なぜ、太陽光などの「出力制御」が必要になるのか?~再エネを大量に導入するために

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再生可能エネルギー(再エネ)を「主力電源」として大量に導入していく――。その実現に向けては、再エネの導入コストを下げ、「自然環境に応じて出力が変動する」という特徴と向き合いながら、その時その時の状況や変化に応じた適切な対策をうっていくことが大切です。

「なぜ、『再エネが送電線につなげない』事態が起きるのか?再エネの主力電源化に向けて」 では、さまざまな電源を送電線につなぐための「接続」に関するルールの考え方をご紹介しました。第2回となる今回は、実際に電気を流す際の「給電」に関するルールの考え方をご紹介します。

Q1.九州地方では太陽光発電の増加や原発の再稼動で電気が余り、再エネの「出力制御」をする可能性があると聞きました。そもそも、なぜ電気が余るのですか?

電気が不足する時もあれば、電気が余る時もあるのです

東日本大震災の直後は、電気が足りずに、首都圏では計画停電が実施されたり、全国的に節電のお願いがなされました。それなのに、「電気が余る」という状態が発生するというのは、どういうことなのでしょうか?

電力の需要は、真夏の昼~夕方や真冬の朝夕の時間帯にピークを迎えます。こうした時期に「電気が足りなくなる」おそれは、今でもあります。2018年の1月下旬~2月にかけて、東京電力管内では、電力供給力にどれくらいの余裕があるかを示す「予備率」が、一般的に「安定供給の維持に必要である」とされる3%を切りそうになりました。この時は、他の地域からの電力の融通を受けることで何とかしのぎました。

一方、暖房や冷房の需要が少ない春や秋、それも工場が休みになっていることの多い休日などは、電力需要は年間のピーク時の半分程度になります。しかも春の昼間というのは、天候に恵まれれば、太陽光発電が年間でもっとも発電する時です。下の図は、2017年4月30日の九州地方の電力の需要と供給を示したものですが、太陽光発電によって、昼間には最大で需要全体の約7割をまかなうことができたタイミングもありました。つまり、「1年中電気が余るわけではない」のですが、「電気が余る時期もくる」のです。

2017年4月30日の九州の電力需給実績
2017年4月30日における、九州電力の実際の電力需給実績を示したグラフです。

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こうしたタイミングでは、火力発電所の出力を絞ったり、揚水発電所の水をくみ上げることで電力の「需要をつくりだす」ことで、太陽光発電の電気を有効に活用することとしています。揚水発電所は、昼間くみ上げた水を使って、太陽光発電が発電しない夜間や朝などに発電します。

Q2.なぜ再エネを出力制御するのですか?原発が再稼動するからですか?再エネに対する不当な取扱いなのでは?

給電には、電源の特性に合わせた「優先給電順位」があります

発電所の発電量(出力)を調整することで、電力需給のバランスをとる「出力制御」。その順番は大まかに言って、①火力→②揚水→③大型バイオマス→④太陽光・風力→⑤原子力・水力・地熱(長期固定電源)の順となります。これを「優先給電ルール」と言います。

九州においては、上の図に示した2017年4月のタイミングでは2基の原発が動いていましたが(鹿児島県・川内原発)、2018年3月には佐賀県・玄海原発も再稼働しました。一方で、九州の太陽光発電はこの1年でも増加傾向にあります。このため、前述したようなあらかじめ決められた順番にしたがって、火力発電の出力制御や揚水発電の活用をしても、なお需要以上に電気が発電され、電気が余る可能性があります。その場合には、太陽光・風力までも出力制御をするような事態になることが考えられるのです。

では、原子力の電気を太陽光や風力よりも先に制御するとどうなるでしょうか。原子力を含む「長期固定電源」と呼ばれる電源は、発電時にCO2を出さない「ゼロエミッション電源」です。一方で、出力を小刻みに調整することは技術的に難しいため、一度出力を下げてしまうと、すぐには出力を元に戻すことができません。

このため、たとえば昼間の時間帯に、太陽光を優先して原子力の出力を落としてしまうと、朝や夕方など太陽光の発電量が減少する時間帯になった時、原子力をすぐ元の出力に戻して不足分を補うことができません。そこで、すぐに稼動できる火力をたき増すことが必要になってしまい、結局、コストとCO2排出量の両面からマイナスとなってしまうのです。

原発などの長期固定電源と再エネの自給率・CO2排出量・コストを比較した図です。

(注)自然条件に応じて変動する太陽光・風力では、単独で長期固定電源を代替できず、調整火力が必要となるため、火力と共に長期固定電源を代替していくケースを想定したもの

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出力制御の可能性については発電事業者にもあらかじめ理解を得ており、FIT制度もその前提でデザインされています

こうしたことは、東日本大震災の直後に再エネの固定価格買取制度(FIT)ができた当時から想定されていました。そこで、再エネの事業者にも出力制御に協力してもらう必要があることから、「30日ルール」というものが定められました。

これは、太陽光や風力の発電事業者には、年間30日を上限として、無補償で出力制御に応じてもらうというルールです。発電事業者には、こうした条件があることをあらかじめ説明し、同意を得ています。また、こうした条件があることも踏まえた上で、FIT制度の運用がおこなわれています。

もし、出力制御が起こることは一切認めないとすると、どうなるでしょう。太陽光発電は、九州電力の例でも見たように、天候がよければ需要以上に発電してしまう可能性があり、そのコントロールは困難です。そこで、需要以上に発電することが絶対に起きないよう、太陽光の受け入れ量を制限する必要が出てきてしまいます。

つまり、一定の出力制御をおこなうことは、さらなる再エネの受け入れをスムーズにおこなうことにも役立つのです。こうした考え方は、再エネ先進国であるアイルランドなどでも一般的です。最近では日本でも、再エネ導入量の増加にともなって、30日「以上」の制御を受け入れる事業者の接続をさらに認めるという、「指定電気事業者制度」が取り入れられています。

なお、「出力制御をする代わりに、その時に失われた利益を再エネ事業者に補償する」という考え方もあり、ドイツなどで採用されています。しかし、前述したように、日本では一定の出力制御があるという前提の下で、FIT制度が運用されています。また、仮に出力制御が起きた場合に補償をおこなうとすると、再エネの電気を活用できないのに国民負担が発生してしまうことになります。出力制御が起きそうなところにあえて発電所を作り補償金だけ得ようとする事業者が出てきて社会問題となったイギリスの事例もあり、留意が必要です。

最近、風力発電事業者の業界団体(JWPA)からは、風力発電所が“勝手気まま”に発電するのではなく、一定の出力制御機能を活用することで、電力系統側の対応の難しさを減らし、風力発電の接続量を増やしていくべきだとの提案がおこなわれています。

Q3.余った電気を足りない地域に送れるよう、送電線を増やせばいいのではないですか?

既存の送電線の活用に加え、増強も進めていますが、費用対効果を考えることが大事です

とはいえ、せっかくの再生可能エネルギーの電気を無駄にすることなく、最大限有効に活用することが必要であることは、言うまでもありません。

電気が余っている地域から他の地域に電気を流すことができれば、有効活用に役立つでしょう。そこで、「地域間連系線の運用の見直し」を積極的に進めています。

たとえば、九州地方から中国地方へと電気を送る「関門連系線」では、既存のシステムを改修し、落雷などの事故が起きたときに、その影響が広域に及んで大規模停電になってしまうことを防ぐために、瞬時に発電所と送電網の制御をおこなう仕組みをととのえるといった工夫を行っています。政府も、2017年度の補正予算で約43億円を計上して、制御システムの高度化を支援することとしています。こうした一連の取り組みによって、関門連系線を通せる再エネ電気の量は、従来の約3倍である、最大135万kWに拡大することとなるのです。

このような、運用面の改善に加えて、地域間連系線の増強も並行して進めることとしています。北海道―本州間(30万kW、2019年完成予定)、東北-東京間(約500万kW、2020年代後半完成予定)、東京-中部間(約90万kW、2020年度完成予定。さらに+90万kWも計画中)といった、具体的な増強工事や検討が進んでいます。また、これら以外の増強も、今後必要に応じておこなうこととしています。

ただし、地域間連系線を作るためにかかる費用は、数百億~1千億円単位となるため、費用対効果を考えることが重要です。たとえば、ふだん15%の設備利用率(フル稼働しつづけていた場合の発電量に対する、実際の発電量の割合)の太陽光発電が、年間30日の出力制御を受けると仮定します。もし、その制御を避けるため「だけ」に地域間連系線を作るとすると、機械的に計算すれば、連系線の設備利用率は約1%となってしまいます。このため、再エネの融通以外にも、市場の活性化や、停電リスクを抑えた活用など、さまざまな目的を踏まえて、連系線の必要性を検討していくことが重要と考えられます。

再エネを「主力電源」として大量に導入するためには、さまざまな難しい課題について、正面から、建設的な議論を交わしていくことが必要です。今後とも、海外における先進事例の導入や、さまざまな技術的な工夫をおこなうことなどで、日本でも、より多くの再エネを合理的に接続・送電できるよう、対応を考えていきます。

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