「G7」で議論された、エネルギーと環境のこれからとは?
日本・イタリア・カナダ・フランス・米国・英国・ドイツの7カ国とEUが集まって毎年開催される国際会議、「G7サミット(主要国首脳会議)」。2023年度は日本が議長国となり、5月19日~21日には「G7広島サミット」が開催されました。また、サミットに関連し、各分野の担当大臣が集まる「閣僚会議」が全国各地でおこなわれました。今回は、G7サミットの意義をあらためておさらいしながら、2023年4月15日~16日に実施された「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」についてご紹介しましょう。
あらためて考えてみる、「G7サミット」の意義
G7サミットでは、さまざまな国際問題について議論が交わされ、合意された声明文書(コミュニケ)が作成されます。今回の「G7広島サミット」のニュースを見てもわかる通り、開催や文書作成のためには、準備や調整に膨大な時間が費やされ、多数の関係者がたずさわります。それだけのリソースを割く意義はどこにあるのでしょうか?
それは、世界共通の大きな課題について、1カ国ではなしえない大きな取り組みが実現できるということです。
たとえば、世界共通の課題のひとつである、気候変動に対応するためには、世界各国が足並みをそろえて、「ネットゼロ(カーボンニュートラル)」の実現に向けた取り組みを進めていく必要があります。
そのためには、共通ルールの形成が重要です。一例をあげましょう。今、世の中には、CO2排出量が少ない鉄やプラスチックなどの“グリーン製品”が登場していますが、その基準が国によってバラバラでは困ります。
そうした際、先進的にグリーン製品の開発に取り組むG7がまず議論し、国際的な評価手法の確立の議論をリードすることが重要となる場合があります。また、G7のみならず、「G20」や「気候変動枠組条約締約国会議(COP)」(「あらためて振り返る、『COP26』(前編)~『COP』ってそもそもどんな会議?」参照)などにおいても、G7としてまとまったメッセージを発信します。それによって、グリーン製品の価値が適切に評価される道筋を整えていくことができる可能性があるわけです。
日本にとっても、G7を通じて世界に影響を与えられるという点で、その意義は少なくありません。実際、今回の「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」でも、合意文書には日本の考えを反映した文言が盛り込まれました。
G7で合意された、これからのエネルギーと環境分野における取り組み
北海道札幌市でおこなわれた「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」では、西村経済産業大臣と西村環境大臣が共同議長を務めました。G7メンバー以外にも、以下の国や機関を招待しました。
会合では「コミュニケ」と呼ばれる成果文書が合意されました。細かい項目は資料にゆずり、ここでは、今回G7がどのような状況を問題として意識し、その解決のためどのようなポイントで合意したのか、大きな方向性についてご紹介しましょう。
「気候変動」という世界的な危機と、さらに浮上した「エネルギー危機」という課題
これまでもさまざまな記事でご紹介してきたように、「気候変動」は喫緊の課題です。対策を考えるベースとなるのは、「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」が公表する、科学的知見にもとづいた各種報告書です。
- 詳しく知りたい
- 気候変動対策を科学的に!「IPCC」ってどんな組織?
2023年3月にIPCCが公表した「第6次評価報告書統合報告書」では、地球温暖化を1.5℃や2℃に抑制するためには、2050年代初頭および2070年代初頭に、世界全体でネットゼロを達成する必要があるということが科学的に示されました。
しかし現状は、「温暖化は今どうなっている?目標は達成できそう?『IPCC』の最新報告書」でご紹介した通り、「COP26」より前に発表された各国の気候変動対策を足し合わせても1.5℃や2℃に抑制することはできず、対策の加速が必要であると指摘されています。
現在世界が直面している「気候変動」、さらに「生物多様性の損失」、「汚染」という3つの世界的な危機(Triple Crisisと呼ばれます)に立ち向かうためには、気候・エネルギー・環境のそれぞれの分野が協働で対策を考えていく必要があります。さらに、いま、世界的な「エネルギー危機」という問題もぼっ発しており、気候変動対策をおこないながらエネルギー安全保障対策も実施することが求められています。
- 詳しく知りたい
- エネルギー危機の今、あらためて考えたい「エネルギー安全保障」
このような背景の基に実施された「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」では、以下のような方向性で、各種政策に関する合意が取りまとめられました。
グローバルサウスと連携し、世界全体で気候変動対策を加速する
「G7広島サミット」では、「グローバルサウス」と呼ばれるアジア・アフリカの新興国や途上国の会合参加が話題となりました。EUを含むG7各国のCO2排出量は約27%(2020年)であり、気候変動対策は世界全体が取り組む必要があります。特にグローバルサウスの国々は重要な存在です。
そこで、「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」では、世界全体が「1.5℃目標」(「今さら聞けない『パリ協定』~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」参照)および「2050年ネットゼロ」に向け、取り組みを加速していくことが呼びかけられました。
- 主な合意ポイント
- 「パリ協定」の締約国に対し、2025年までの世界全体の排出量をピークアウトさせることなどの目標へのコミットを呼びかけ
- すべての分野、すべての温室効果ガスを対象にすることを要請
- 世界規模の取り組みとして、「排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させる」というコミットメントを強調、G7以外の国に対しても参加を要請
「多様な道筋」をとりながら、一体的な取り組みで「共通のゴール」を目指す
日本はアジア唯一のG7メンバーであり、グローバルサウスの一角であるアジア諸国の事情をよく知る立場にあります。成長するアジア諸国では、エネルギー需要が増えるにともなって温室効果ガス(GHG)排出量も増加する傾向にあり、日本はそうしたアジア諸国の事情をふまえた排出削減支援策を訴えてきました(「あらためて振り返る、『COP26』(後編)~交渉ポイントと日本が果たした役割」参照)。
日本が議長国となった今回の会合では、「各国のエネルギー事情などさまざまな条件に応じた多様な道筋が、ネットゼロという共通目標につながる」という日本の考え方が、G7の共通認識として合意されました。また、経済成長とエネルギー安全保障を確保しながら、ネットゼロ、「循環経済」(製品や資源を循環させて価値を長く保ち、廃棄物を最小限にする経済のありかた)、「ネイチャーポジティブ経済」(生物多様性の損失をストップし、回復軌道にのせる経済)の統合的な実現に向けた「グリーン・トランスフォーメーション(GX)」を世界的に進めていこうというメッセージが打ち出されました。
- 成果の例
- 再生可能エネルギーについて、G7全体で2030年までに、洋上風力150GWの増加、太陽光1TWへの増加を含め、導入拡大やコスト低減に貢献
- 水素・アンモニアがさまざまな分野・産業、さらに「ゼロエミッション火力」に向けた電力部門での脱炭素化に役立つ点を明記。「炭素集約度」の概念を含む国際標準や認証スキーム構築の重要性を確認
- e-fuelやe-methaneのようなカーボンリサイクル燃料(RCFs)」を含め、 CCSおよびCCU/カーボンリサイクル技術が重要となり得ることを確認
- 産業部門の脱炭素化では、ライフサイクルをベースに脱炭素化を評価することの重要性を強調し、「グローバルデータ収集フレームワーク」の実施で合意
- 交通部門においては、ストック全体での削減の重要性をG7で初めて認識。G7全体で2035年までにストックのCO2排出量半減(2000年比)しうるという共通認識を確認
- 事業者自身の排出削減のみならず「削減貢献量」を認識することの価値を共有
- 企業のネットゼロ移行の取り組みを「トランジション・ファイナンス」が支援できることを認識
気候変動と同時に「エネルギー危機」にも対応していく
特筆すべきポイントのもうひとつは、現在のエネルギー危機をふまえ、「エネルギー安全保障」「気候変動」「地政学的リスク」を一体としてとらえて取り組むと明記されたことです。
「エネルギー危機の今、あらためて考えたい『エネルギー安全保障』」でもご紹介した通り、さまざまな要因が重なりあって直近のエネルギー価格は高騰しており、エネルギー安全保障への対策が必要です。また、クリーンエネルギーへの移行に際しては、バッテリーなどに使われる鉱物資源などの特定国への依存が見られることから、これらを多様化し安定供給を確保する対策も求められます。
そこで、「重要鉱物セキュリティのための5ポイントプラン」の合意など、リスクを回避しながらサプライチェーンをマネジメントしていくという認識が共有されました。
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エネルギーなど国の事情がまったく異なる国々が足並みをそろえるにはさまざまな調整や交渉が必要で、G7が合意に至ったことには大きな価値があります。詳細は下記サイトでも紹介されていますので、ぜひ目を通してみてください。
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- G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合
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経済産業省 産業技術環境局 地球環境対策室
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