送電線に接続するための費用は“不当に高い”のか?~送電線工事の実態と費用負担の考え方
エネルギー自給率向上に役立ち、発電時に温室効果ガスを排出せず、これからの「主力電源(電気をつくる方法)」となっていくことが期待される、再生可能エネルギー(再エネ)。そんな再エネを大量に導入していくために解決すべき課題は、再エネの導入コストや、「天候に応じて出力が変動する」という特徴と深く関わっています。
これまで、「なぜ、『再エネが送電線につなげない』事態が起きるのか?再エネの主力電源化に向けて」 では、再エネを含む発電所を送電線につなぐ「接続」ルールを、また「なぜ、太陽光などの『出力制御』が必要になるのか?~再エネを大量に導入するために」 では、電気を流す際の「給電」に関するルールについて紹介してきました。今回は、電源を送電線に「接続」する際の、費用負担の考え方についてご紹介します。
Q1.「送電線につなぐためには莫大な工事費が必要と言われ、事業を諦めざるをえない」という声を聞きます。いったい、どのようなルールで工事費は決まるのでしょうか。
必要となる工事の範囲はケースバイケースで変わってきます
発電所で作った電気は、まず「送電線」に流れ込みます。次に、「変電所」で電圧を上げてから、「需要地」へと送られます(電圧を上げると、遠くに電気を送る際に電気が失われにくく、効率がよいためです)。発電所から電気を送るために必要となる工事の範囲には、この「送電線」や「変電所」が関係してきます。
まず、新しく発電所を作る場合は、発電所から既存の変電所までをつなぐ、新しい送電線を作る必要があります(ケース①)。この時、発電所を設置する場所と、既存の変電所までの距離が長ければ長いほど、必要な送電線は長くなります。それにともなって、必要となる鉄塔の数も多くなりますので、必然的に工事費の額も大きくなります。
たとえば、変電所から30km離れたところに7,000kWの発電所を作ろうとしたところ、変電所までの送電線工事だけで25億円(kWあたり約36万円)にもなってしまったというケースもあります。
また、もしも既存の変電所の設備に空きがないと、変電所の設備を増設することが必要になる場合があり、これも工事費が増えることにつながります(ケース②)。さらに、さまざまな発電所から集めた電気を変電所から先へと送る、より太い送電線の容量が満杯になっている場合、また、その太い送電線の先にある次の変電所の設備も満杯になっている場合は、こうした設備の増強が必要になります。電圧が高ければ高いほど(高電圧)、より太い送電線や大きな変電所設備が必要になり、その増強には多額の工事費が必要になってしまいます(ケース③)。
このように、既存の送電線までの距離や、より太い送電線や変電所などにまで工事の内容がおよぶか否かによって、必要となる工事費の額は大きく変わってくるものなのです。
必要となる工事費が下がるケースもあります
ある発電事業者が、発電所を送電線につなぐため電力会社に検討を依頼したところ、先ほどのケース③のように上位の送電線まで増強が必要となり、非常に高額な費用が提示されたとします。しかし、もし、この事業者より前に接続を申し込んでいた事業者が、何らかの理由で事業を取りやめたとしたらどうなるでしょう。この場合、送電線を流れる電気の全体量が減ることになるため、上位の送電線の増強工事が不要になって、ケース①のみの工事で済むようになる可能性があります。この結果、必要な工事費が大幅に下がったというケースも実際にありました。
標準的な単価を公表し、第三者による検証も導入するなど透明化に取り組んでいます
提示された工事費が高い場合など、その額が本当に必要な額かどうか疑問に思う場合もあるかもしれません。そこで、こうした時に、各事業者の方が参照できるように、「電力広域的運営推進機関(広域機関)」がHPにて、各種工事の標準的な単価について公表しています。
さらに、こうした標準的な単価と比較してみたところ、示された工事費について疑問を感じたという場合には、広域機関が第三者の目線から、その工事費が妥当なものかどうか検証できるしくみも整えています。
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- 電力広域的運営推進機関
- 電力システム改革の鍵を握る「広域機関」
Q2.送電線の増強工事の費用は誰がどのように負担するのでしょうか?
多くの場合、諸外国と同じように、発電事業者と、電力系統を保有する電力会社双方が負担します
送電線は電力会社のものなのだから、増強のための工事費は全て電力会社が負担するべきではないか、という声もあります。なぜ、すべてを電力会社の負担としないのでしょうか。それには、次のような理由があります。
発電事業者は、一般的に、発電所を設置するためのコスト(たとえば土地代など)が安くなる場所を設置場所にしたいと考えます。その設置場所が既存の送電線から遠い場所である場合には、送電線の工事のためにかかる費用は、莫大にふくれ上がってしまいます。たとえば、土地代が安いからといって遠い無人島に発電所を設置すると、海底ケーブルや長距離の送電線など、通常の送電線よりも高額な費用が必要となってしまいます。
この時、もし送電線につなぐための必要すべてを電力会社が負担するとしたら、どうなるでしょう。電力会社が負担した費用は、結局、電気料金として国民の皆さんが負担することになります。送電線のための費用がふくらめば、電気料金が上がってしまう懸念があるのです。
こうした国民負担が増大しないようにするためには、「費用の一部は発電事業者の負担」とすることで、送電線につなぐためのコストが高い場所に発電所が集中することを防ぎ、適正な立地をうながしていくことが合理的なのです。このような、送電線につなぐための費用の一部を発電事業者が負担するという考え方は、イギリスやアイルランドなど、再エネの導入が進む欧州の多くの国においても採用されています。
では、再エネ事業者はどれくらいの負担をすることになるのでしょうか。それは国が決めたガイドライン(ルール)に従って決められます。大原則は「受益者負担」、つまり、メリットを受ける人が負担するということになります。ここで言う「メリットを受ける人」とは誰のことでしょう?
もし、もっぱら新しい発電所のためだけに送電線などの工事が必要だということであれば、送電線につなぎたいと希望する発電事業者が「メリットを受ける人」となるため、事業者自身が単独で負担することになります。しかし、より高圧の送電線の工事など、他の事業者や電気を使う消費者のためにもなるものは、電力会社が負担するということになります。再エネの発電所を新規に立地する場合、以前は、すべての費用を発電事業者が負担することとしていましたが、今は、国のガイドラインにのっとって、共同で負担することになっています。
電力系統増強費用の負担に関する考え方(日欧各国比較)
Q3. 再エネ事業者の工事費負担が高いと、再エネ導入が進まなくなってしまうのではないですか。何とか負担を抑えることはできないのでしょうか?
再エネ事業者の声をききながら、多面的な施策を検討していきます
これまで、日本の送電線は、大規模な発電所の立地にあわせて設置されてきました。このような既存の送電線の場所と、再エネの発電所に適した土地は離れているケースも多く、今後再エネを大量導入していくと、送電線の増強費用がふくらみ、電気料金が上がってしまいかねません。そうならないために、関係者の声に耳を傾けながら、いろいろな取り組みを実施・検討しています。
たとえば、1社だけでは負担できない送電線増強費用を、複数の事業者で共同負担するという方式を導入しました。2018年4月現在で、全国の17エリアで、こうした共同負担方式で送電線の増強工事をおこなうことが決定しています。また、新たに18エリアでも検討が進んでいます。
さらに、送電線費用負担全体を見直ししていく中で、発電事業者が負担する工事費の割合を下げることができないかといったことも検討しています。その他、中小企業も多い再エネ事業者のため、工事費を分割して支払う手法、資機材の規格の統一などで必要な設備費用を下げる方法などについても検討しています。
こうした工夫で少しでも電気料金の上昇を抑え、工事費の負担を軽減していくべく、今まさにさまざまなアイデアが検討されているところです。
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