電力のピンチを救え!大活躍する「揚水発電」の役割とは?

上野ダムの写真です

揚水式の神流川発電所・上野ダム(提供:東京電力リニューアブルパワー)

最近、電気に関するニュースで、「揚水発電」という言葉を耳にすることが増えたと思いませんか?なぜ、今、揚水発電に注目が集まっているのでしょう。実は、揚水発電は、「カーボンニュートラルの実現」と「電力供給の安定」という、私たちが目指す重要な2つの目標を達成する上で大きな役割を担っているのです。今回は、揚水発電のしくみをおさらいしながら、揚水発電に期待されている役割について見ていきましょう。

揚水発電とは?水力発電との違いは?

揚水発電とは、水をくみあげ、その水を落下させることで発電する方式の電源(電気をつくる方法)。ダムを使った水力発電と異なるのは、まず水を高い場所へ「くみあげる」ことが必要となる点です。

2022年時点における日本の揚水発電は、全国で42地点、合計約2700万kWの発電出力で、発電量全体のうち約1.3%を占めています。これは世界第2位の規模です。

神流川発電所の写真です。

神流川発電所(提供:東京電力リニューアブルパワー)

水のくみあげには「揚水ポンプ」を動かしますが、この時には電気が使われます。「電気を使って電気をつくる」というと不思議に聞こえるかもしれませんが、もともと揚水発電は、需要の少ない夜間の電気を有効活用するためにつくられたもの。夜間の余った電気で揚水ポンプを稼働させておき、電気がたくさん必要となる昼間に水を落下させて電気を供給します。つまり、夜の電気を昼間に“移動”させているわけです。

この、“移動させる”機能が、「カーボンニュートラルの実現」と「電力供給の安定」に役立つと考えられています。それぞれを詳しく見ていきましょう。

揚水発電の役割①再エネの「蓄電池」として活躍

太陽光や風力といった再生可能エネルギー(再エネ)は、出力(発電量)が天候に左右されます。電力は、使う量と発電量のバランスが取れている必要があり、再エネの出力が急に増えたり減ったりした場合に備えて、余った電気を使ったり電気の不足をカバーする「調整力」が必須となります。

揚水発電は、この「調整力」になることができます。

前述の通り、揚水発電は、ダムに水をくみあげる際に電気を使用します。そこで、再エネが必要以上に発電し電気が余った場合には、揚水発電を稼働させることで、“電気の需要を増やす”のです。くみあげられた水は、再エネの出力が弱まるなどして電気が足りなくなった時の発電に使われます。これは、再エネの電気をたくわえて必要な時に供給する「蓄電池」の役割をはたしているとも言えます。

余った再エネの電気をたくわえる揚水発電使用のイメージ
一日の電力需要の動き(朝から昼にかけて需要が大きくなる)と、それに対して太陽光・火力発電等がどのように電気を供給するか、またその際どのように揚水発電が使用されるかを示した図です。

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電力が余った際に需給バランスを保つための手法はいくつかありますが、まず火力発電の抑制、揚水発電の稼働の2つが優先的におこなわれます。

揚水発電の役割②電力を“移動”させて安定供給をサポート

揚水発電のもうひとつの役割は、電力需要が低い時間に水をくみあげ、需要ピーク時に稼働して電気を追加的に提供するというものです。夜間から昼間への電気の“移動”のように、需要が低い時間から高い時間へ電気を“移動”させるわけです。

2022年3月下旬に発生した東京電力管内における電力需給ひっ迫では、揚水発電の「発電可能量」つまりくみあげた水の残量が、需要ピークを抜けるまで保つかが焦点のひとつとなりました。東京電力パワーグリッドは、「でんき予報」やSNSを通じて、揚水発電の発電可能量の目標値/実績値を公開しました。

2022年3月の東京電力パワーグリッドの情報公開例
2022年3月下旬に発生した東京電力管内における電力需給ひっ迫において東京電力パワーグリッドが公開した、揚水発電による発電可能量の目標値と実績値を示した図です。

(出典)第46回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス基本政策小委員会 資料3-1「2022年3月の東日本における電力需給ひっ迫に係る検証について」(PDF形式:3,166KB)

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東京電力管内では2022年6月末にも「電力ひっ迫警報」が出ましたが、下のグラフは、その時、揚水発電の発電可能量がどのように変化したかを示したものです。この時揚水発電は、電力需要の少ない夜間に水をくみあげ、朝の時点で最大発電可能量(赤いライン)を確保。その水を使って22時ごろまで発電していたことがわかります。

東京電力管内における揚水発電可能量の推移(万kWh)
2022年6月末に出た「電力ひっ迫警報」の際の、揚水発電の発電可能量の推移を示したグラフです。

(出典)第52回 総合資源エネルギー調査会電力・ガス基本政策小委員会 資料4-3「電力需給対策について」(PDF形式:3829KB)

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大切な揚水発電の維持・強化に向けて

このように、重要な役割をになう揚水発電ですが、課題もあります。それはコストです。揚水発電では水のくみあげ時に約3割のエネルギーロスが発生することから、くみあげ時に使った電気料金の約1.4倍以上の価格で発電した電気を売ることができなければ、費用を回収できません。また、設備維持コストも大きいとされています。これでは、事業者が揚水発電を停止・撤退してしまうかもしれません。

「2022年3月の東日本における電力需給ひっ迫に係る検証取りまとめ」では、需給ひっ迫回避に向けた構造的対策のひとつとして、揚水発電の支援が提言されています。また、2023年2月に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~」でも、揚水発電は蓄電池と並ぶ「脱炭素型」の調整力であるとして、維持・強化を進めることを明記しています。

そこで、揚水発電の維持と機能強化を図るべく、「揚水発電の運用高度化および導入支援補助金」を実施するといった支援の取り組みを進めています。揚水発電は、これからの日本の電力ネットワークに必須の電源。これからの動きに注目です。

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