脱炭素化に向けた国際連携のさらなる一歩、「東京ビヨンド・ゼロ・ウィーク2021」①

イメージ

「脱炭素化社会」の実現には、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」はもちろん、過去に大気中に排出されたCO2も削減する「ビヨンド・ゼロ)を目指した取り組みを進めていくことが重要です。そのためのさまざまな革新的技術の必要性、現状を取り巻く課題、実現への道筋や手法について議論する国際会議を集中的におこなう「東京ビヨンド・ゼロ・ウィーク」が、2021年も開催されました。期間中に開催された会議でどのようなことが議論され決定したのか、3回に分けてご紹介します。

「ビヨンド・ゼロ」実現のため、より幅広い対応を協議

東京ビヨンド・ゼロ・ウィークのロゴ

これまで秋ごろに開催していた複数のエネルギー・環境関連の国際会議を、一定期間に集中しておこなう「東京ビヨンド・ゼロ・ウィーク」。初年度となった2020年は、1週間で6つの会議が実施されました。

2年目となった2021年はさらに2つの新しい会議が加わり、10月4日から8日にかけて以下の8つが開催されました。

リストアイコン 第1回アジアグリーン成長パートナーシップ閣僚会合(10月4日)
リストアイコン 第3回カーボンリサイクル産学官国際会議(10月4日)
リストアイコン 第4回水素閣僚会議(10月4日)
リストアイコン 第3回TCFDサミット(10月5日)
リストアイコン 第10回LNG産消会議(10月5日)
リストアイコン 第8回ICEF(10月6-7日)
リストアイコン 第1回燃料アンモニア国際会議(10月6日)
リストアイコン 第3回RD20(10月8日)

新たに加わったのは、「第1回アジアグリーン成長パートナーシップ閣僚会合」と、「第1回燃料アンモニア国際会議」の2つの国際会議です。これにより、「ビヨンド・ゼロ」実現へ向けた個別の挑戦課題と、それを実現する道筋や手法に関し、より幅広い分野において議論が交わされました。前年と同じくコロナ禍での開催となり、会議はオンライン形式が中心となりましたが、約90カ国から延べ約1万7000名と、前回を大きく上回る参加登録がありました。

今回の会議では、3つの全体コンセプトが提示されました。各国の実態をふまえた上でカーボンニュートラルを達成するため、多様な道筋を示す「Various Pathways」。カーボンニュートラル実現のためには欠かせないイノベーションの創出を示す「Innovation」。課題となっている途上国の脱炭素化に向けた日本のエンゲージメントの姿勢を示す「Engagement」の3つです。

これらはいずれもカーボンニュートラルやビヨンド・ゼロの実現には重要な考え方です。この3つのコンセプトをもとに、それぞれの会議で具体的な対応策について協議がおこなわれました。

エネルギー転換を現実的なものにするため、新たにスタートした2つの国際会議

まずは、新たに「東京ビヨンド・ゼロ・ウィーク」に加わった2つの会議についてご紹介しましょう。

「第1回アジアグリーン成長パートナーシップ閣僚会合」

初開催となった「アジアグリーン成長パートナーシップ閣僚会合」は、各国の閣僚や国際機関の代表などが集まる国際会議です。オンライン形式の開催でしたが、アジア太平洋および中東の20カ国に加え、3つの国際機関から閣僚や代表が参加し、閣僚としては16名が出席しました。

世界全体でカーボンニュートラルをできるかぎり早く実現するためには、先進国だけでなく途上国における取り組みも必要です。しかし、途上国では、経済成長にともなってエネルギーの需要拡大が見込まれており、「経済成長の維持」と「カーボンニュートラルの実現」という、2つを両立しなければならず、重要な課題となっています。

アジア各国における経済成長とカーボンニュートラルの同時実現という重要な課題について話し合い、多様かつ現実的なエネルギートランジション(エネルギーを転換すること)を加速する必要性について認識を共有するために開催されたのが「アジアグリーン成長パートナーシップ閣僚会合」です。アジア各国だけでなく、米国、オーストラリアといったアジアのエネルギー事情に関係が深い国も参加しています。

冒頭におこなわれた梶山前経済産業大臣のスピーチのポイントは次のようなものです。

写真

スピ―チする梶山前経済産業大臣

リストアイコン ① エネルギートランジションの道は多様であり、各国の経済・社会・エネルギー事情や技術力に応じた取り組みが効果的である
リストアイコン ② 現実的なエネルギートランジションを進めるためには、イノベーションを促進して、あらゆるエネルギー源や技術を活用していく必要がある
リストアイコン ③ そのためにはアジア各国への積極的なエンゲージメントが重要であり、日本は2021年5月に発表した「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ(AETI)」にもとづいて、幅広い支援を提供していく

「AETI」は、アジアにおける現実的なエネルギートランジションの実現を支援するもので、ロードマップ策定支援、プロジェクトへのファイナンス支援、脱炭素技術に関する人材育成・知見の共有・ルール策定などの幅広い支援策が盛り込まれています。

続く国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長のスピーチでは、前出のようなポイントに加えて、カーボンニュートラル達成には国際的なファイナンスの大規模な動員が重要であることについても意見がありました。また、各国の閣僚などによるスピーチを受けてまとめられた議長サマリーでは、①「パリ協定」の目標達成(「今さら聞けない『パリ協定』~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」 参照)に向けて、早期に世界全体でのカーボンニュートラルを実現することの重要性、②エネルギートランジション加速化の重要性、③カーボンニュートラルに向けた道筋は各国ごとに多様であることなどを確認し、その共有がおこなわれました。

「AETI」は参加国から大いに歓迎され、イノベーションに向けた国際的な産学官の連携が必要であることも認識されました。2022年秋には第2回会議を開催し、エネルギートランジションに関する各国のさまざまな取り組みの成果や進捗を確認することでも合意しました。

「第1回燃料アンモニア国際会議」

カーボンニュートラルに貢献する燃料として注目を集めているアンモニア。とりわけ火力発電の分野では、既存の発電施設を活用しながら燃料にアンモニアを混ぜて燃焼させる「混焼」、あるいはアンモニアだけで燃焼させる「専焼」といった技術でCO2排出量削減が期待されています。燃料としてのアンモニアへの期待が高まりつつある中、国際連携の必要性も認識されるようになってきました。

こうした情勢を背景に、今回初めて開催されたのが「燃料アンモニア国際会議」です。経済産業省と、国内外の企業や研究機関が参加する一般社団法人クリーン燃料アンモニア協会(CFAA)の共催で、オンライン会議には1500名を超える参加登録がありました。

登壇したのは、5カ国と国際エネルギー機関(IEA)です。また、産業セッションでは7カ国から計14件の発表がおこなわれ、生産・供給・輸送・利用までのバリューチェーンに関して興味深い取り組みが紹介されました。

写真

登壇した広瀬経済産業省経済産業審議官とビロル国際エネルギー機関事務局長

本会議の成果のひとつは、IEAによるアンモニア発電に関する分析レポート「The Role of Low-Carbon Fuels in Clean Energy Transitions of the Power Sector」の発表です。IEAのビロル事務局長は、「燃料アンモニアは、稼働年数がまだ少ない火力発電所を多く抱えるアジアにおいて、既存の火力発電所の低炭素化に大きな役割を果たす」と述べました。またこの会議の場で、日本のIHI、およびTNB Power Generation社、PETRONAS Gas and New Energy社の3社間で、マレーシアの石炭火力発電所におけるアンモニア混焼に関する協力協定(MOC)が締結されました。これは、アジアにおける火力発電の低炭素化を実現する重要な第一歩です。

今後アンモニアが燃料として活用されるためには、技術だけでなく安定的な供給も課題となってきます。安定的かつ低コストで、柔軟性のある燃料アンモニアのサプライチェーンや市場の構築についても、議事総括としてその重要性が発信されました。さらに、日本の官民で燃料アンモニアのサプライチェーン構築に向けた専門的な議論をおこなう「燃料アンモニア・サプライチェーン官民タスクフォース」の立ち上げが示されました。このタスクフォースで、次年度の「燃料アンモニア国際会議」に向けて解決策を取りまとめていく予定です。

会議全体として、燃料アンモニアに対する関心が世界的に高まっていること、エネルギー供給国では新たなクリーンエネルギーとして戦略的に活用しようとする動きがあること、アジアなどの消費国でも燃料アンモニア活用の動きがあることが、あらためて確認できました。今後はこうした国々と国際連携をとり、できるだけ早期に燃料アンモニアのバリューチェーンを実現することが重要となります。世界に先駆けて燃料アンモニアの技術開発をおこなってきた日本には、今後もこの分野において中心的役割を果たすことが期待されています。

次回は、カーボンリサイクル、水素、LNGに関する国際会議の内容をお伝えしましょう。

お問合せ先

記事内容について

長官官房 国際課
資源・燃料部 政策課
資源・燃料部 石油・天然ガス課

スペシャルコンテンツについて

長官官房 総務課 調査広報室

※掲載内容は公開日時点のものであり、時間経過などにともなって状況が異なっている場合もございます。あらかじめご了承ください。