【インタビュー】「バイオマスエネルギーで循環型社会の形成を」—牛久保 明邦氏(後編)

牛久保 明邦氏

日本有機資源協会会長の牛久保明邦氏のインタビュー。前編「カーボンニュートラルなバイオマスのエネルギー利活用」では、「バイオマス」とはそもそも何を指すのか、またエネルギー分野ではどのような利活用方法があるのかを解説していただきました。後編では、日本でのバイオマス利活用の課題、バイオマスエネルギーの現状と今後の展望などをうかがいます。

バイオマス利活用拡大の課題は「収集」と「運搬」、「人件費」

—前編では、バイオマスという資源の有用性、またエネルギーとしても利活用可能であることをうかがいました。日本でバイオマスの利活用をさらに拡大するためには、どのような課題があるのでしょうか。

牛久保 まず、廃棄物が再利用やバイオマス利活用に至らず、そのまま処理処分されてしまうことがまだまだ多いという課題があります。

バイオマスというのは「生物由来の有機性資源のうち、化石資源を除いたもの」であり、広く薄く各地域に存在しているとお話しました。ですが、バイオマスの一種である、材木として利用されない「残材」ひとつとっても、利活用はなかなか進められていません。日本の国土の約70%を占める森林から出る残材を活用するには、林地を間伐してそこで出た残材の運び出しをおこなう作業員が足りないのです。コストの問題もあります。こうしたことから、地方では、林地の荒廃を嘆きつつも、その解決に手をこまねいているという現状があるのです。

食品廃棄物についても同様です。日本の食品産業は、中小企業が支えているという実態があります。そのような事業所それぞれから排出される廃棄物は少量ですので、それをバイオマスとして飼料などに利活用するためには分別の徹底が必要であったり、個別収集運搬するのは非効率的で収集コストがかかったりしてしまいます。また、一例として食品廃棄物を飼料メーカーに原材料として提供する際には、カビの発生や腐敗変質を防ぐため、脱水・乾燥して食品廃棄物の水分を落とすことが求められます。このように水分の多い廃棄物は、脱水・乾燥にかかわるコストやエネルギー増につながります。そのような状況の中、生ごみを含む一般廃棄物は、焼却されているのが現実です。

—再生利用されないまま廃棄されてしまう場合がまだまだ多いわけですね。

牛久保 明邦氏

牛久保 そうですね。また、なんとか再生利用できる廃棄物を資源として加工する施設をつくったとしても、利活用先がないために、宝の持ちぐされになってしまうという問題もあります。

たとえば、ある地域で「高濃度有機性排水(家畜ふん尿や食品廃棄物など、有機物の混じった排水)」を嫌気性処理して発生する処理水は、肥料として利用することが可能です。有機性排水は、畜産施設や食品工場などから定期的に流入するため、肥料成分をふくむ処理水がどんどん製造されることになります。ところが、通常肥料は、春蒔きと秋蒔きの年2回程しか使われないため、処理水を半年間ほど保存しておく場所の確保が必要となる場合があります。また、廃棄物が多く生じるのは都市部ですが、肥料を大量に必要とする耕作地は地方にあるため、需要地への運搬コストがかかります。

こうした収集運搬のコストが、バイオマスの利活用を進めるうえでの大きなネックであり、課題となっています。

加えて、エネルギーとしてバイオマスを利活用する場合には、人件費も大きな課題となります。資源エネルギー庁の委員会などでもよく話題にのぼるのですが、太陽光や風力、小水力、地熱発電といった再生可能エネルギー(再エネ)は、適切な場所に施設を設置すれば、あとはメンテナンス程度の作業で発電を継続できます。一方、バイオマスエネルギーは、林地残材を使用するにしろ、家畜の排泄物を使用するにしろ、常に人を介して収集しなければならず、加工施設の維持管理にも人手がかかるのです。これは再エネの中でも、バイオマスに特徴的なものといえるでしょう。今後、たとえば残材の場合は、林地で高性能機械を導入するなどして、効率化を図ることができる部分もありますが、このような常に人の手のコストがかかるという課題はまだまだ議論の余地があります。

ただ、常に人手を要するというバイオマスエネルギーの特徴は、地域に雇用を生み出すというプラス面にもなることも、また強調されるべきだと思います。さらに、バイオマス発電は曇っていても風がなくても永続的かつ安定的に発電ができるという点も、太陽光発電や風力発電との違いであり、メリットといえます。

バイオマスでエネルギー自給が可能な循環型社会の創出を

—さまざまな課題もありますが、バイオマスの利活用を広めるための取り組みとしては、どのようなことが進められているのでしょうか?

牛久保 2002年に「バイオマス・ニッポン総合戦略」が閣議決定され、それから20年近く、さまざまな施策が政府の主導で推進されてきました。その間に「バイオマス活用推進基本法」ができ、それにともなう計画も策定されました。それらの戦略のもと、農村や漁村といった地域の振興を目的とした「バイオマスタウン構想」という取り組みが始められました。各地の市町村において、どのようなバイオマス資源がどれほど発生し、それを地域でどのように活用できるかについて、各市町村が検討して、その構想が政府の定めた基準に合致すれば、「バイオマスタウン」と認定されてきました。

現在はこの戦略をさらに発展させた、「バイオマス産業都市」として選定されています。バイオマス産業都市とは、「経済性が確保された一貫システムを構築し、地域の特色を生かしたバイオマス産業を軸とした環境にやさしく災害に強いまち、むらづくりを目指す地域」と定義されています。つまり、林業地域や農業地域、漁業地域、畜産・酪農地域、農村部・都市部も含め、各地の特色を生かして、バイオマスを活用するしくみを備えた都市を形成しようということです。

たとえば、バイオマスが生み出すエネルギーを核として都市全体が連携を図れば、地域内のエネルギー自給を実現する循環型社会が創出できます。余剰電力が生まれれば売電して利益を出すこともできますし、新たな雇用も生まれ、社会の活性化によって過疎化も防ぐことができる可能性があります。バイオマス産業都市の選定にあたっては、政府の7府省が共同で取り組み、バイオマスの利活用を宣言した市町村の中から、基準を満たすものを認定しています。2013年度から始まったこの制度では、現在83市町村が選定されています。今後はさらにバイオマス産業都市を増やしていくこととなっています。

FITが後押しするバイオマス発電、今後目指すのは熱利活用の拡大

—バイオマス発電は、再エネの固定価格買取制度(FIT)の対象にもなっていますが、バイオマス利活用拡大への影響はありましたか?

牛久保 明邦氏

牛久保 そうですね。FIT法は2012年7月に施行されましたが、バイオマス関連では、木材などを燃焼させて発電に使う木質バイオマス発電と、畜産の排泄物を発酵させてメタンガスなどを発生させ発電に使うバイオガス発電がFITの対象になりました。木質バイオマス発電の場合、どのようなバイオマスを使うかで買取価格が分かれます。未利用林地の残材などを使う場合はkwあたり32円、製材工場から出てくる端材を使う場合はkwあたり24円です。一方でバイオガス発電では、メタン発酵の技術を使う場合はkwあたり39円です。

このFIT法によって20年間は安定的に電気を買い取ってもらえるということで、事業者はある程度の収入が見込めるようになり、事業リスクは確実に軽減されました。これによって、バイオマス発電事業を始めたいという人は確実に増えていると感じています。

しかし、バイオマスが生み出すもうひとつのエネルギーである「熱」の利活用は、発電ほど進んでいないという実情があります。バイオマスを利活用して発生するガスを直接燃焼して利用する熱エネルギーは、各種工場や温室での利活用など活用先はもっとあるはずです。電気だけでなく熱エネルギーの販売も進めることができれば、バイオマスエネルギーはより発展的な事業となるでしょう。

バイオマスは、まだまだ未知の潜在力を有しています。そうしたバイオマスの魅力を、さらに多くの人に知ってもらいたいと考えています。

プロフィール
牛久保明邦(うしくぼ あきくに)
日本有機資源協会 会長。1945年長野県生まれ。東京農業大学名誉教授。農学博士。環境科学、土壌学、水質化学が専門。農林水産省「食料・農業・農村政策審議会食品リサイクル小委員会」、「食品ロスの削減に向けた検討会」座長等を歴任。

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