2020—日本が抱えているエネルギー問題(後編)
エネルギー政策の方向性
日本がエネルギー政策の基本方針としているのは「3E+S」と呼ばれる考え方です。安全性(Safety)を大前提とし、エネルギーの安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)を同時に達成することを目標としています。資源に恵まれない日本では、これらすべての面を満たしているエネルギーは存在していません。エネルギー源ごとの強みが最大限に発揮され、弱みが補完されるように、多層的なエネルギーの供給構造をつくることが重要です。
これらをバランスよく同時に達成するギリギリの姿として示したのが「エネルギーミックス」です。2030年度における日本のエネルギー需給構造のあるべき姿を示したエネルギーミックスでは、現在よりも石油などの「化石燃料」の使用を減らし、再生可能エネルギー(再エネ)などCO2を排出しないエネルギー源の比率を高めるようになっています。
こうした日本のエネルギー政策が目指しているのは「脱炭素社会」の実現です。日本はこれまで、さまざまな選択をして経済成長を実現してきました。国内石炭から石油への「脱石炭」、2回の石油危機に始まる「脱石油」、そして地球温暖化や東日本大震災などをきっかけに「脱炭素」の動きが強まっています。
「脱炭素化」とは、温室効果ガスの人為的な排出をできる限り抑えることですが、そこには石油や石炭などの化石燃料の使用量がおおきく関わっています。2030年のエネルギーミックスを実現するためにはさらなる削減の努力が必要ですし、その先の2050年を見すえたエネルギーのあり方も考えていく必要があります(「『パリ協定』のもとで進む、世界の温室効果ガス削減の取り組み②~日本の目標と進捗は?」参照)。
日本は「2050年カーボンニュートラル」という目標をかかげていますが、その実現のためには技術や社会構造など、さまざまな分野でイノベーションが求められます。水素、蓄電池、カーボンリサイクル、再エネ、原子力をはじめとしたあらゆる選択肢を検討して、世界中の知恵を集めてイノベーションをおこしていくことが大切です。
イノベーションと省エネ
脱炭素化のためのイノベーションにはさまざまなものがありますが、ここでは主に2つの事例を紹介します。
①水素社会の実現に向けた取り組み
化石燃料に変わるエネルギーとして期待されているのが水素エネルギーです。水素は水をはじめとしたさまざまな資源からつくることができ、CO2も排出しません。欧州をはじめとした世界中で本格的な水素利活用に向けた戦略が策定されるなど、水素に向けた機運が高まる中、日本では、世界に先駆けて「水素社会」を実現するべく、国やさまざまな企業が官民あげての取り組みを進めています。(「2020年、水素エネルギーのいま~少しずつ見えてきた『水素社会』の姿」参照)。具体的には、コストを抑えながら水素の供給をおこなうためのサプライチェーンの構築、水素を燃料とする燃料電池自動車(FCV)や燃料電池の普及など、さまざまな形で水素利活用を進めるための研究開発や実証、普及施策をおこなっています。
②カーボンリサイクル
「カーボンリサイクル」とは、CO2(カーボン)を「資源」の一種ととらえて分離・回収し、さまざまな形で再利用(リサイクル)することです(「未来ではCO2が役に立つ?!『カーボンリサイクル』でCO2を資源に」参照)。大気中のCO2を削減する有効な手段として、分離・回収技術やリサイクルの研究開発が進められています。CO2の再利用法としてはコンクリートの原料の一部にしたり、燃料やプラスチックへ活用することなどが考えられています。カーボンリサイクルの可能性と必要な技術については、2019年6月にロードマップが策定されています。
こうした技術や社会のイノベーションを起こすこととともに重要なのが省エネルギー(省エネ)の取り組みです。もともと日本は省エネ技術がとても発達した国で、エネルギー消費効率は世界的に高い水準にあります。けれどもエネルギーミックスにおける2030年の需給見通しを実現するためには、さらなる省エネを進める必要があります。省エネの対象となるのは特定の部門だけではありません。産業・業務・家庭・運輸と、あらゆる分野で実行可能な省エネの取り組みを進め、2030年までに5,030万klのエネルギー消費量を削減することを目指しています。
省エネ取組進捗
再エネの主力電源化
温室効果ガスを排出しないエネルギーのひとつが再エネで、世界でも積極的な導入が進んでいます。エネルギー自給率が低い日本では、再エネの導入拡大はエネルギーの安定供給にもつながる重要な取り組みです。2018年に閣議決定された、日本のエネルギー政策に関する中長期的な基本方針「第5次エネルギー基本計画」では、再エネを主な電源(電気をつくる方法)、つまり「主力電源化」していくことが打ち出されました(「新しくなった『エネルギー基本計画』、2050年に向けたエネルギー政策とは?」参照)。
2019年現在、日本の再エネの電力比率は約18%で、主要国の中ではそれほど高い比率ではありません。ただし再エネの発電設備容量は世界第6位となっています。水力をのぞくと、日本でもっとも普及している再エネは太陽光発電であり、太陽光発電の導入量では世界第3位となります。
主要国の発電電力量に占める再エネ比率の比較(2017年)
再エネの主力電源化には課題もあります。再エネは季節や天候によって発電量が変動するため、再エネだけでエネルギーをまかなうことはできません。必ず火力発電など出力(発電量)が調整できる電源と一緒に使い、蓄電池などのエネルギーを蓄積する手段と組み合わせる必要があります。電気を安定して使うには、常に発電量(供給)と消費量(需要)を同じにする必要があるのですが、太陽光など自然環境に左右されるエネルギーは発電量をコントロールできません。そのため、電力の需要が少ない時期に、発電量が消費量を上回ってしまう可能性があることが問題となっています。
最小需要日(5月の晴天日など)の需給イメージ
また「2020—日本が抱えているエネルギー問題(前編)」でもふれたように、再エネでつくった電気をあらかじめ決まった固定価格で買い取る「固定価格買取制度(FIT)」が、再エネ由来電力のコストを押し上げる一因になっています(「FIT法改正で私たちの生活はどうなる?」参照)。主力電源化のためには再エネ政策の抜本的な見直しが必要です。今後は電源の特性に応じた制度を構築し、コストを削減した競争力のある電源にしていくことが求められています。地域特性を生かした再エネには、災害に強い分散型電源としての役割も期待されています。さらに、再エネの大量導入を支えるためには、次世代電力ネットワークの形成が欠かせません。長期的な視点からこれらの施策を実行していきます。
原子力発電の今後
ここまで見てきたように、これからの日本は、エネルギーの安定供給、電力コストの引下げ、温室効果ガスの抑制といった課題に取り組んでいかねばなりません。資源のとぼしい日本でこれらの課題への対策を着実に実行するには、原子力発電(原発)は欠かすことのできない電源と考えられています。原発の再稼働にあたっては、安全性を最優先に考え、「新規制基準」に適合することを条件に再稼働を進めていく方針です。
日本の原子力発電所稼働状況
原発の発電量は、今後も世界で伸びていくだろうと予想されています。国連のかかげている「持続可能な開発目標(SDGs)」や、気候変動に関する国際的な枠組み「パリ協定」で定められた目標を達成するには必要なエネルギーと考えられるためです。原発の発電量では米国、フランス、中国、ロシア、韓国が上位を占めていますが、これから建設される原子力発電は中国に集中しています。また韓国やアラブ首長国連邦でも建設が進められています。
資源の有効活用のためには、原子力発電所の使用済燃料を再処理してウランとプルトニウムを回収し、新たな燃料として再利用することで廃棄物の発生量を抑える「核燃料サイクル」の推進も重要です(「核燃料サイクルの今」参照)。また使用済燃料の処理・処分についても、最終処分場の場所などを国民全体で議論し、考えていかねばなりません(「北欧の『最終処分』の取り組みから、日本が学ぶべきもの③」参照)。
新たな時代に向けて、世界のあり方や私たちの生活、考え方や価値観は変化し、さらに複雑になっています。エネルギー問題は、そうした世界の変化の影響を強く受けるものです。エネルギーの“今”を多面的に知ることを通じて、これからの日本と日本のエネルギーについて考えてみましょう。
日本のエネルギーについてさらに詳しい情報が「日本のエネルギー2019」に掲載されていますのでご覧ください。なお、グラフの数値は、この記事のデータが最新のものです。
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