CO2排出量削減に必要なのは「イノベーション」と「ファイナンス」

2019年10月9日に開催された「グリーンイノベーション・サミット」の写真

気候変動問題を解決しようと採択し、いよいよ2020年から本格的な運用フェーズに入った「パリ協定」(「今さら聞けない『パリ協定』~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」参照)。しかし、気候変動問題を取り巻く課題にはさまざまなものがあり、その解決のためには、政府、産業界、金融界、研究者など、あらゆる分野が協働することが必要です。特に必要となるのは、技術のイノベーションであり、それを支えるファイナンスです。そこで、2019年10月9日に開催された「グリーンイノベーション・サミット」など、各分野間の連携を強めるためのさまざまな国際会議が開催されています。気候変動問題の解決に向け、グローバルの舞台ではどのような連携が図られているのでしょうか?

「パリ協定」の目標達成にはこれまでにない技術の開発が必要

パリ協定では、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つ(2℃目標)とともに、1.5℃に抑える努力を追求すること(1.5℃目標)」が示されました。この目標を達成するには、今世紀後半での世界の温室効果ガス排出を正味ゼロにする必要があると述べています。

日本は、「2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指す」・「今世紀後半のできるだけ早期に脱炭素社会を実現することを目指す」という目標を掲げています。この目標を実現するためには、どのような取り組みが必要となるのでしょう?

現在の日本の温室効果ガスの排出起源、つまり温室効果ガスがどこから排出されているのかを前提に考えてみましょう。日本は「エネルギー転換部門」(石油などの一次エネルギーを電気・ガソリンなどの二次エネルギーに転換して使用する部門)「産業部門」「家庭・業務部門」「運輸部門」などから温室効果ガスをCO2換算で14.1億トン排出しています(2013年度確報値)。「80%削減」は、長期的なビジョンとして掲げているものであり、基準年が設定されているわけではありませんが、たとえば2013年を基準に考えてみると、80%の削減目標を達成するには、

リストアイコン 業務用や家庭用などすべての社会インフラをオール電化または水素利用などのエネルギーに入れ替えること
リストアイコン 運輸部門(自動車・電車・航空機・船舶など)のエネルギーをすべてゼロエミッションにすること
リストアイコン 発電を100%非化石にすること

これらの取り組みをしたうえでなお、

リストアイコン 産業分野では、農林水産業と鉄鋼産業・化学産業などしか温室効果ガスを排出することができない

このような水準になります。「80%削減」とは、それだけ野心的で高い目標なのです。

これを見ると、「80%削減」や「脱炭素社会の実現」という野心的な目標を達成するには、現在社会に導入されている技術だけでは難しいように感じられます。しかし、イノベーションが起こり、今すでに社会に導入されている技術とはまったく異なる、新しい技術が登場・普及したとするとどうでしょうか?もしそのような画期的な技術が登場・普及すれば、「80%削減」や「脱炭素社会の実現」という目標も、決して途方もない目標ではなくなるかもしれません。

また、日本のような先進国だけが「脱炭素社会」を実現しても、世界の地球温暖化を止めることはできません。下の図のように、温室効果ガスの排出量の3分の2は新興国が占めており、新興国のCO2排出削減なくして目標を達成することはできません。

各国別の二酸化炭素排出量シェア
各国別の二酸化炭素排出量シェアを円グラフで示しています。最も大きな割合を占めるのが中国の29.3%、その他の18.1%、米国の15.6%と続き、日本は3.7%です。

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しかし、国連気候行動サミットなどで、2050年のカーボンニュートラルにコミットした新興国であっても、そのほとんどが国連に長期的な排出量削減目標を提出しておらず、カーボンニュートラル実現への道筋は見えていません。一方、新興国の温室効果ガス排出量は、経済成長にともなって今後も増える見込みです。

そこで、経済成長と両立するような環境・エネルギーの技術革新が、これまで以上に求められるのです。たとえば、太陽光発電は日本が「サンシャイン計画」「ニューサンシャイン計画」などの技術開発を進めることで(「【日本のエネルギー、150年の歴史④】2度のオイルショックを経て、エネルギー政策の見直しが進む」参照)、2010年以降にコストが下がりました。その結果、新興国での普及が先進国を上回る勢いで進んでいます。

新興国も含めた世界全体でCO2削減を進めるためには、このような、「非連続」、つまり現在の価値観や概念とはまったく異なる革新的なイノベーションを起こすこと、さらにはそのコストを低減し社会への普及を進めていくことが必要です。

そのため、世界の研究者などの英知を結集すること、また研究開発やその普及を支えるファイナンスが重要であり、それらの相乗効果で、地球温暖化という課題に立ち向かっていく必要があるのです。

「環境と成長の好循環」を生むグリーンイノベーション

日本は、温暖化対策として「環境と成長の好循環」をコンセプトに掲げ、非連続なイノベーションと、これを支える投資活動「グリーン・ファイナンス」を推進してきました。このコンセプトは、2019年6月に開催された「G20大阪サミット」の「首脳宣言」にも明確に位置づけられ、G20のリーダー・各国政府の共通認識となりました。また、具体的な戦略として3つの柱を提示しています。

リストアイコン ① イノベーションの推進
温室効果ガスの大幅削減につながる脱炭素技術の実用化・普及のための革新的なイノベーションを推進
リストアイコン ② グリーン・ファイナンスの推進
気候変動対策に取り組む企業に資金が回るような資金循環の仕組みを構築
リストアイコン ③ ビジネス主導の国際展開・国際連携
相手国のビジネス環境整備を通じて、イノベーションの成果を普及

この「環境と成長の好循環」を世界に発信すべく、2019年10月9日に開催されたのが「グリーンイノベーション・サミット」です。同時期に開催された以下の3つの国際会議と密接に関連しており、それぞれの会議は前述した3つの柱を象徴しています。

「TCFDサミット」

2019年10月8日には、気候変動に関する企業の情報開示をうながす「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」(「企業の環境活動を金融を通じてうながす新たな取り組み『TCFD』とは?」参照)について議論する、「TCFDサミット」が開催されました。

TCFDサミットには、世界の企業や金融機関のリーダーが集結。「持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)」CEOのピーター・バッカー氏、金融安定理事会(FSB)の前議長を務めたイングランド銀行総裁のマーク・カーニー氏などが参加し、今後のTCFDの方向性について議論しました。

TCFDサミットでは、議論の総括として、「企業に対してダイベストメント(気候変動リスクの高い業種から資金を引きあげること)をおこなってもCO2を排出する場所が変わるだけであり、エンゲージメント(投資先企業との建設的な対話)を通じて企業の変化を後押しすることが重要」などのメッセージが発信されました。また日本からは、グリーン・ファイナンスの推進を目指して、投資家が企業による開示情報を評価する際の視点を解説した「グリーン投資ガイダンス」を発表し、多くの賛同を得ました。

「ICEF(Innovation for Cool Earth Forum)2019」

2019年10月9〜10日には、日本主導でスタートした、「ICEF」の第6回目となる年次総会が開催されました。「ICEF」とは、気候変動問題の解決に向けたエネルギー・環境分野のイノベーションについて、世界の産官学のリーダーが議論し、協力を促進するために設けられたプラットフォームです。

今回はメインテーマを「世界のCO2排出量が減少に転じるためのイノベーションとグリーン・ファイナンス」とし、メインとなる本会議では、ブルームバーグL. P.の副社長やロイヤル・ダッチシェルの会長が参加する金融分野のセッション、トヨタ自動車のExecutive Vice Presidentなどが参加する水素分野のセッション、石油・ガス気候変動イニシアチブ(OGCI)の副社長などが参加する産業の脱炭素化に関するセッションを実施しました。

総会最終日には、世界に向けた提言である「ICEF2019運営委員会ステートメント」で、「世界のCO2排出は依然として増え続けている中、数年以内に排出量の増加がピークを迎えるようにすべくCO2排出を急激に削減することが、長期目標である世界のCO2排出を実質的にゼロにすることにつながる。」との発表がおこなわれました。また、エネルギー・環境分野の優れたイノベーションを選出する取り組み「トップ10イノベーション」の実施などを通じて発表されています。

「RD20(Research and Development 20 for Clean Energy Technologies)」

2019年10月11日に開催された「RD20」は、CO2の大幅削減に向けたクリーンエネルギー技術の研究開発を担うG20各国のトップ研究機関のリーダーを集めた世界初の会議です。研究機関間の連携を強化し、国際的な共同研究開発を展開することで、革新的なイノベーションを推進することを目的としています。

第1回では、成果として、各研究機関代表からの意見を集約した「議長サマリー」や、各国のクリーンエネルギー技術分野に関する研究開発動向をまとめた「RD20 Now & Future」が公表されました。また、日本の国立研究開発法人産業技術総合研究所は、このRD20をきっかけに、海外の6つの研究機関と研究協力の覚書を交わしました。

日本から世界を巻き込んだ新しい動きを呼びかけ

グリーンイノベーション・サミットでは、これら3つの会議から代表者が集まり、政府、産業界、金融界、研究者の垣根を越えて、環境のための革新的なイノベーションについての提言がおこなわれました。

今回のサミットでは、「環境と成長の好循環」の実現には、政府だけでなく、産業界、金融界、研究機関による具体的な取り組みや連携が不可欠であること、そのための取り組みをより一層強化していくことが確認されました。その具体的な動きとして、日本から、いくつかの施策が発表されました。

まず、イノベーション実現のため、「RD20」などをきっかけとして世界の英知を結集し、日本に「ゼロエミッション国際共同研究センター」を立ち上げることです。米国、EUなど海外の研究機関と手をたずさえ、各国の研究者の知見を環境に関連した分野に集中させます。

また、世界のカーボンニュートラル、更には、CO2を減少へと転じさせる「Beyondゼロ」を可能とする革新的な技術を2050年までに確立することを目指す「革新的環境イノベーション戦略」を策定することや、環境・エネルギー分野に10年間で30兆円の研究開発投資を集めることを目指します。

また、気候変動対策に取り組む企業に対する積極的な資金供給をうながすため、TCFDサミットで公表された「グリーン投資ガイダンス」などを活用して、気候変動に関する情報開示を広く世界に呼びかけ、非連続なイノベーションへの資金の流れを一層加速することに取り組んでいく予定です。

パリ協定が掲げる「脱炭素社会の実現」という野心的な目標は、けっして夢物語ではありません。「人工光合成」や、「二酸化炭素を吸収するコンクリート」など、CO2を資源として利用する革新的な技術の芽はすでに存在しています。

今後のグリーンイノベーションの取り組みは、世界各地で進められていく予定で、政府だけでなく企業や金融セクター、研究者が一体となって、排出削減に役立つイノベーションの創出・普及を実現することが期待されます。日本も、世界における気候変動への対応をリードしていきます。

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