水素を使った革新的技術で鉄鋼業の低炭素化に挑戦

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「実はCO2削減によく効く、熱エネルギーの低炭素化」でもご紹介したように、産業における熱エネルギーを使ったプロセスはCO2の排出量が多いという課題があります。こうした産業部門の中でもCO2排出量で多くの割合を占める「鉄鋼業」において、現在技術開発が進められている、「水素活用還元プロセス技術」という低炭素化の試みについてご紹介します。

日本における鉄鋼業のCO2排出量と省エネポテンシャル

鉄鋼業は、自動車や情報通信機器、産業機械など、ほかの産業の基盤となる基幹産業であり、製造業の上流行程にあたる産業分野です。その国内総出荷額は約18兆円、従業員数は約21万人にものぼります(2015年時点)。製造業全体の名目GDP(国内総生産)に占める割合は3.2%、金額にすると約3.5兆円です(2015年時点)。

日本の鉄鋼業界の産業規模(2015年)
2015年の日本の鉄鋼業界の産業規模を示した図です。

(出典)経済産業省経済センサス、商業統計調査、国民経済計算

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このように、重要な産業である鉄鋼業ですが、エネルギーを起源とするCO2排出量の割合で見ると、産業部門全体の約40%と、ひじょうに高い率を占めています(2016年時点)。また、その40%のうちの約80%を「製鉄プロセス」が占めています。

(出典)国立研究開発法人国立環境研究所「日本の温室効果ガス排出量データ(2016)」

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一方で、日本企業は長い間、世界でもトップクラスの省エネ取り組みを推進してきた歴史があり(「省エネ大国・ニッポン ~省エネ政策はなぜ始まった?そして、今求められている取り組みとは?~」 参照)、それは鉄鋼業においても同様です。国際エネルギー機関(IEA)の調査によれば、2011年における日本の鉄鋼業の省エネポテンシャル(省エネをさらに進められる余地がどのくらいあるか)は、世界最小です。これは、日本の鉄鋼業はすでに世界トップクラスの省エネを達成していることを意味しています。さらなる省エネを進め、CO2排出量を低減するためには、革新的な技術の開発が必要となります。

各国の省エネポテンシャル(2011年)
IEAによる各国の省エネポテンシャルを示した図です。

(出典)IEA「Energy Technology Perspective2014」

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低炭素化の鍵となるのは、鉄鉱石に含まれる酸素をとりのぞく「還元」

そこで取り組まれているのが「水素活用還元プロセス技術」、頭文字をとって「COURSE50(コース50)」と呼ばれる技術です。この「還元」という言葉、理科の授業で習った記憶があるのではないでしょうか?「還元」とは、物質が酸素と結びつく「酸化」とは逆の反応、つまり、酸化物から酸素をとりのぞくことを意味します。学校の授業を思い出しながら、そのプロセスを見てみましょう。

製鉄プロセスとは、以下のようなものです。まず、材料の石炭を蒸し焼きにして「コークス」と呼ばれる物質を作ります。大気を遮断して蒸し焼きにすることで、さまざまな含有物がガスとなって抜け出し、より純粋な炭素部分だけが残って、燃焼しやすい物質になります。

次に、このコークスと鉄鉱石や石灰石を、「高炉」と呼ばれる炉に投入します。高炉はひじょうに大きなもので、高さ30階建てのビルに相当するほどです。そこで出来るのが、製鋼の原料となる「銑鉄(せんてつ)」です。その後、さまざまな行程を経て、「鋼片」と呼ばれる塊になり、最終的に鋼材となります。この高炉で何が起こっているのかということが、「COURSE50(コース50)」に深く関わってきます。

製鉄プロセス(原料~鋼材)
製鉄プロセスを示した図です。

(出典)一般社団法人日本鉄鋼連盟

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前述したコークスは炭素の塊、元素記号では「C」で表される物質です。一方、鉄鉱石は「Fe2O3」で表されます。高炉の中では、燃焼しやすいコークスは燃えてひじょうに高い熱を発し、炉内を高温にします。この熱により、鉄鉱石が溶かされるのです。さらに、コークスは「C」ですから、鉄鉱石に含まれる酸素「O」と結びついてCO2を発生させ、鉄鉱石から酸素をとりのぞくという役割を果たします。この現象を還元と呼ぶのです。この工程により、鉄鉱石が酸化することを防ぎ、強い鉄を作ることができます。

鉄鉱石とコークスからどのようにCO2ができるかを示した図です。

「製鉄プロセス」全体におけるエネルギー消費の割合は、この高炉を含む「上行程」が約8割を占めています。この部分で省エネとCO2削減が進めば、鉄鋼産業全体のCO2排出量に、大きなインパクトを与えることができます。

製鉄プロセスにおけるCO2排出量の割合を示した図です。

(出典)一般社団法人日本鉄鋼連盟

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CO2を削減するために「水素」を利用する

「COURSE50」は、この高炉を使う製鉄プロセスの「上行程」に関して、低炭素化を図ろうとするものです。「COURSE50」は、以下の2つの技術で構成されています。

①「高炉水素還元技術」
石炭を蒸し焼きにしてコークスにする時、そこから排出されるガスの中にはメタン(CH4)も含まれています。このメタンから水素(H)を取り出して、高炉に投入するコークスの役割の一部を代替させます。つまり、水素(H)を、鉄鉱石「Fe2O3」の酸素「O」と結びつけて水(H2O)を作ることで、鉄鉱石から酸素をとりのぞく「還元」をおこなうわけです。

鉄鉱石と水素からどのように水ができるかを示した図です。

②「CO2分離回収技術」
水素で「還元」を一部代替させるとはいえ、高熱で燃焼させるためにも高炉へのコークスの投入はやはり必要です。しかしそうすると、前述した通り、「還元」でCO2が発生してしまいます。そこで、高炉が排出するガスの中からCO2を分離し、回収します。また、この分離行程には、製鉄所内で使われずに廃棄されている低温の熱エネルギー(未利用低温排熱)を利用します。

このように、「COURSE50」が実現できれば、製鉄プロセスの上行程において低炭素化を図ることができるのです。

高さ約35メートルの試験高炉でダイナミックな実験

現在、「COURSE50」に関しては、企業や大学などが協力し、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受けながら、研究を進めています。水素還元技術では、製鉄所内で副次的に発生するガスを活用した水素の増幅や、水素を含むガスを高炉に入れる吹き込み方法など、水素還元割合の増加を実現させるための研究が進められています。また、CO2の回収方法として、化学物質で吸収させる「化学吸収技術」方式と、吸着剤を使用する「物理吸着技術」の技術開発が進められています。

COURSE50の開発ロードマップ
2050年までの「COURSE50」の開発ロードマップです。

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開発ロードマップ上では、2018年はフェーズ2にあたり、2016年に完成した試験高炉で、現在実証実験が進められています。前述したように巨大な実際の高炉とくらべると小さいものの、それでも高さは全長約35メートルと、十分大きな設備です。鉄鋼業のダイナミックさが分かるのではないでしょうか。

実証実験がおこなわれている試験高炉の写真です。

実証実験がおこなわれている試験高炉

まずは2030年頃までの1号機実機化に向けて、そして2050年の「COURSE50」普及に向けて、今後も官民の力を合わせて研究開発に取り組んでいきます。

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