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電力市場は2016年4月に、ガス市場は2017年4月に小売が全面的に自由化されるなど、大きな変化をもたらしている電力・ガスシステム改革。これにより、事業者間の競争や新規事業者の参入がますます盛んになると考えられており、世界で競争できる日本のエネルギー企業の誕生も期待されています。今回は、電力・ガス産業のグローバル展開について見ていきましょう。
小売分野の全面自由化をきっかけに、国内の電力・ガス市場は競争が始まっています。しかし、日本国内では、少子高齢化による人口の減少により、エネルギーの需要は2030年度も2013年度と同程度の水準の見通しです。今後、電力・ガス産業を取り巻く経営環境はきびしさを増すと考えられます。
国内の電力需要の見通し
一方、世界に目を移してみると、電力・ガスの需要は着実に増えています。とりわけアジア諸国では、天然ガスの需要などが大きく伸びており、今後も需要の拡大がつづくと考えられています。また、発電分野ではIPP(Independent Power Producer、発電のみを行う独立系発電事業者)による電力の卸売市場が拡大するなど、マーケットの変化も進んでいます。
世界の電力需要の見通しとガス需要の見通し
(出典)IEA “World Energy Outlook 2015,2016””より作成
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日本の電力・ガス産業の成長には、需要が大きく伸びる海外市場の獲得が欠かせませんが、グローバル展開の持つ意義は、こうした市場獲得を通じた経済的な成長や産業競争力の強化にとどまらず、事業者の経営基盤の強化を通じた安定的な国内のエネルギー供給や、調達力の向上を通じた多様なエネルギー源の確保にも役立つものです。加えて、技術の継承や人材育成に役立つ点も見逃せません。たとえば、水力発電の維持管理には、技術の継承や人材育成が欠かせません。日本国内の新たな大規模水力発電所の開発余地は限りがある中、海外で新設される水力発電所で国内の技術者が経験を積むことを通じて、自社の人材を育成し、技術を継承し、それによって国内の安定供給に寄与することが考えられます。さらには、日本の持つ優れた技術が他国に貢献するという点も重要です。電力・ガス分野における日本の先進的な低炭素技術を海外に展開することで、途上国の経済開発と温室効果ガスの削減にも貢献することが期待できます。また、海外ではすでに、エネルギー市場の自由化や再エネ導入の拡大が進んでおり、日本国内のシステム改革に先駆けて、こうした海外の市場で学びを得たノウハウなどを国内事業へ役立てることにも、大きな意義があります。
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欧米では、日本に先駆けて、電力・ガス市場の自由化が進んできました。欧州の電力・ガス会社は、1990年代後半の自由化以降、電力・ガスというエネルギーの枠を超えた総合エネルギー産業化を図りつつ、新たな市場獲得を進めてきました。また、2000年代後半からは、再エネの導入も拡大してきました。近年は、脱炭素化、分散化、デジタル化などの流れのなかで主力事業の転換を図っています。
エネルギー事業のトレンド
(出典)電力自由化を勝ち抜く経営戦略(エネルギーフォーラム)などより作成
欧州の主要電力・ガス会社は、さらに、欧州域内から域外市場への展開を実施。中南米や中東、アジアを含め、世界市場へ展開した結果、売上高数兆円規模のグローバルプレーヤーへと成長を遂げています。近年は、さらなる成長機会を求めて域外市場への展開を増加させている一方、自国周辺への回帰も一部で見られています。
主要電力・ガス各社の売上高の推移(2000~2016)
(出典)各社のAnnual Reportなどより作成
※国外発電容量は、持株比率を掛けた持株容量を用いている。 (出典)各社の報告書より作成
日本の電力産業のグローバル化は、1960年代にタービンや発電機単体の輸出から始まり、1980年代後半からは商社が中心となってIPP事業に参入していきました。電力会社は、国内の電力自由化が始まった2000年以降、本格的に海外事業に参画しています。
日本の電力・ガス事業のグローバル化の歴史
また日本の大手ガス事業者は、1990年代から海外事業にのり出しました。当初の大きな目的は原料調達でしたが、現在では事業領域を拡大し、現地でのガスの販売・配給、発電事業なども行うようになっています。
最近は本格的に海外事業に取り組む日本の電力・ガス会社も増えてきました。海外展開を経営計画のなかに位置づけ、エネルギー需要が拡大しているアジアを中心に、それぞれの強みを活かした展開を行っています。そのいくつかをご紹介します。
2011年に電源開発などがインドネシアに現地事業会社を設立、高効率石炭火力発電(「さまざまなエネルギーの低炭素化に向けた取り組み」参照)に参画しました。高効率で、窒素酸化物などの排出を抑えることのできる発電方式を使用して、すぐれた環境対応を実現する予定です。このような新規の大規模発電所の建設・運営を通じて、人材育成・技術継承につなげることを目的としています。
技術力の向上や人材育成を目的として、海外の水力発電事業に積極的に参画。現在建設中のプロジェクトとしては、ラオスのナムニアップやインドネシアのラジャマンダラなどがあります。海外で国際的な技術力を身につける一方で、建設現場では日本流の改良を加えるなど、より高い技術水準をめざしています。
2016年、東京ガスは、ペトロベトナムガス社およびビテクスコ社と「LNGベトナム社」を設立。LNGの調達・販売およびLNG受入基地の建設・運営へ参画する計画です。現地政府や企業と連携し、エネルギーインフラの構築や天然ガスの普及促進・高度利用の支援を通じ、アジアの経済成長や環境問題解決に貢献することをめざしています。
米国を中心に6カ国13プロジェクトに参画し、発電所持分容量は140万kW(国内180万kw)。自由化やエネルギーの市場取引が進んでいる米国などの電力ビジネスに関して、ノウハウを蓄積。国内の電力市場の活性化への寄与も期待されます。
電力需要の急増や国産ガスの枯渇に直面する国々に対し、LNG供給から受入設備建設・運営、発電所建設・運営までをパッケージ化して提供。流動性が高く、透明なアジアLNG市場の創出に貢献することをめざしています。これにより、エネルギー安全保障の向上や、市場間裁定による価格の安定といった、国内への利益還元が期待されています。
2017年、中部電力は三菱UFJリースとともに、ドイツの洋上風力発電向けの送電事業に参画しました。北海洋上の風力発電を結ぶ4つの海底送電線の運営および保守を行っています。この海底送電事業のノウハウを国内にフィードバックし、国内送電事業の高度化をめざす予定です。
新たな市場を獲得するためのグローバル展開は、基本的には民間の事業者が経営戦略の一貫として行うものです。しかし、エネルギー分野では、世界的に見ても、政府が国内事業者のグローバル展開を支援する例は少なからずあり、特に途上国のエネルギー市場を巡る各国間の競争は、よりし烈になってきています。また、各国の政治経済と密接に関連しているため、制度変更といった政治リスクなど、一民間事業者では対応しきれない課題がいろいろとあります。そのため、政府による対応が求められるケースが少なくありません。国としては、エネルギー政策上の意義をふまえながら、民間事業者のグローバル化を後押しする環境整備を行っていきます。
日本企業のグローバル展開はアジア地域への進出が中心でしたが、近年は北米への進出も増えています。また、ヨーロッパや中東などの地域にも進出するケースが出つつあります。事業分野としては、これまでは発電事業がほとんどで、ガスや石炭を使った火力発電を中心としてきました。再エネへの参入も始まっています。さらに、送配電分野のグローバル展開なども始まりつつあります。
日本の電力・ガス会社の海外IPP事業に関する電源種別持分容量の総計
※2017年11月時点の10電力会社、電源開発、東京ガス、大阪ガスの実績合計。数字は持ち分容量(建設中含む)。北米の石炭は重油(87MW)含む (出典)各社IR資料、各種記事及びヒアリングにより整理
国内電力・ガス会社のグローバル展開を加速するためには、参入地域や事業領域を拡大していくことが求められます。こうした中、2017年10月に開催された「経協インフラ戦略会議」では、鉄道および情報通信と並ぶ重点分野のひとつとして、電力分野についての海外展開戦略が取りまとめられました。日本の電力・ガス会社の持つノウハウを活かした海外事業の拡大などを、より押し進めていく計画です。
電力・ガス事業部 電力産業・市場室電力・ガス事業部 ガス市場整備室
長官官房 総務課 調査広報室
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