気候変動対策を科学的に!「IPCC」ってどんな組織?

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気候変動に関するニュースを見ていると、「IPCC」という組織の名前がよく出てきます。IPCCは、簡単に言うと、気候変動とその対策に関する科学的な知見を提供している世界的な組織ですが、いったいどのようなメンバーで構成されている組織なのでしょうか?また、IPCCが発表している報告書とはどんなものなのでしょうか?今回は、IPCCについてあらためてご紹介しましょう。

世界中の科学者が協力するIPCC

IPCCとは、「Intergovernmental Panel on Climate Change」の略で、日本語では「気候変動に関する政府間パネル」と呼ばれます。1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)によって設立された政府間組織で、2022年3月時点における参加国と地域は195となっています。

IPCCが果たしている重要な役割は、各国政府の気候変動に関する政策に対し、科学的な基礎をあたえることです。といっても、IPCC自らが研究をおこなっているわけではなく、世界中の科学者が協力して、科学誌などに掲載された論文などの文献に基づいた定期的な報告書を作成し、公表しています。

報告書には、定期的な報告書と、「特別報告書」と呼ばれるテーマを限ったものとの2種類があります。定期的な報告書は、1990年にIPCCが公表した「第1次評価報告書(FAR)」から始まり、現在は「第6次評価報告書(AR6)」の作成が進められています。

IPCC報告書が世界の気候変動政策に影響

IPCCの報告書は、世界中の政策決定者から引用され、「気候変動枠組条約(UNFCCC)」をはじめとする国際交渉や、国内政策のための基礎情報となっています。たとえば、「第1次評価報告書(FAR)」は、1992年に採択されたUNFCCCにおける重要な科学的根拠とされています。

気候変動に関するIPCCの科学的な知見と国際交渉との関係
IPCCの評価報告書の公表年と、その前後にどのような国際交渉が行われたかを時系列で示した表です。

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また、気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」における、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち(2℃目標)、1.5℃に抑える努力をする(1.5℃努力目標)」という目標も(「今さら聞けない『パリ協定』~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」参照)、IPCCの報告書と関わりをもっています。

これらのパリ協定の長期気温目標が発表されたのは2015年でしたが、当時、長期の気温目標に関しての科学的知見は十分ではないとして、IPCCに特別報告書の作成が求められたのです。

これを受けてIPCCが作成した「1.5℃特別報告書」が、2018年に公表されました。それによれば、「地球温暖化を2℃、またはそれ以上ではなく1.5℃に抑制することには、あきらかな便益がある」、また「1.5℃未満に抑えるためには、世界のCO2排出量を2030年には2010年比で45%削減し、2050年前後にネットゼロを目指すことが必要」とされました。

その後、2021年6月に開催された「主要7ヶ国首脳会議(G7サミット)」、および11月に開催された「第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)」では、「2℃目標」と「1.5℃努力目標」の継続が再確認されました。

このように、IPCCの報告書は、政策決定者が気候変動対策を検討し決定する上で役立てられています。ただし、IPCC自身は、政策的に中立で、特定の政策の提案はおこなわない「科学的中立性」を重視しています。

専門家による入念な報告書作成、「可能性」も細やかに表現

これらの報告書はどのようなプロセスで作成されるのでしょうか?

IPCCには、総会とビューロー(議長団)、執行委員会が設置されており、その下に、評価対象により分けられた3つのワーキンググループと、1つのインベントリータスクフォース(TFI)が置かれています。これらの組織が、報告書の執筆者選定や、報告書の内容のレビューに関わっています。

報告書の執筆者と査読をおこなう編集者を推薦しているのは、ビューローと各国政府や国際機関です。ビューローは、議長および3名の副議長と、各ワーキンググループの共同議長および副議長、TFIの共同議長で構成されています。推薦された執筆者と編集者は、各ワーキンググループまたはTFIの共同議長および副議長が選定しています。また、総会は、各国政府の代表などで構成されており、作成された報告書の承認・受託や、ビューローのメンバーの選出をおこないます。

報告書は、3つのワーキンググループによる報告書で構成されており、それに加えて評価報告書の知見を統合した「統合報告書」も作成されます。また、専門家による査読など入念なプロセスを経て作成されるため、完成までに数年がかかります。現在の「第6次評価報告書(AR6)」は、「第5次評価報告書(AR5)」と同じように5~7年の間に作成すること、また18ヶ月以内にすべての評価報告書(第1~第3作業部会報告書)を公表することが決定され、これまで3つのワーキンググループの報告書が作成・公表され、現在それらの統合報告書が作成されています。

「第6次評価報告書(AR6)」の報告書の作成サイクル
リストアイコン 2018年10月…1.5℃特別報告書
リストアイコン 2019年8月…土地関係特別報告書
リストアイコン 2019年9月…海洋・雪氷圏特別報告書
リストアイコン 2021年8月…第1作業部会(ワーキンググループ1):自然科学的根拠
リストアイコン 2022年2月…第2作業部会(ワーキンググループ2):影響・適応・脆弱性
リストアイコン 2022年4月…第3作業部会(ワーキンググループ3):気候変動の緩和
リストアイコン 2023年3月…統合報告書

報告書は、さまざまなプロセスを経て作成されます。まずは、専門家によってアウトライン集が作成されます。この際の専門家は、各国政府やオブザーバー機関により推薦されています。アウトラインが承認されると、報告書執筆者の「ノミネーション」、つまり推薦がおこなわれ、執筆者が選定されます。

執筆者により作成された1次ドラフトは、この時点で専門家による査読がおこなわれます。その後、2次ドラフトと政策決定者向け要約(SPM)が作成され、各国政府および専門家による査読を経て、最終ドラフトへと進められるのです。その後、作業部会/パネルにおいて、各国政府間で議論され、報告書の承認・受諾がおこなわれます。

報告書では、可能性や確信度をどのように表現するかといった点まで細やかな配慮がなされています。たとえば、IPCCの報告書における「可能性」を示す言葉は、統計的な解析や専門家の判断に基づいた確率的な表現として下記のように使い分けられ、斜体で表記されています。

世界中の科学の知見が詰まったIPCCの報告書は、IPCCのサイトで公開されているほか、政策決定者向け要約は和訳もされています。気候変動対策を深く知るために、一読してみてはいかがでしょうか。

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