脱炭素化に向けた国際連携のさらなる一歩、「東京ビヨンド・ゼロ・ウィーク2021」③

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温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」、さらには過去に大気中に排出されたCO2も削減する「ビヨンド・ゼロ」。この大きな目標を実現するために、さまざまな議論をおこなう国際会議を集中して開催するのが「東京ビヨンド・ゼロ・ウィーク」です。2021年の会議の模様をお伝えするシリーズ第1回は新しく追加された2つの会議を(「脱炭素化の実現に向けた国際連携のさらなる一歩、『東京ビヨンド・ゼロ・ウィーク2021』①」参照)、第2回はエネルギー関連の3つの会議をご紹介しました(「脱炭素化の実現に向けた国際連携のさらなる一歩、『東京ビヨンド・ゼロ・ウィーク2021』②」参照)。最後となる第3回は、環境にまつわる3つの会議をご紹介します。

環境活動をささえる金融と技術に関する3つの会議、その注目ポイントは?

エネルギー・環境関連の国際会議を10月の1週間に集中しておこなう「東京ビヨンド・ゼロ・ウィーク」。2021年は10月4日から8日にかけて8つの会議が開催されました。このうち、環境にまつわる3つの会議、「第3回TCFDサミット」「第8回ICEF」「第3回RD20」の内容や成果をご紹介しましょう。

「第3回TCFDサミット」

世界的な気候変動への関心の高まりを受けて、企業の気候変動に関する取り組みの重要性は一層高まっています。気候変動問題に関する企業の情報開示をうながす「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」に賛同する企業も加速度的に増えており、2021年9月30日時点で賛同者は世界で2529機関、日本で509機関まで拡大しています。企業の情報開示は、企業に気候変動への取り組みをうながす投資家が適切な投資判断をおこなう際の基盤となります。

この気候変動に関する情報開示のあり方などを議論する場として、2019年に始まったのが「TCFDサミット」です。今回も、世界で先進的な取り組みを進めている産業界・金融界のリーダーが集まり、開示される情報の拡充をうながすべく、TCFD提言の活用を議論しました。オンライン形式の会議には、28カ国・地域から約3600名が参加しました。

冒頭で、萩生田経済産業大臣は、日本が「2050年カーボンニュートラル」の目標達成に向けてTCFD開示を支援し、率先して気候変動対策へ貢献していくことを表明しました。また広瀬経済産業審議官は、日本が世界の脱炭素化をリードし、技術への資金供給を通じて企業のカーボンニュートラル実現を支援していくことを述べました。さらに、カーニーCOP26顧問・国連気候大使、黒田日銀総裁をはじめとした各国のリーダーからメッセージが寄せられました。

カーニーCOP26顧問・国連気候大使、黒田日銀総裁の写真です

また、情報開示の環境変化や広がり、課題、投資家の役割などをテーマに、4つのパネルディスカッションがおこなわれました。議論の要旨はサミット総括として取りまとめられましたが、主要な成果としては以下の認識が共有されたことがあります。

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リストアイコン ① 投資家によるカーボンニュートラルへのコミットメントは、「ダイベストメント」(投資の引き上げ)ではなく、「エンゲージメント」により達成することが重要
リストアイコン ② サプライチェーン全体の脱炭素化をめざす観点からも「スコープ3」(材料調達や製品を出荷した以降のフェーズ)は重要であり、排出や削減の算定方法の確立が必要
リストアイコン ③ 化石燃料への依存度が高いアジアを中心として、世界的に「トランジション・ファイナンス」(環境負荷の低い方法に移行するための投融資)は不可欠

TCFDサミットで行われたパネルディスカッションの様子を写した写真です

また、日本のコンソーシアムの活動をきっかけに、海外でもコンソーシアム設立に向けた動きがあり、日本からの貢献が世界的な情報開示の拡大に果たす役割が大きいことも評価されました。日本は、改訂版の「グリーン投資ガイダンス2.0」、「ゼロエミチャレンジ第2弾」もこの会議の場で発信しました。

2022年4月に開催される日本取引所グループ(JPX)の「プライム市場」会員となる企業には、TCFDにもとづく開示が求められることから、企業にとってより切迫した課題となります。「経済と環境の好循環」の実現のため、TCFD開示がさらに充実するよう、次回は2022年秋に開催予定です。

「第8回ICEF」

気候変動問題の解決に向けたイノベーションの重要性について議論する「ICEF(Innovation for Cool Earth Forum)」は、日本のイニシアチブにより2014年に設立された国際的なプラットフォームです。世界各国からエネルギー・環境分野をリードする有識者や指導者をまねき、イノベーションによって気候変動問題の解決をはかるため、産官学の議論と協力をうながすことを目的としています。

ICEFのイメージを示したイラストです

今回は2日間にわたりオンラインで開催され、87カ国・地域から2000名以上が参加しました。会合では、ビロル国際エネルギー機関(IEA)事務局長、ブルームバーグ国連気候変動担当特使をはじめ、世界の第一人者が11のセッションに登壇しました。また各セッションにおいて、2050年の社会の中心をになう35歳以下の若手世代が議論に参加したことも大きな特徴です。

冒頭で、萩生田経済産業大臣がメッセージを寄せ、カーボンニュートラルの達成に向けて、各国がそれぞれの実態に応じたさまざまな道筋を追求するのが重要であること、その道筋の選択肢を広げるために研究開発を通じたイノベーション創出が鍵となること、そしてイノベーションを世界に広げていく必要があることを述べました。

今回は、会議全体のメインテーマを、「2050年カーボンニュートラルへのそれぞれの道筋;グローバルな脱炭素化の加速」(Pathways to Carbon Neutrality by 2050; Accelerating the Pace of Global Decarbonization)とし、カーボンニュートラルを達成するための具体的かつ“現実的”な手段、多様なPathways(道筋)に焦点があてられました。

さらに、2030年までの短期的、2050年への長期的それぞれのタイムスケールにおいて、政府、企業、消費者などあらゆるステークホルダーの視点から、不可欠なアクションやイノベーションについて議論がおこなわれました。

ICEFで行われたセッションの様子を写した写真です

これら一連の議論をふまえて、その成果を盛り込んだ「ICEFステートメント」が採択されました。ステートメントでは、2050年に中心となる若手世代の参画が重要であることが示され、インフォグラフィックスで表されています。また、クリーンエネルギーへの移行に貢献する先端技術「Carbon Mineralization」について分析し、実現までの道筋や手法を提言する「ICEFロードマップ」の草案も公開されました。ロードマップについては、パブリックコメントを反映した後に、2021年11月に英国グラスゴーで開催されたCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)で正式に発表されました。

「第3回RD20」

「RD20(Research and Development 20 for clean energy technologies)」は、2019年にG20サミットを契機として日本主導で立ち上げられた国際会議です。クリーンエネルギー技術に関してG20 各国を代表する研究機関のトップが集まり、国際連携を通じた研究開発の促進により、脱炭素社会の実現を目指すことを目的としています。

10月8日に開催されたリーダーズ・セッションでは、今回も20カ国・地域からクリーンエネルギー分野における24の研究機関のトップが参加し、国際連携の強化に向けて議論をおこないました。参加登録者は国内外の約1200名でした。

RD20の出席者の写真です

冒頭で、萩生田経済産業大臣がメッセージを寄せ、世界のカーボンニュートラルの達成に向けた本会議開催の意義を強調しました。その後に実施された、産業技術総合研究所の石村理事長が議長をつとめ、24機関のトップが参加した議論では、国際共同研究の推進、人材や施設の能力開発の強化、知的財産の重要性などが指摘されました。

こうした議論の成果として、24機関の合意により、これからの参加機関の連携の方向性を示す「リーダーズ・ステートメント」が採択されました。

RD20のセッションの様子を写した写真です

また、この会合に先立って9月29日から10月1日にかけて開催されたテクニカル・セッションでは、個別技術テーマごとの有識者による講演とパネルディスカッションをおこないました。カーボンニュートラル実現の観点から優先順位の高いテーマとして、①分野別の脱炭素化戦略、②水素の社会受容性、③次世代エネルギー制御システムの3つのテーマが取り上げられ、その成果も本会議で報告されました。

さらに、9月28日に開催されたタスクフォース・セッションでは、具体的な国際共同研究プロジェクトを生みだすための新たな活動「国際連携タスクフォース」についての議論をおこないました。タスクフォースの下に個別分野ごとのタスク・グループが設置されており、今回は太陽光発電や水素など、5つのタスク・グループの参加を得ました。

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3回に分けてご紹介した「東京ビヨンド・ゼロ・ウィーク2021」。開催会議数も増え、各国政府の閣僚級や、IEAなど国際機関、各国研究機関、イノベーションリーダー、産業界から多数が参加する充実した内容となりました。日本がリーダーシップをとるエネルギー・環境分野の取り組みを含め、国際的な議論や協力をリードするプラットフォームとして、世界全体のカーボンニュートラル達成に貢献するべく来年度も開催予定です。

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