時代にあわせて変わっていく「省エネ法」

時代にあわせて変わっていく「省エネ法」

「省エネ大国・ニッポン ~省エネ政策はなぜ始まった?そして、今求められている取り組みとは?~」でもご紹介したように、化石燃料に乏しい日本は省エネルギーに取り組み、世界でもトップクラスの省エネを達成してきました。

しかし、2030年度のエネルギーのあり方を考えると、今後さらなる省エネを進めていく必要があります。その中で、2018年6月に国会で成立した「省エネ法」の改正は、時代の変化にあった省エネの手法を活用して、一歩先の省エネを実現しようとするものです。その改正のポイントを見てみましょう。

1.2030年度に向けて必要なさらなる省エネ対策

オイルショックをきっかけに制定された省エネ法

1973年と1979年の二度にわたり、日本を見舞ったオイルショック。化石資源に乏しく、国内で消費されるエネルギーの多くを海外からの石油の供給に頼っていた日本の経済は、オイルショックによって大混乱に陥りました(「石油がとまると何が起こるのか? ~歴史から学ぶ、日本のエネルギー供給のリスク?」参照)。それを契機として、エネルギーを効率的に利用していくことを目的として制定されたのが「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」、いわゆる「省エネ法」です。

省エネ法では、工場や事業所、貨物・旅客・航空輸送事業者、荷主(貨物を貨物輸送事業者に輸送させる事業者)、機械器具などを製造・輸入している事業者、家電の小売事業者やエネルギー供給事業者などを規制の対象とし、省エネの取り組みを行う際の規範(判断基準)を示しながら、省エネ努力を促しています。また、一定規模以上のエネルギーを使用する事業者に対しては、エネルギーの使用状況などの報告を義務付けるなどの規制を課しています。

1979年の制定以来、省エネ法は急激な経済成長やビジネスモデルの変化に応じて7度の改正を繰り返しながら、現在にいたっています(「省エネ大国・ニッポン~省エネ政策はなぜ始まった?そして、今求められている取り組みとは?~」参照)。直近では、東日本大震災による電気の需給逼迫に対応するため、ピークカットやピークシフトなどの「電気の需要の平準化」の取り組みを促すことを主な内容とした法改正が2013年に行われました。

2030年度のエネルギー需要の見通しと現状の進捗

この省エネ法の規制などにより、日本では長年にわたって省エネの取り組みが行われてきました。エネルギーミックス(長期エネルギー需給見通し)では、さらに、年1.7%の経済成長を前提としつつ、2013年度を基準年として、2030年度のエネルギー需要を対策前と比べて原油換算で5,030万Kl程度削減するという見通しが示されています。これを実現するためには、エネルギー消費効率(最終エネルギー消費量/実質GDP)を35%程度改善する必要があります。

この改善率は、過去の例に照らすと、オイルショック後の20年間の水準に相当します。オイルショックが発生した当時は省エネのポテンシャルの高い時代でしたが、それと同じ改善率を、社会全体における省エネが進んでいる現状において達成することは、きわめてハードルが高いといえます。

エネルギーミックスにおける最終エネルギー需要
エネルギーミックスにおける最終エネルギー需要と、そのうちの省エネによる削減量を示した図です。

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エネルギー消費効率の改善
1970~1990年、1990~2010年におけるエネルギー消費効率の改善率と、2012~2030年の改善率の目標をくらべたグラフです。

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2016年度時点での削減量は876万kl、進捗率は17.4%にとどまっています。この高い見通しの実現を確実なものとするためには、今後、さらなる省エネを着実に進めていくことが不可欠です。その手段として「産業」「業務」「運輸」「家庭」の4つの部門において以下のような対策をとっていく必要があります。

エネルギーミックスの主な省エネ対策と進捗状況
エネルギーミックス主な省エネ対策と進捗状況を部門別に示した図です。

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産業部門や業務部門においては、LEDなどの導入が比較的進んでいますが、一方で、大規模な投資を伴う省エネ設備の導入は遅れているのが現状です。また、原油換算でマイナス1,607万klと、エネルギーミックスで最大の省エネ量を見込んでいる運輸部門においては、乗用車の燃費が向上したことにより旅客輸送分野での省エネが大幅に進んでいますが、今後、宅配貨物の増加や、企業間取引における貨物輸送の少量・多頻度化などにより、一層輸送量が増えると予測されている貨物輸送分野は、取り組みを強化していく必要があります。

省エネ法の改正で省エネの取り組みを促進

こうした課題の解決に向け、総合資源エネルギー調査会の省エネルギー小委員会は、2016年から審議を行い、省エネの取り組みをさらに加速させるための提言をまとめました(「省エネルギー小委員会 意見」 (PDF形式:2.09 MB)参照)。この提言を受け、今回、複数事業者が連携した省エネの取り組みに関わる新たな制度の創設や、荷主規制の対象の見直しなどを内容とする省エネ法の改正が行われることとなりました。

経済産業省が作成した省エネ法改正法案は、2018年3月9日に閣議決定され、同年1月に召集された第196回通常国会での審議を経て6月6日に成立、6月13日に公布されました。今後、法律の施行に向けて関係法令の整備が進められます。

では、具体的にどのような改正の内容なのか、その大きな方向性を見てみましょう。

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2.産業・業務部門における省エネ法の改正ポイント

限界を迎えつつある事業者単位の省エネ

今回の改正法の主な対象となるのは、産業・業務部門と運輸部門の貨物輸送分野です。

産業・業務部門では、事業者による積極的な省エネの取り組みの結果、省エネがかなり進んできました。そのため、最近10年間のエネルギー消費効率(エネルギー消費原単位)の推移を見てみると、産業部門においてはほぼ横ばい、業務部門においては近年足踏み傾向にあります。

こういった現状を打破し、省エネの取り組みを加速させていくためには、個々の事業者の枠を越えて複数の事業者が連携する新たな省エネの取り組みを促進していく必要があります。

複数事業者の連携による省エネ計画の認定制度を創設

そこで、改正法では、従来の事業者単位だけではなく、複数事業者の連携による省エネの取り組みも適正に評価する制度を新たに設け、各事業者の省エネの取り組みを促進することを目指しています。

現行の省エネ法では、事業者のエネルギー消費効率を事業者単位で評価しています。たとえば、同じ業界にあるA社とB社が上工程をB社に統合・集約することで省エネを図った場合を考えてみましょう。統合して上工程を廃止したA社はエネルギー消費量が減ってエネルギー消費効率が改善し、省エネ評価が向上しますが、一方で、エネルギー消費量が増えてエネルギー消費効率が悪化するB社の省エネ評価は悪化することとなります。

そこで改正法では、新たに「連携省エネルギー計画」の認定制度を設け、認定を受けた複数の事業者が、事業者間の連携により削減した省エネ量を、それぞれの事業者に分配して報告できることとしています。

また、現行法で両者にプラスの評価となるような複数事業者の連携による省エネの取り組みに対しても、それぞれの事業者の省エネ取り組みへの貢献度合いを踏まえて、省エネ量を分配することができるようになります。

より適正な省エネの評価を得られることで、事業者が積極的に連携し、省エネに取り組むことが期待されます。

グループ企業において省エネ法の義務を一体的に履行することが可能に

省エネ法により、一定規模以上のエネルギーを使用する事業者は、エネルギーの使用状況などに関する定期報告や省エネに関する中長期計画の提出、また、エネルギー管理統括者などの選任といった義務を負っています。現行法では、グループ企業が一体的に省エネの取り組みを行っている場合でも、親会社、子会社それぞれに省エネ法の義務が課されています。

改正法では、グループ企業の親会社が「認定管理統括事業者」の認定を受けた場合、親会社が子会社の分まで含めた省エネ法の義務を一体的に履行することができるようになり、事業者の負担が軽減されるとともに、グループ全体の報告に基づいて省エネ取り組みを評価することで、費用対効果を考えたメリハリのある省エネ取り組みが進むことが期待されます。

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3.運輸部門(貨物輸送分野)における省エネ法の改正ポイント

複数の「増エネ」懸念要因を抱える貨物分野

運輸部門については、ここ最近のネット通販市場の著しい成長にともなう小口配送の増加などによる「増エネ」への対応を強化する必要があります。

具体的には、近年、5年間で1.8倍というネット通販市場の拡大により、小口の配送量が急激に増えています。また、それに伴って再配達も増加し、宅配で消費されるエネルギーの25%、原油換算で10万klが再配達によるものとなっています。また、B to Bの市場では、荷送り側・荷受け側における手待ち(荷物の積み込みや積み下ろしの際の待機時間)などによるエネルギーの消費が増加しています。

今後、さらなる物流量の増大が予想されるなか、貨物輸送分野においては、燃費の向上だけでなく、徹底的な物流の効率化を図り、エネルギー消費の少ない効率的な物流体系を築いていくことが急務です。

ネット通販市場規模の推移
ネット通販市場規模の推移を示したグラフです。

(出典)経済産業省「電子商取引に関する市場調査」

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宅配便取り扱い実績の推移
宅配便取り扱い実績の推移を示したグラフです。

(出典)国土交通省「平成27年度宅配便等取扱個数の調査」

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手待ちの発生状況
手待ち時間の発生状況を示したグラフです。

※1運行:回送運行を含め運転を開始してから運転を終了するまでの一連の乗務。

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ネット小売事業者は貨物の所有権を問わず省エネ法の規制対象に

これに対して、現行法では、工場間の輸送を念頭に、荷主の定義を「貨物の所有者」としています。ネット通販においては、売買契約が成立した段階で貨物の所有権が購入者に移る事例もあり、事実上は輸送の方法などを決定していても、荷主として省エネ法の規制を受けないネット小売事業者も存在します。

そこで、改正法では、荷主の定義を「輸送の方法等を決定する者」と改めることとしています。これにより、貨物の所有権を問わず、契約などで貨物の輸送の方法などを決定するネット小売事業者は、省エネ法の規制対象となります。なお、インターネット上に、個々の出店者がそれぞれ独立して商品を販売するサイトを提供するモール事業においては、貨物輸送事業者との契約がなく、輸送の方法などを決定しないモール事業者ではなく、個々の出店者が規制対象となります。

規制の対象が拡大することで、受け取り場所の多様化や宅配ボックスの活用、共同輸配送や物流拠点の共有など、荷主が貨物輸送事業者などと連携して貨物輸送の効率化に積極的に取り組むことが期待されます。また、荷主の省エネの取り組みを促進するため、ネット小売業界の優良な取り組み事例を荷主の省エネ取り組みの規範(判断基準)に追加していくことも検討されます。

「準荷主」を創設し省エネへの協力を求める

また、現行法では、貨物を受け取る「荷受け側」に対しては省エネの努力を求めていません。しかし、荷受け側が到着する貨物について到着日時などを適切に指示しないことで、貨物が無秩序に到着し、手待ちが発生する場合もあります。

そこで、改正法では貨物の到着日時などを指示することができる荷受け側を「準荷主」と位置づけ、貨物輸送の省エネへの協力を求めていきます(努力規定)。なお、準荷主に対して省エネへの協力を求めるにあたって、国は準荷主の省エネ取り組みの規範となるガイドラインを整備する予定です。

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4.社会全体で省エネ対策を推進していくために

そのほかの改正事項と支援策の強化

ほかにも、現行の省エネ法では一定規模以上のエネルギーを使用する事業者に対して毎年度提出するよう義務付けている「中長期計画」を、改正法では、省エネ取り組みの優良企業を対象に、提出頻度を数年に一度とするという内容も盛り込まれています。法規制の対象となる事業者の負担を軽減するとともに、事業者がより省エネに取り組みやすい環境づくりを目指します。

また、省エネ法の改正に伴い、省エネ取り組みを後押しする補助金や税制措置といった支援策も講じていきます。複数の事業者、または、荷主と輸送事業者が連携して行う効果の高い省エネの取り組みを行うために必要な設備投資に対して、補助金による支援を今後も継続して行っていきます。また、連携省エネルギー計画の認定を受けた複数の事業者、または、複数の荷主の設備投資に対して、法人税を30%特別償却、もしくは中小企業に対しては法人税を7%税額控除する税制措置も行います。

法改正で省エネに取り組みやすい社会を目指す

長きにわたって省エネに取り組んできた日本は、世界最高水準のエネルギー効率を誇る省エネ大国となりました。すでに省エネが高いレベルで進展している状況で、さらなる省エネを実現していくことは、容易ではありません。

制定から約40年となる省エネ法は、時代に即して省エネの取り組みが促されるよう、累次の改正が行われてきました。よりよい制度整備を行っていくことで、各部門で省エネ対策が着実に進む社会を築いていきます。

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