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電力にまつわるさまざまな仕組みを大胆に変える「電力システム改革」の第一弾として、2015年4月に設立された、「電力広域的運営推進機関」(通称:広域機関)。今回は、知る人ぞ知る広域機関について紹介します。
東日本大震災直後に首都圏で計画停電が実施されたことを覚えていますか?2011年3月11日に起こった東日本大震災により、多数の発電所が被災し、東京電力エリア内において、電力の供給力が大幅に減少しました。その結果、想定される需要の約4分の1に相当する、約1,000万kWの供給力不足が発生したのです。そこで、予測不可能な広範囲にわたる停電を回避するため、やむをえない措置として、2011年3月、10日間の計画停電が実施されました。当時、全国的にはじゅうぶんな電力の供給力があったにもかかわらず、エリアとエリアをつなぐ送電インフラが制約となって、他のエリアから首都圏の電力不足を賄う電力を融通することができなかったのです。また、それまでは、エリアごとに電力の需給調整に責任をもつ電力会社が分かれていて、全国を通じて責任をもつ組織がありませんでした。東日本大震災により明らかになった、従来の日本の電力システムがかかえる限界の一端でした。こうした課題を克服するため立ち上げられたのが、広域機関です。その役割は、日常のみならず災害や事故など不測の事態が発生した場合にも、迅速かつ円滑に電力会社間で電力の融通がおこなわれるよう、24時間365日、日本全国の電力を横断的に管理し、最適な電力ネットワークを整備すること。そして、その電力ネットワークを広域的に運用する司令塔となることです。これは、①電力の安定供給の確保、②電気料金の最大限の抑制、③電気利用の選択肢や企業の事業機会の拡大といった3つの目的からなる「電力システム改革」における、3つの柱の一つです。
広域機関の役割は、主に以下の3つです。
すべての電気事業者は、広域機関システムを通じて、発電や需給に関する年間・月間・週間・翌日・当日の計画を広域機関へ提出します。広域機関はこれらの計画を受け付け、全国やエリアの需給バランス、また事業者の需給バランスの状況を把握しています。また、全国10の供給エリア単位で管理されている電力の需給状況や送電網の運用状況を、全国規模で一元的に把握しています。状況の把握のため、各供給エリアの「中央給電指令所」という部門とリアルタイムで連携し、24時間365日監視をおこなっています。電力の需給状況を監視する中で、どこかのエリアで需要に対して供給が不足することが見込まれた場合には、ほかのエリアの電気事業者に対して、発電量を増やす(焚き増し)などして、不足しているエリアに融通するよう指示します。
これまで、広域機関は電力を融通する指示を5回おこなっています。
各電気事業者は、毎年度、今後10年間どのくらい発電、送電、販売するかということを示した「供給計画」をつくり、広域機関に提出します。広域機関はこれを取りまとめて、需給バランス評価をおこない、必要に応じ意見を付けて、経済産業大臣に送付します。ほかにも、「容量市場」( 「再生可能エネルギー拡大に欠かせないのは『火力発電』!?」 参照)、「需給調整市場」( 「再生可能エネルギー拡大に欠かせないのは『火力発電』!?」 参照)、「既存の系統の最大限の活用(コネクト&マネージ)」( 「再エネの大量導入に向けて~『系統制約』問題と対策」参照)など、中長期的な電力供給の安定に役立つ新しいしくみづくりについて、意見を提出しています。広域機関は、この需給バランス評価の結果、必要に応じて、将来的な供給力不足を回避する最終手段(セーフティネット)として、「電源入札」をおこないます。「電源」とは火力発電所や水力発電所など電気をつくる源のことで、電源つまり電気をつくる能力を入札を通して入手することで、供給力不足に対応する予備電力を準備しておきます。
さらに、広域機関は、電力を運ぶ「系統」についても中長期的な検討をおこなっています。2015年4月から2年間にわたり、長期的かつ全国的な視野で、設備の増強がどのくらい必要かを検討し、2017年3月、異なるエリア間を結ぶ「地域間連系線」などに関する長期的な方針(「広域系統長期方針」)をつくりました。この方針では、これまでの考え方から大きく発想を転換し、既存の系統の最大限の活用(コネクト&マネージ)により、効率化を図ることとしました(「送電線『空き容量ゼロ』は本当に『ゼロ』なのか?~再エネ大量導入に向けた取り組み」参照)。また、個別の地域間連系線の整備計画などもつくっています。たとえば、2016年6月には、周波数が異なる東日本(50Hz)と西日本(60Hz)を結ぶ東京中部間の地域間連系線についての計画を、2017年2月には東北エリアと東京エリアを結ぶ地域間連系線についての計画を策定し、公表しています。
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こうした計画の策定を通じて、広域機関は中長期的な安定供給の確保や電力市場の活性化に貢献しています。
広域系統運用が適正におこなわれるためには、透明性・公平性のある統一的なルールが必要です。このため、広域機関では、各電気事業者が遵守すべきルール(「送配電等業務指針」)を定めています。たとえば、地域間連系線の利用を管理しています。さらに、地域間連系線の利用に関する公平性・公正性を確保するとともに、最大限効率的に活用できるように図っています。具体的には、これまで「先着優先」に基づいていた地域間連系線の利用申込みの受付を停止して、入札価格の低い順に連系線利用を認めるルール(間接オークション)に移行する方針を打ち出しています。現在、2018年度下期のできるだけ早い時期の導入を目指して、準備を進めています( 「再エネの大量導入に向けて~『系統制約』問題と対策」参照)。
また、広域機関は、再エネなどの発電事業者が電力会社の運用する送電線に1万kW以上の発電設備を接続するための事前相談や、検討の申し込みを受け付けています( 「再エネの大量導入に向けて~『系統制約』問題と対策」参照)。さらに、発電事業者一者では費用負担が難しくても、複数の発電事業者が共同で費用負担することで、送電線に接続することが可能となるしくみ(電源接続案件募集プロセス)を新たにつくり、効率的な送電網の構築を進めています。加えて、電気供給事業者からの送配電等業務に関する相談や苦情を受け付け、事業者間の和解の仲介(あっせん・調停)をおこなっています。
日本では、今後、中長期的に電力需要が大幅に増加することは見込まれていません。一方で、再生可能エネルギーの導入は拡大しています。このような中で、供給力や調整力をできるかぎり低コストで確保し、活用するためのしくみが必要となってきます。特に、前述した「容量市場」や「需給調整市場」といった市場設計や、「コネクト&マネージ」といった市場と密接に関係する制度設計など、きわめて難しい課題があります。広域機関は、それらについて、経済産業大臣に検討を求める意見を提出するだけでなく、現在、国とともに詳細の検討をおこなっています。「電力システム改革」が進む中で、電力供給システムの効率性をそこなうことなく、電力の安定的な供給を維持できるよう、広域機関が果たす役割はとても重要なものなのです。広域機関は、まさに「電力システム改革」の鍵を握っているといえます。
電力・ガス事業部 電力基盤整備課
長官官房 総務課 調査広報室
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