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気候変動とその対策に関する科学的な知見を提供している世界的な組織、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」。「気候変動対策を科学的に!『IPCC』ってどんな組織?」では、IPCCの概要や、IPCCの報告書の制作工程、世界の気候変動対策に与えている影響などをご紹介しました。今回は、最新の「第6次評価報告書(AR6)」について解説しましょう。
報告書で最新のものは「第6次評価報告書(AR6)」と呼ばれ、以下のようなレポート群で構成されています。
これらの報告書には、「気候変動対策を科学的に!『IPCC』ってどんな組織?」でもご紹介したとおり、IPCCのビューローや各国政府・国際機関から推薦された執筆者および査読をおこなう編集者が関わっています。こうした執筆者や査読者の中には、日本の研究者も含まれています。たとえば「第1作業部会(ワーキンググループ1):自然科学的根拠」の報告書は、次のような構成となっていますが、国立環境研究所(国環研)、総合地球環境学研究所(地球研)、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、気象庁気象研究所(気象研)、東京大学といった日本の研究機関の研究者が関わっています。
「第6次評価報告書(AR6)/第1作業部会(ワーキンググループ1):自然科学的根拠」の構成
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また、「第2作業部会(ワーキンググループ2):影響・適応・脆弱性」の報告書は、下記のような項目で構成されており、東京大学、芝浦工業大学、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)、慶応義塾大学、海洋研究開発機構、気象業務支援センター、茨城大学から研究者が執筆活動にたずさわっています。
「第6次評価報告書(AR6)第2作業部会(ワーキンググループ2):影響・適応・脆弱性」の構成
ここからは、「第6次評価報告書(AR6)」のうち、今年2022年4月に公開された、「第3作業部会(ワーキンググループ3):気候変動の緩和」の報告書について、少し詳しく見ていきましょう。「第3作業部会(ワーキンググループ3)」は、温室効果ガス(GHG)の排出削減など、気候変動に対する緩和策について評価をおこなっている作業部会です。日本では、経済産業省が報告書のとりまとめ役となっています。今回、ワーキンググループ3の報告書は、1万8000本を超える科学誌の論文などを278名の執筆者がレビューし、それを基に作成されました。3回にわたっておこなわれる専門家や政府による査読の際に集められたコメントの総数は、5万9000件にもおよびます。このワーキンググループ3の報告書にも、日本から東京大学、地球環境産業技術機構、国立環境研究所(国環研)などから17名の執筆者/査読者が関わっています。
構成は以下の通りとなっています。GHGの「排出経路」、「各産業セクターにおける削減対策」、また「イノベーション」や「ファイナンス」などのトピックが記載されています。
報告書の冒頭にある「政策立案者向け要約(SPM)」とは、気候変動対策を立案する人々に向けた、ポイントの抜粋です。「第6次評価報告書(AR6)」ワーキンググループ3報告書における「政策立案者向け要約」の主要メッセージは、以下のようなものでした。
ワーキンググループ3報告書は、上記の通り、「温暖化が進んでいること」「現在打ち出されている政策だけでは、パリ協定の目標は達成できないこと」を示し、「対策の加速化」をうながすものとなりました。メッセージの背景にある分析を、より具体的に見ていきましょう。まず、報告書では、過去30年間のGHG排出の傾向を分析したデータが示されています。人為的な排出量(正味)は、今も増加し続けています。2010年~2019年の平均GHG排出量は、過去最大となりました。一方で、排出量の増加率を見ると、2000年~2009年よりも低下しています(確信度が高い分析(※))。
世界全体の正味の人為的GHG排出量(1990-2019)
地域別で排出量を見た場合、世界全体のGHG排出量に対する寄与度は、地域ごとに大きく異なっています。たとえば、先進国全体のGHG排出量はピークに達しており、排出削減段階に入っていると見られます。一方、中国や韓国などの東アジアは、排出量への寄与度がもっとも伸びていることが示されています。こうした地域ごとのばらつきや、国の一人当たり排出量のばらつきは、それぞれの国の発展段階の違いを部分的に反映しています。ただ、所得をここに加えて分析してみると、同じような所得水準であっても、その排出量は大きく異なっています(確信度が高い分析)。
世界全体の正味の人為的なGHG排出量(地域別、1990-2019年)
AR6のワーキンググループ3報告書では、前回の「第5次評価報告書(AR5)」の時と比較して、分析対象とするGHG排出の動きを想定した定量的な予測「シナリオ」の数を増やしています。COP26より前に発表された対策のシナリオで、2030年の世界全体のGHG排出量を想定すると、21世紀中に温暖化が1.5°Cを超える可能性が高い見込みとなっています(確信度が高い分析)。
温暖化を2℃より低く抑える可能性を高くするためには、さらなる対策を加速度的に進めなくてはなりません。報告書では、さまざまな取り組みが必要となることが示されていますが、その中では次のような新たな知見も提示されています。
イノベーションとテクノロジーをあつかう章は初めて設けられました。分析によれば、2010年以降、排出量が低い(低排出)技術は、その単価が継続的に下がっています。これらのコスト削減は、各国のイノベーション政策パッケージが可能にしたものであり、世界的な普及を支えています(確信度が高い分析)。
需要側がとることのできる緩和対策には、インフラ利用の変化や、社会文化的変化および行動変容などが含まれます。たとえば、「より長寿命で修復可能な製品の利用を増やす」、「テレワークや在宅勤務をおこなう」、「モビリティの共有」や「電気自動車への移行」、あるいは「エネルギー効率の高い建物」や「コンパクトシティ」の建設などです。報告書は、こうした需要側の緩和策によって、「エンドユース部門における世界全体のGHG排出量を、ベースラインシナリオに比べて2050年までに40~70%削減しうる」一方で、「いくつかの地域や社会経済集団は、追加のエネルギーや資源を必要とする」と分析しています(確信度が高い分析)。*****IPCCの報告書は、パリ協定の目標達成の可能性を高めるために、私たち需要家も含め、さらなる対策をおこなう必要があることを明確に示しています。みんなの力を合わせ、取り組みを進めていきましょう。
経済産業省 産業技術環境局 地球環境対策室
資源エネルギー庁 長官官房 総務課 調査広報室
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