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2018年7月、日本のエネルギー政策に関する中長期的な基本方針「第5次エネルギー基本計画」が閣議決定されました(「新しくなった『エネルギー基本計画』、2050年に向けたエネルギー政策とは?」参照)。その中で、再生可能エネルギー(再エネ)については、「主力電源化していく」ことが打ち出され、その方針を受けて、再エネの大量導入に向けたさまざまな検討がおこなわれています。大量導入を進めるために解決すべき再エネの課題はいくつかありますが、そのひとつには「発電を続ける力」という課題があります。今回は、「安定供給」の観点から見た再エネの課題についてご紹介しましょう。
再エネを大量導入していくために解決すべき課題の中でもっともよく知られているのは、「発電コストが高い」ということでしょう。これについては、以前から、再エネでつくった電気を一定の価格で電力会社が買い取る「固定価格買取制度(FIT)」の導入(「FIT法改正で私たちの生活はどうなる?」参照)など、発電コストを低下させるための支援がおこなわれてきました。2019年夏現在では、太陽光の買取価格はFIT制度導入当時の半分以下まで下がるなど、一定程度のコスト低減が実現されています。では、発電コストの課題さえクリアされれば、すぐにでも再エネを大量導入することができるのでしょうか?実は、発電コスト以外にも、解決する必要のあるいくつかの課題が残されています。それは、技術的な課題によって起こる、「電力を安定的に供給する」ということにまつわる問題です。
問題となることのひとつは、「発電持続機能」です。これはたとえば、電気を送る送電線で、送電線につながっていた発電所などのひとつが停止して送電線のネットワークから離脱したり、落雷が起きるなどの突発的なトラブルが発生し、電気の品質(周波数や電圧など)や電気の流れが変化したときに、変化に対応しながら発電を持続する能力や、出力(発電量)を機動的に増やしたり減らしたりする能力のことです。ひとことで表現すれば、「耐える力」という言い方もできるかもしれません。この「耐える力」が電力系統全体で弱くなってしまうと、災害などの突発的なトラブルに対する耐性(「レジリエンス」と言います)が下がってしまうという問題が発生します。実は、再エネを増やしていく中で注意しなくてはいけないのは、太陽光や風力のような発電は、その特性上、現時点ではこの“耐える力”が他の発電方法と比較して弱いという点です。
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火力発電、水力発電、原子力発電、太陽光発電や風力発電といったさまざまな発電方法には、それぞれの“特性”があり、どのような発電方法を組み合わせるかという「電源構成」を考える際には、電源ごとの特性をふまえることが重要になります。「発電持続機能」は、そのような、考慮すべき特性のひとつなのです。
では、これらの発電はなぜ“耐える力”が比較的弱いのでしょう?それには、理科の授業で習う「直流」と「交流」という電気の種類が関係しています。実は、火力発電のようなタービンなどの回転体を利用して発電する電気は「交流」ですが、太陽光発電や風力発電でつくる電気は「直流」なのです。一方、私たちが家庭やオフィスのコンセントを通じて受けとり使っている電気は、すべて交流電気です。そのため、直流電気を発電している太陽光や風力といった発電は、発電後に電子機器をはさんで交流電気に変換してから送電線へ流しているという特徴があります。風力発電は風車が回っていることから、タービン発電と近い発電方法なのでは?と思うかもしれません。実際、風力発電は風車の回転運動を電気に変えるため、タービン発電と同様に「交流」の電気を発電します。しかし、風の強さは常に一定ではなく、風車の回るスピードは風によって大きく変動してしまうため、一定の回転スピードで発電するほかのタービン発電とは合わず、そのまま送電してしまうと電気の品質に悪影響を与えます。そこで、回転の変動による影響をなくすため、一度「直流」に変えてから、再度安定した「交流」の電気に変えているのです。このように、直流電気を送電線へ送る際には電子機器を挟むのですが、この電子機器は電気の性質や電気の流れの急激な変化に弱いため、もしも送電線のどこかで事故が起きて電気の性質や流れが大きく変わった場合には、電子機器が壊れてしまう恐れがあることから、発電を一度止めて機器を保護する必要が生じます。つまり、太陽光や風力といった発電方法は、現時点では、「送電線に何か事故が起きた場合には連鎖的に止まってしまう可能性がより高い発電」ともいえます。こうしたことから、特に対策をおこなうことなく太陽光発電や風力発電を大量に導入してしまうと、送電線で発生した突発的なトラブルに対して影響を受けやすくなる可能性が高まるのです。なお、再エネの中でも、水力や地熱、バイオマス発電は交流のタービン発電なので、火力発電などと同じく「耐える力」を持ちます。
太陽光発電や風力発電が持つこのリスクがよくわかるのが、2016年9月28日、オーストラリアの南オーストラリア州での出来事です。同州ではこの日、複数の落雷が発生して、送電線が損傷する事故が発生しました。この事故が起きた時間帯は、風力発電で電力供給全体の約5割を、火力発電で約2割を、ほかの州から電力供給を受けることで残りの約3割をカバーしていました。しかし、この事故により、急激な電気の品質や電気の流れの変化が複数回発生。これにより、電力供給の大部分を占めていた風力発電は、電子機器を保護するために一斉に発電を停止しました。結果、需要と供給のバランスが大きく崩れてしまったのです。この場合、対策として考えられるのは、隣の州から電力を融通してもらったり、火力発電の出力を増やしたりすることで、需要と供給のバランスを取るといった方法です。しかし、州内の電力の品質(「系統安定度」と言います)が悪くなってしまったことで、近隣の州も電力の品質に影響が及ぶことを恐れて、連系線の一部が閉鎖されてしまい、電力融通を受けることができませんでした。さらに、風力発電の停止と連系線の閉鎖は約2分というきわめて短い時間で起こったために、火力発電の出力(発電量)を増やす対策もまにあいませんでした。そのため需要と供給のバランスを維持できず、結果的に州全体で大規模停電(ブラックアウト)を引き起こしてしまったのです。
このように、安定的な電力供給を実現するためには、各エネルギー源としての特性を踏まえて活用することが重要となります。それと同時に、太陽光発電や風力発電については、安定供給面などの課題解決に向けて、技術の開発を進める必要があります。たとえば、電気の品質や電気の流れの変化に強くなるような技術や、天候の影響を減らすことができるような安価な蓄電池の製造技術などが考えられます。安定的な電力供給を維持できるよう、発電方法の組み合わせに注意を払いながら、また同時に、電源ごとの弱い特性を技術の組み合わせでフォローできるよう、引き続きさまざまな技術開発を支援していきながら、再エネの主力電源化を目指していきます。
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