成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(前編)どんな課題を解決するの?

イメージ画像

今、新たな経済のしくみとして世界的に注目されているのが「サーキュラーエコノミー(CE、循環経済)」です。資源を大切に使うための考え方としては「3R(リデュース、リユース、リサイクル)」が知られていますが、サーキュラーエコノミーは資源を効率的に循環させ、持続可能な社会をつくるとともに経済的な成長もめざす「経済システム」を意味します。その取り組みは、どんな意義があり、日本の経済や社会にどのような効果をもたらすのでしょうか。2回のシリーズ前編では、サーキュラーエコノミーとは何か、その背景にある課題は何かについてご紹介します。

経済を成長させるサーキュラーエコノミー

これまで、廃棄物を減らし、資源をムダなく繰り返し使う取り組みとして、「3R」が推進されてきました。「3R」は地球にやさしい循環型社会を実現するための「環境行動」を表すキーワードとして、広く浸透してきた概念です。しかし、廃棄物や環境問題、資源枯渇の問題や世界的なESG投資の高まりなどグローバルな経済社会の変化を受けて、現在では「3R」よりさらに進んだ、持続可能な形で資源を最大限活用する「サーキュラーエコノミー(循環経済)」への移行をめざすことが、世界的な潮流となっています。

日本でも、2020年、サーキュラーエコノミーの実現をめざす経済戦略として「循環経済ビジョン2020」が策定されました。このビジョンでは、「環境活動としての3R」から、「経済活動としての循環経済(サーキュラーエコノミー)」への転換をはかるのが大きな特徴となっています。

「経済活動としての循環経済」とは、どういうことでしょうか?

従来の経済システムは、大量生産から大量消費、大量廃棄への一方通行でした。これを「線形経済」といいます。線形経済の場合、資源や環境に大きな負荷がかかり、将来的に資源の枯渇などのリスクがあります。

大量生産から大量消費、大量廃棄への一方通行である従来の経済システムについて、図で示しています。

一方、「循環経済」は、生産段階から再利用などを視野に入れて設計し、新しい資源の使用や消費をできるだけ抑えるなど、あらゆる段階で資源の効率的・循環的な利用を図りつつ、サービスや製品に最大限の付加価値をつけていくシステムです。これにより、持続可能な社会をつくるとともに、経済的にも成長していくことをめざしているのです。

製造したものを購入・使用し、リサイクルされるという循環経済のしくみについて、図で示しています。

この簡単な概念図だけ見ると、「3R」との違いがわかりづらいかもしれませんが、サーキュラーエコノミーは「経済活動」であることが大きなポイントです。下の図は、自動車産業を例に、従来の資源の流れとサーキュラーエコノミーの資源の流れを示したものです。図をよく見ると、サーキュラーエコノミーの循環の中には、シェアリングカーや再製造・再販売といった事業も含まれていることや、廃棄されていたものがリサイクルされ原料へと循環していることがわかります。サーキュラーエコノミーは、こうしたさまざまな取り組みにより、経済活動をおこないながらも資源投入量を抑え、廃棄物を出さないことをめざすものです。

自動車産業を例にした、従来の資源の流れとCEの資源の流れ
自動車産業を例に、従来の資源の流れとサーキュラーエコノミーの資源の流れの違いを図で示しています。

大きい画像で見る

企業が、経営戦略・事業戦略にこのようなサーキュラーエコノミーを組み込み、付加価値の高い循環型の製品・ビジネスをグローバル市場で展開することは、国際競争力を得られるとともに、企業の持続的かつ着実な成長も実現すると期待されています。

今、サーキュラーエコノミーが必要とされる理由

日本がサーキュラーエコノミーを推し進める背景には、さまざまな課題に対する危機感があります。大きく3つの観点から、その課題を見ていきましょう。

①資源制約・リスク(経済の自律性)

世界ではマテリアル(素材・原材料)の需要が増大していますが、将来的に資源は枯渇していきます。とりわけ金・銀・銅・鉛・スズなどは、2050年までの累積需要が埋蔵量を2倍以上も上回ると予想され、今後は価格も上がって調達がむずかしくなると思われます。

また資源の供給が特定の国・地域にかたよっていると、国際情勢によって供給がとだえる可能性もあります。近年の、中国によるレアアースの輸出制限のように、資源国の外交政策に左右されるケースもあり、特定国への依存度が高いと調達リスクが増大します。

②環境制約・リスク

日本はこれまで、大量の廃棄物を海外に輸出してきました。しかし、近年は、有害廃棄物の国境を越える移動やその処分を規制する「バーゼル条約」などによって、国をまたいだ廃棄物の移動が厳しく制限されるようになっています。一方、国内の廃棄物処分場にも限界があるため、資源循環によってリサイクル率を高めていく必要があります。日本の一般廃棄物のリサイクル率は19%ほどで、世界の中ではまだまだ低く、改善の余地があります。

OECD 各国の一般廃棄物の処理状況(2018年)
OECD 各国の一般廃棄物について、リサイクル・コンポスト化・エネルギーリカバリー・単純焼却・埋立をする割合がどの程度かを棒グラフで示しています。日本ではエネルギーリカバリーが大半を占めています。

(出典)OECD Data Explorerの資料をもとに経済産業省作成

大きい画像で見る

また、カーボンニュートラルの観点からも、資源循環は重要です。資源の循環を進めることで、材料の製造などにかかるCO2の排出も抑えることができます。たとえば、アルミ缶をつくるとき、新品の素材だけを使ってつくる(バージン製造)よりも、再生材を使ってつくるほうが、66%もCO2の排出を削減するポテンシャルがあります。

材料製造に係る二酸化炭素排出量比較
プラスチック、鋼材・アルミ缶などの金属、ガラスなどの材料製造に際し、バージン製造と再生材製造のCO2排出量の違いを棒グラフで比較しています。再生材製造によるCO2排出量のほうが少なくなっています。

(出典)環境省「3R原単位の算出方法」、公益財団法人日本容器包装リサイクル協会「ガラスびんの指定法人ルートでの再商品化に伴い発生する環境負荷調査と分析に係る業務報告書」などを参考に経済産業省にて作成

大きい画像で見る

③成長機会

サーキュラーエコノミーの市場は、今後、日本のみならず世界的に拡大していくと予想されます。そのため、サーキュラーエコノミーに対応していない製品は、世界市場から排除される可能性もあります。すでに欧州ではサーキュラーエコノミー関連の規制措置の導入が進んでいますし、米国ではAppleやMicrosoftといった先進企業が、競争力強化の一環として、再生材のみを利用した製品製造や、製品・包装から生じる廃棄物をゼロにするなどの取り組みを推進しています。サーキュラーエコノミーへの対応が遅れれば、成長機会を失うだけでなく、廃棄物処理を海外に依存しなければならなくなるかもしれません。

持続可能な社会と経済成長を両輪に

日本は国内資源に乏しく、多くのものを輸入に頼らざるを得ないため、①資源制約・リスクが常につきまといます。国内の資源循環システムを構築することは、こうしたリスクをできる限りコントロールし、自律的で強靭な経済成長につなげる狙いがあります。

また、②環境制約・リスクの観点からも、サーキュラーエコノミーは必要です。日本の温室効果ガス全排出量のうち36%を廃棄物関係が占めていますが、サーキュラーエコノミーによって廃棄物を減らせば、CO2削減やGX(グリーントランスフォーメーション)推進に貢献することができます。また、廃棄物の燃焼によって解消してきた最終処分場のひっ迫も、資源を循環させることで、GXと両立させながら解消することができます。さらに、新たな資源の使用を抑制することで、大規模な資源採取による生物多様性の破壊を抑える効果も期待できます。

さらに、③成長機会の点では、サーキュラーエコノミーの国内市場は、試算によると2050年に120兆円になると試算され、国際市場は2050年で25兆ドルにものぼると考えられています。資源や環境への対応を新たな付加価値とする製品やビジネスは、経済的にも重要なことです。

サーキュラーエコノミーの国内市場規模(日本政府試算)
サーキュラーエコノミーの国内市場規模について、2020年実績と、2030年・2050年の試算をグラフで比較しています。

サーキュラーエコノミーについては、以下でも特集を組んでお伝えしています。

次回は、サーキュラーエコノミー実現のために産官学で取り組むパートナーシップなど、政策や支援について紹介します。

お問合せ先

記事内容について

経済産業省 産業技術環境局 資源循環経済課

スペシャルコンテンツについて

長官官房 総務課 調査広報室

※掲載内容は公開日時点のものであり、時間経過などにともなって状況が異なっている場合もございます。あらかじめご了承ください。