2019—日本が抱えているエネルギー問題(前編)
日本の自給率と海外依存の問題
電気、ガス、ガソリンなどのエネルギーは、いまや生活に欠かせないものとして社会を支えています。けれども石油やLNG(液化天然ガス)などのエネルギー資源がとぼしい日本では、エネルギーを安定的に供給するためにさまざまな方策が必要です。
2017年の日本のエネルギー自給率は9.6%で、他のOECD諸国と比較すると低い水準です。過去最低だった2014年の6.4%からは上向いていますが、エネルギー自給率が低いと資源を他国に依存しなければならず、国際情勢の影響などを受けてエネルギーを安定して確保することが難しくなります。
主要国の一次エネルギー自給率比較(2017年)
(出典)IEA「World Energy Balances 2018」の2017年推計値、日本のみ「総合エネルギー統計」の2017年度確報値。 ※表内の順位は2017年OECD35カ国中の順位です。
我が国のエネルギー自給率
(出典)IEA「World Energy Balances 2018」の2017年推計値、日本のみ「総合エネルギー統計」の2017年度確報値。 ※表内の順位は2017年OECD35カ国中の順位です。
とりわけ日本は、石油・石炭・LNG(液化天然ガス)などの化石燃料に大きく依存しています。2011年に起こった東⽇本⼤震災の前年、化石燃料への依存度は81.2%(⼀次エネルギー供給ベース)でしたが、原⼦⼒発電所の稼働停⽌にともなう電⼒の不⾜を火⼒発電所の焚き増しによっておぎなったことから、2017年の化石燃料への依存度は87.4%まで増加しています。
また、2018年の化石燃料の海外依存度は、石油99.7%、LNG(液化天然ガス)97.5%、石炭99.3%となっており、そのほとんどを海外からの輸入に頼っているのが現状です。
我が国の一次エネルギー国内供給構成の推移
(出典)総合エネルギー統計
※ 当資料で扱うパーセンテージ表示については、四捨五入の関係上、合計が100%にならない場合があります。
※ 再生可能エネルギー等は水力を除き、未活用エネルギーを含みます。
日本の化石燃料の海外依存度
さらに課題となるのは、資源を輸入している地域です。原油は約88%を中東地域に依存していますが、この地域は政情が安定しているとはいえません。先日も、中東のホルムズ海峡を航行中の日本関係の積み荷を積んだ船が攻撃されるという事件がありました(「世耕経済産業大臣の閣議後記者会見の概要」参照)。中東地域は、世界のエネルギー供給をささえる大切な地域のひとつであり、そこでの航行の安全確保は、日本および国際エネルギー市場にとって、きわめて重要です。
石炭の輸入についても、オーストラリア一国への依存が高くなっています。一方でLNG(液化天然ガス)については、オーストラリアのほか、アジア、ロシア、中東など多様な地域から調達しています。
電気料金の変化
2011年の東日本大震災以降、電気料金は値上がりが続きました。原子力発電の停止影響をおぎなうために火力発電を焚き増したことに加え、2014年まで燃料価格も上昇したためです。2017年度には震災前にくらべて、家庭向けで約16%、産業向けでは約21%上昇しています。
電気料金は、使われている電源(電気をつくる方法)の種類に大きく影響されます。石油、LNG(液化天然ガス)などの化石燃料を使う火力発電は、資源を海外からの輸入にたよっていることもあって、エネルギーコストがかかり、国際的な燃料価格の影響をうけやすい電源です。2017年の電源構成における化石燃料への依存度は80.9%におよんでいます。
もうひとつ、近年の電気料金に大きな影響をあたえているのが、再生可能エネルギー(再エネ)です。2012年に導入された、再エネをあらかじめ決められた価格で買い取る「固定価格買取制度(FIT)」により、再エネの設備容量は急速に伸びてきました(「FIT法改正で私たちの生活はどうなる?」参照)。将来のために再エネが増えることは大切ですが、一方で、再エネの買い取り費用は3.6兆円に達しています。その一部は「賦課金」として、私たちが払う電気料金に含まれており、賦課金の単価は年々上昇しています。これが、電気料金を押し上げている要因のひとつとなっています。
再生可能エネルギーなどによる設備容量の推移
(出典)JPEA出荷統計、NEDOの風力発電設備実績統計、包蔵水力調査、地熱発電の現状と動向、RPS制度・固定価格買取制度認定実績などにより資源エネルギー庁作成。
固定価格買取制度導入後の賦課金の推移
※ 平均モデル:東京電力EPや関西電力がHPで公表している月間使用電力量260kWhのモデル
温室効果ガス(GHG)の排出問題
地球温暖化対策のために、温室効果ガス(GHG)の削減は急ぐべき問題となっていますが、石油・石炭・LNG(液化天然ガス)など化石燃料は温室効果ガスを多く排出するため、化石燃料を使う電源が増えると温室効果ガスも増えてしまいます。
東日本大震災以降、日本の温室効果ガス排出量は増加し、2013年度には過去最高となる14億トンもの温室効果ガスを排出しました。その後は減少し、2017年度は東日本大震災前の2010年度の排出量を下回りました。
日本の温室効果ガス排出量の推移
(出典)総合エネルギー統計、環境行動計画(電気事業連合会)、日本の温室効果ガス排出量の算定結果(環境省)を基に作成。
2017年度(平成29年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について(国立環境研究所)
とはいえ、安心はできません。「パリ協定」に基づいて定めた温室効果ガスの削減目標を実現するには、さらなる努力が必要だからです。日本は2030年までに、2013年度比で26%の温室効果ガス削減を目標としています。この数値は、他国の削減目標と比べても高いものです(「今さら聞けない『パリ協定』 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」、「『パリ協定』のもとで進む、世界の温室効果ガス削減の取り組み② ~日本の目標と進捗は?」参照)。
日本の2030年目標「2013年度比で26%削減」
(出典)主要国の約束草案(温室効果ガスの排出削減目標)の比較(経済産業省作成)
一方、世界に目を転じてみると、世界のエネルギー起源温室効果ガスは、2016年に321億t-CO2になりました。1990年から2016年のCO2排出量を各国別に見ると、EUでは排出量は下降していますが、中国、インド、アフリカといった新興国での排出量が増加しています。
2018年の温室効果ガス排出量シェアで見ると、中国が26.6%でトップ、インドは4番手の6.7%と、日本のシェア2.7%とくらべても高いシェアを占めています。こうしたことから、新興国でCO2排出量削減の取り組みを進めていくことも重要になってきます。
世界のエネルギー起源温室効果ガス排出量の推移(1990~2016)
(出典)CO2 EMISSIONS FROM FUEL COMBUSTION 2018 Highlights(IEA)
エネルギー起源温室効果ガス排出量の多い国・地域のトップ10を抽出、カッコ内の数字は2016年排出量(百万トン)
※ 非エネルギー起源温室効果ガス排出量は含まれていません。
各国別の温室効果ガス排出量シェア(2018年)
(単位)CO2百万トン換算
(出典)IEA CO2 EMISSIONS FROM FUEL COMBUSTION (2018 Edition)
2015 Greenhouse-gas emissions(2018 Edition)
2030年に向けたエネルギー政策
さまざまな課題に対応するために、日本では将来へ向けたエネルギー政策の基本方針を定めています。「3E+S」と呼ばれるこの方針は、安全性(Safety)を大前提とし、自給率(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)を同時に達成しようという考え方です。
このエネルギー政策の基本方針にもとづき、2030年における日本のエネルギー需給構造のあるべき姿も提示されています(「新しくなった『エネルギー基本計画』、2050年に向けたエネルギー政策とは?」参照)。それは、エネルギー源ごとの強みが最大限に発揮され、弱みが補完されるような、多層的なエネルギー供給構造を実現することが重要だという考え方です。さまざまなエネルギーや電源を組み合わせること必要だという観点から「エネルギーミックス」とも呼ばれています。
今後は2030年に向けて、エネルギーミックスをどう実現させていくかが重要となります。「2019—日本が抱えているエネルギー問題(後編)」では、そのための具体的なエネルギー政策を解説します。
お問合せ先
長官官房 総務課 調査広報室
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