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発電や小売にフォーカスがあたりがちな「電力システム改革」。しかし、実は送配電の部分についても改革が進んでいることを知っていましたか?今回は、送配電部門の改革のため行われている「法的分離」の目的と方法、送配電部門の分社化により何が起こるのかをご紹介します。
送配電部門の改革の話の前に、まずは「電力システム改革」について、改めて振り返ってみましょう。現在進められている電力システム改革以前の日本の電気事業は、各地域につきひとつの電力会社が、「発電」「送配電」「小売」という3部門を一貫して提供するという、地域独占の形態にありました。また、電気の小売料金について、発電や送電などにかかったコストに応じて金額が決まる「総括原価方式」がとられていたため、設備などに行った投資を回収できることが保証されていました。このしくみは、全国各地に電気をあまねく行き渡らせる環境をつくることに寄与しました。その一方、こうしたしくみは、経営の効率化がはたらきにくいという側面もあることから、電力の安定供給を継続しつつ、同時に、電気料金を最大限抑制し、電気利用者の選択肢と企業の事業機会を拡大することを目的とした、「電力システム改革」が行われることとなりました。
1995年以降、数回にわたる制度改革を行い、発電部門は原則参入自由となり、競争原理が導入されました。小売部門についても段階的な自由化を実施し、2016年4月、全面自由化が実現しました(「電力小売全面自由化で、何が変わったのか?」 参照)。しかし、発電部門と小売部門が自由化されても、電気を各会社や家庭に届ける送配電部門が、これまでの電気事業者と新しく参入した事業者を平等に扱わないと、健全な競争が行われず、改革は進みません。発電した電気を各会社や家庭に販売するためには、自分で発電した電気を消費するのでない限りは、電柱や電線などの送配電網を利用する必要があるためです。送配電部門の改革は、発電や小売の改革を進めるための鍵だといえます。
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とはいえ、送配電網全体で電気の需要と供給のバランスをとる「需給管理」や、電柱や電線など送配電網の建設・保守業務については、スケールメリットの観点などから、一社が一元的に行うほうが効率的という状況があります。地域のすみずみまで張り巡らされた送配電網を一元的に管理することで、二重投資を防ぐこともできます。こうした背景から、送配電部門に関しては、発電部門や小売部門のように自由化で新規参入を促す方法ではなく、これまでのように、ひとつの事業者が地域独占的にサービスを提供する形態は残しつつも、さまざまな事業者が送配電網を公平に利用できるよう、中立性を高める改革が進められています。このような、送配電網の中立性を確保する方法のひとつが、「法的分離」(送配電部門の分社化)です。
これまで送配電部門は、各地域の電気事業者が構築し、独占的に運用していました。この送配電部門を電気事業者から分離すれば、中立性を高めることができます。分離する方法は、おおむね4つのタイプに分類されます。(1)「会計分離」送配電部門の会計を他部門の会計から分離する方法。これにより、送配電部門への料金支払などの条件について、ほかの電気事業者とのあいだでの公平性が向上します。(2)「法的分離」送配電部門全体を別会社化する方法。各事業部門の行為、会計、従業員などを明確に区分します。フランスやドイツの一部で採用されており、民営電力会社では持ち株会社形式などが想定されています。(3)「所有権分離」「法的分離」のように別会社化したうえで、発電部門や小売部門の会社との資本関係も解消する方法です。英国や北欧で採用されており、電力会社が国有の国で事例が多くあります。(4)「系統運用機能の分離」送配電設備は電力会社に残したまま、送電線を運用したり指令を出したりする機能(系統運用機能)のみを別の組織に分離するものです。系統運用は、独立した系統運用者が行います。米国の一部の州で採用されています。
「発送電分離」の類型
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日本では現在、2003年の制度改正により「会計分離」が導入されています。また、情報の目的外利用や差別的な取扱いの禁止、送配電などの業務を支援する機関を設置するなどして、送配電部門の公平性・透明性を確保する取り組みが行われています。しかし、制度改正を経てもなお、この方法では中立性が不十分だという指摘もあり、さまざまな視点から検討を行った結果、2013年、送配電部門を別会社にする「法的分離」を実施することが閣議決定されました。2015年6月に成立した改正電気事業法により、「法的分離」は、2020年に実施される予定で、これにより、送配電事業者は発電や小売事業を営むことを原則として禁じられます。
この方法では、送配電部門は別会社となるものの、グループ会社として、発電部門や小売部門との資本関係は残ることとなりますが、人事や予算などの面で、厳しい行為規制を課すことによって、送配電部門の中立性をしっかりと確保していくことが重要です。たとえば、資本関係を持つ発電・小売事業者などが送配電事業者に対して影響力を拡大し、グループ内の発電・小売事業者を優遇する恐れがあります。また、送配電事業者の取締役と、同グループ内の発電・小売事業者などの取締役などや従業員が兼職した場合、発電・小売事業者等の有利になるような行動をとる恐れがあります。こうした懸念点も含め、行為規制の運用の詳細について、現在、検討がなされています。また、送配電部門については引き続き地域独占の業態になるため、これまでと同様、「総括原価方式」に基づく料金規制が継続されます。
現在、法的分離の実施にともない、送配電部門のより一層の中立性を確保するために講じることとされている行為規制の具体的内容について、検討が進められています。この際、法的分離が行われることで、これまで3部門の事業が一括で行われてきたことによる需要家の利便性にも考慮しつつ、制度の詳細について検討が進められています。
これまでは、災害などによる大規模停電が発生すると、電気事業者の小売部門のコールセンターなどが、送配電部門と連携して、停電場所、復旧見込みなどの情報を共有。需要家(電力の利用者)から入る問合せへの対応や、マスコミへの広報活動などを担い、送配電部門をサポートしていました。これまでに確保されてきた電力の安定供給が改革以降も失われることなく、需要家である私たちの利便性が保たれることが重要です。送配電事業者が中立性を確保すると同時に、需要家の利便性が損なわれることのないよう、これまでの実態も十分に考慮しながら制度の検討が進められています。
これまで、離島や山間部などでは、発電・送配電・小売の3部門が一体となって業務を行っており、非常時などの対応も含め、安定的かつ効率的な電力供給を実施してきました。制度改革にあたっては、こうした効率性が損なわれることのないよう、実態を踏まえたルールの検討が行われています。なお、送配電事業者は離島供給を行うこととされていますが、発電や小売事業を営むことが原則として禁じられる法的分離後も、送配電事業者が離島供給を行うために発電事業を営むことは、例外的に認められます。
電力システム改革をさらに推し進め、なおかつこれまでの安定的で効率的な電力供給を損ねることのないよう、さまざまな論点を検討したうえで制度の詳細を設計することが重要となっています。
電力・ガス事業部 電力産業・市場室
長官官房 総務課 調査広報室
※掲載内容は公開日時点のものであり、時間経過などにともなって状況が異なっている場合もございます。あらかじめご了承ください。
2024年2月発行の「日本のエネルギー」パンフレットに基づき、2023年日本が抱えているエネルギー問題について3回にわたりご紹介します。