SAF製造に向けて国内外の企業がいよいよ本格始動

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持続可能な航空燃料として、今後の拡大が期待されている「SAF」(Sustainable Aviation Fuel)。世界各国で普及に向けたさまざまな取り組みが始まっています(「飛行機もクリーンな乗り物に!持続可能なジェット燃料『SAF』とは?」 参照)。今回は、SAFの製造拡大に向けて各国や国内外の企業がどのように動いているのか、世界的な企業動向を解説しましょう。

世界的に需要拡大が見込まれるSAFの利用

航空分野でのCO2排出量削減のためには、従来の燃料にくらべてCO2削減効果のあるSAFの利用が不可欠です。しかし、2022年時点の世界のSAFの供給量は約30万キロリットル。これは、世界のジェット燃料供給量の0.1%程度とされています。

世界の航空会社で構成される業界団体International Air Transport Association(IATA)は、2050年に航空輸送分野でネットゼロを達成するためには、約4.5億キロリットルのSAFが必要と推計しています。

世界のSAF需給見通し
世界のSAFの需給見通しを示したグラフです。

(出典)IATA Net zero 2050: sustainable aviation fuelsを基に資源エネルギー庁作成

官民両セクターの協力を通じて世界情勢の改善に取り組む国際機関「世界経済フォーラム」では、SAFの導入促進を目指すイニシアティブ「Clean Skies for Tomorrow Coalition(クリーン・スカイズ・フォー・トゥモロー・コアリション)」を設立。同イニシアティブは、世界の航空業界で使用する燃料におけるSAFの割合を、2030年までに10%に増加させることを宣言しています。

こうした動きに対応して、世界各国の多くの航空会社が、「2030年SAF10%利用」を目標としています。たとえば、日本航空が加盟するワンワールドでは、加盟社全体でSAF利用10%を目指しています。また、自社で使用する燃料の10%をSAFに置き換えることを宣言する企業もあります。今後SAFの導入が世界的に拡大していくことは間違いありません。

2030年でSAF10%利用を宣言しているエアライン
SAF10 %目標を示しているエアラインの一覧表です。日本の全日本空輸、日本航空のほか、欧州・米国・南米・アジアなど様々な国のエアラインが宣言しています。

※ワンワールド加盟社のうちさらに個社として、SAF10%利用を宣言している航空会社

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SAF導入を後押しする世界各国の動向

SAFの導入拡大には、政策の整備も大切です。米国では、SAFを製造・供給する事業者への各種インセンティブが充実しています。たとえば、インフレ抑制法(Inflation Reduction Act, IRA)による税額控除や、SAFを使用することによる既存ジェット燃料とのCO2削減量を「クレジット」として売買できる既存制度を活用した売買収益などがあります。

また、欧州ではSAFなど環境負荷の少ない燃料を義務づける動きが進んでいます。域内で供給する航空燃料に一定比率以上のSAF・合成燃料の混合を義務づけたり、航空会社に「EU域内排出量取引制度(EU-ETS)」への参加を義務づけたりしています。参加すれば、要件を満たすSAFを燃料の一部として使用した場合に、SAFに含まれるバイオマス燃料部分に関して「CO2排出ゼロ」として取り扱うことができます。

こうした各国の施策を受けて、欧米の企業もSAF製造プロジェクトを推進しています。すでに一定規模の商用製造をする企業もあり、今後の製造能力の増強も計画されています。フィンランドのNeste社やイタリアのEni社などは自国内にとどまらず、SAF原料が調達しやすい東南アジアやアフリカなどでもプロジェクトを展開しています。加えて、SAFの原料を扱う穀物メジャーや油脂開発会社と連携するなど、原料確保のための競争も始まっています。

欧米企業によるSAF製造プロジェクトを紹介した図です。製造は企業の拠点がある欧州、米国だけでなく、アジアなどでも進められています。

(出典)各企業のWebサイトをもとに資源エネルギー庁作成

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SAFの安定供給のためにはバイオマス原料の長期的な安定調達が不可欠です。すでに海外では、将来的なSAFの需要増加にそなえて積極的なプロジェクトが展開されています。日本も遅れをとることがないよう、アジアなどの海外でSAF製造・原料開発に進出することが重要と考えられます。

日本企業も大規模なSAF製造の取り組みを開始

日本国内でも、大規模なSAF製造に向けてさまざまな企業が動き出しています。各企業の主な動きをヘッドライン形式でお伝えしましょう(2024年5月時点の動き)。

①石油元売企業のSAF製造

エネオス株式会社

フランスのTotal Energies社と連携し、国内外で調達した廃食油などを用いて、和歌山製油所跡地でSAF製造の事業化に乗り出しています。2026年時点で、約40万キロリットル/年の製造を目指しています。また、CO2と水素を原料とする合成燃料については、2040年までの自立商用化を目指しています。

出光興産株式会社

千葉製油所において、バイオエタノールを原料としたSAF製造に取り組むとともに、2026年から10万キロリットル/年の製造を目指しています。また、株式会社東芝、東洋エンジニアリング株式会社、全日本空輸株式会社などと連携し、CO2と水素から製造するSAFの技術開発・実証をおこなっています。

コスモ石油株式会社

日揮ホールディングス、株式会社レボインターナショナルと連携し、大阪の堺製油所にて、国内で回収した廃食油を用いたSAFの製造を進めており、2024~25年に、3万キロリットルの製造を目指しています。また、三井物産株式会社と連携し、バイオエタノールを原料としたSAFの製造をおこない、2027年時点で22万キロリットル/年の製造を目指しています。

富士石油株式会社

伊藤忠商事株式会社と連携し、千葉の袖ヶ浦製油所で、2027年に約18万キロリットル/年のSAF製造を目指しています。

太陽石油株式会社

三井物産株式会社と連携し、沖縄の南西石油が所有する設備・遊休地を活用してバイオエタノール原料のSAF製造に取り組み、2028年には約22万キロリットル/年の製造を目指しています。

②原料確保のための動き

東急不動産株式会社とエネオス株式会社

SAFの製造に関して連携をおこなっています。東急不動産グループが全国で運営するホテル・ゴルフ場・商業施設などから出る廃食油を回収して、エネオスが製造するSAFの原料とする取り組みです。

出光興産株式会社と株式会社J-オイルミルズ

オーストラリアの自然資源管理団体と連携し、SAFの原料となる植物「ポンガミア」の植林およびSAFのサプライチェーン構築に取り組むことで合意しています。「ポンガミア」は東南アジア~オセアニアに分布するマメ科植物で、食用にはならないものの油収量効率が高いとして注目されています。

日揮ホールディングス

SAFの原料調達をになう同社は、さまざまな企業と連携し「Fry to Fly Project」を展開しています。廃棄されている家庭や店舗の廃食油を回収・利用できるよう、国内での資源循環づくりを目指す取り組みです。企業・自治体・団体など誰でも参加することができます。

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このように、SAFの大規模製造を目指す取り組みは活発化しています。とはいえ、SAFの導入を拡大するためには、まだまだ課題も残されています。課題解決に向けてどのような取り組みが進められているのか、また次の記事でご紹介しましょう。

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