地球環境保全への貢献になるはずです。資源に乏しい日本は、資源を効率よく活用できる技術開発をたゆまず続けてきたため、世界最高水準の先進技術を獲得しています。これからはそうした環境性能の高いプラントをファイナンス面の支援とセットで海外にも提供することが、私たちの役割だと自負しています。

毎年9月5日の「石炭の日」には、記念事業の一環として「クリーンコールデー」という国際会議とイベントを開催し、国内外の石炭に関する情報発信や、関係機関や企業の交流を図っています。

HHV…高位発熱量。ある燃料を燃焼した時に発生するすべての熱量。燃焼にともなって発生する水蒸気が水に変化する蒸発熱も含む

石炭からカーボンフリーの新エネルギーを生み出す試み

―技術開発の面では、水素利用に向けた新しいプロジェクトにも取り組んでおられますね。

北村 雅良氏

北村 はい。当センターは近年、組織、定款を変えて、石炭だけでなく、バイオマスを含む再生可能エネルギーや、水素や天然ガスなど各種エネルギーも対象に、具体的なビジネス展開につなげる取り組みを始めています。

水素については、現在、もっとも多く石炭を日本に提供しているオーストラリアと連携し、大型プロジェクトを推進しているところです。両国は「日豪経済委員会」といった経済活動や、エネルギー関連の会議も毎年交互に両国で開かれているなど、密接な関係にあります。

同国のビクトリア州は、「褐炭」(水分の多い石炭)を豊富に産出します。褐炭は地表近くにあるので、採炭コストが低減できるという特徴がありますが、石炭の中でも水分含有量が高く熱量も低く、発火もしやすいので輸出には不向きな燃料です。そのため、これまでは地元の発電所で燃やすぐらいしか利用法がありませんでした。そこで私たちは、現地で褐炭をガス化して「水素」に変え、それを液化して日本に運ぶという提案をしたのです。すると、オーストラリア連邦政府もビクトリア州政府も「水素製造という新たな産業と雇用の創出につながる」と乗ってきました。

水素は、家庭用燃料電池や燃料電池自動車などに使われており、今後も幅広い活用が期待される資源です。安価な褐炭からつくった水素を日本に運んでくれば、これまでより安く大量に水素が提供できます。将来的に水素を製造する過程で排出されるCO2を分離回収して地中に貯留すれば、石炭を原料にしていながらカーボンフリーな水素となるのです。このプロジェクトはまだ検証段階ですが、成功すれば温室効果ガス削減に大きく貢献できる革新的な技術となります(「石炭が水素を生む!?『褐炭水素プロジェクト』」参照)。

―とても画期的なプロジェクトですね。

北村 褐炭のガス化と水素製造にはJ-POWERが、液化水素を運ぶ専用船および液体水素荷役基地は川崎重工株式会社、岩谷産業株式会社、シェルジャパン株式会社が担当しています。現地で広大な褐炭田を保有し火力発電をおこなっている地元企業、AGLエナジーも参加しています。

オーストラリアは資源国ですが、これまではもっぱら資源を掘って売るだけに業態が限定されていました。しかし、このプロジェクトが始動すれば現地で製造業を興すことができ、新しい雇用が生まれます。そして、高付加価値品としての水素を国内外で販売することができるのです。

私も現場となるビクトリア州の褐炭田を訪れたのですが、ただただ驚きました。地平線の向こうまで、土がむき出しになっている荒涼とした土地が広がっており、発電所は建っているものの、私たちが発電所で普段見る貯炭サイロ(石炭を貯めておく施設)のような建造物は見当たらないのです。「貯炭場はどこですか」と尋ねたところ、「これはみんな貯炭場ですよ」との答えでした。つまり、目の前にある広大な土地すべてが褐炭であり、それを露天掘りして、ベルトコンベアで発電所に運び込んでいるというのです。「石炭を掘る」と言われて思い浮かべる、狭い坑道を掘り進んでいくような炭鉱のイメージはおおきく覆されました。「いったい何年分くらいあるのですか」と埋蔵量をたずねたところ、「日本の総発電量にして240年分ぐらいではないか」と言われ、さらに驚いたことをよく覚えています。

また、オーストラリア政府の支援によって、分離回収したCO2を貯留するCCSも近く実施される計画があります。CCS実施に向けた準備はこれからですが、CCSの可能性があるとわかったことは、私たちにとってまたとない朗報となりました。

北村 雅良氏

石炭は時代遅れの燃料だというイメージがあるかもしれませんが、まったくそうではないのです。使い方を変えれば、石炭は次世代のエネルギーとしておおいに有用だということがいえるでしょう。

―次世代エネルギーとしての石炭という発想はとても斬新ですね。興味深いお話をありがとうございました。

プロフィール
北村 雅良(きたむら まさよし)
1947年、長野県で生まれる。東京大学経済学部卒業後、電源開発株式会社(J-POWER)に入社。企画部長、常務、副社長を経て、2009年6月、代表取締役社長に就任。2016年より、同社代表取締役会長。2015年、石炭エネルギーセンター(JCOAL)会長に就任。

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