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磯子火力発電所(提供:J-POWER)
CO2の排出量を減らし、環境に負荷をかけない社会をつくるさまざまな取り組みが、世界中で進められています。電力も例外ではありません。そんな中で、石炭火力発電は、CO2削減の観点から投資を控え始めた国がある一方、新興国ではさらなる活用が求められている状況にあります。日本は、世界に石炭火力発電を輸出していることで、時代に逆行しているのでしょうか?日本が石炭火力発電をつづけている意味とは?今回は、石炭火力発電について、さまざまな質問にお答えします。
2016年に発効した、2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」では、長期目標として「2℃目標」が設定され、今世紀後半にはCO2の排出量と吸収量をバランスさせることが定められました(「今さら聞けない『パリ協定』~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」参照)。そこで、世界では、「低炭素化」をさらに推しすすめた「脱炭素化」の動きが広がりつつあります。これを受け、石炭火力発電については、ヨーロッパ系の民間金融機関の中には、投融資を控える動きもあります。また、国際開発銀行においても、一定の条件の下で、融資を制限する動きがあります。こうした世界の流れの中で、一見、日本の石炭火力発電に対する姿勢は、逆行しているように見えるかもしれません。しかし、石炭火力が持つさまざまなメリットを考えれば、日本にとって引き続き重要なものです。エネルギー源は、安定的な供給、経済性、環境適合、安全などのさまざまな側面を満たすことが求められます。しかし、すべての面で完璧なエネルギー源は存在していません。そこで、それらの面のバランスをとりながら、最適なエネルギーとその組み合わせを選んでいくことになります。石炭は、安定供給や経済性の面で優れたエネルギー源です。ほかの化石燃料(石油など)にくらべて採掘できる年数が長く、また、存在している地域も分散しているため、安定的な供給が望めます。また、原油やLNGガスにくらべて価格は低めで安定しており、LNGガスを使った火力発電よりも、低い燃料費で発電できます。
(出典)BP統計2017
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(出典)日本エネルギー経済研究所
現状、日本では再生可能エネルギーは価格が高く、発電量の不安定さをコントロールすることが難しい状態にあります。そうした中で、安定供給が可能なエネルギー資源に乏しい日本としては、こうした特徴をもつ石炭を、一定程度活用していくことが必要となります。2014年に定められた「エネルギー基本計画」でも、石炭は、「温室効果ガスの排出量が大きいという問題はあるが、地政学的リスクが化石燃料の中で最も低く、熱量あたりの単価も化石燃料の中で最も安い」ことから、重要な「ベースロード電源」(一定量の電力を安定的に低コストでつくることのできる方法)と評価されています。
一方で石炭には、地球温暖化の原因とされるCO2を排出するという、環境面での課題があります。単位あたりで見たCO2排出量はほかの化石燃料に比べても多いため、利用するためには色々と工夫をしていくことが必要となります。その工夫の一つとして、石炭火力発電の技術開発が進められています。石炭火力発電というと、皆さんのイメージの中には、もくもくと真っ黒な煙をあげるものというイメージがあるかもしれません。しかし、最近の石炭火力発電は、環境にかける負荷がずいぶんと減ってきています。たとえば、横浜市にある磯子石炭火力発電所は、「クリーンコール技術」とよばれる技術を活用し、大気汚染物質の排出を大幅に削減しています。2002年のリプレース(建て替え)前に比べると、窒素酸化物(NOx)は92%、硫黄酸化物(Sox)は83%、粒子状物質(PM)は90%減っています。
特に日本は世界でも最高効率の発電技術を持っています。発電効率が向上すれば、少量の燃料でたくさんの電気をつくることができるようになり、そのぶん、火力発電から排出されるCO2の量も削減されます。また、大気汚染物質の排出も大幅に削減しています。今後もさらなる技術開発をおこない、効率化とCO2削減を進める予定です。
前述したように、完璧なエネルギー源は存在しない中で、世界には、どうしても石炭をエネルギー源のひとつとして選択せざるを得ない国が存在しています。その理由は、安定した供給をおこなうことができるという「エネルギー安全保障」、そして「経済性」にあります。国際エネルギー機関(IEA)の分析では、インド、東南アジア諸国を中心とした新興国では、経済発展とともに、今後も石炭火力発電のニーズが拡大する見通しとなっています。新興国にとって、安く、安定的に採れる石炭は、引き続き、重要なエネルギーなのです。2017年11月に開催された「東アジアサミット」、2017年9月に開催された「ASEAN+3エネルギー大臣会合」においても、ASEAN諸国からは、エネルギー安全保障と同時にCO2削減にも貢献するクリーンな石炭火力発電技術について、積極的に活用していきたいとの言及がありました。また、その導入のため、金融面・技術面で支援を求める声もありました。日本は、海外に対して、再生可能エネルギーや水素、排出したCO2を貯める「CCS」や貯めて使う「CCUS」などを含んだ、さまざまなエネルギーの選択肢を提案し、支援しています(「知っておきたいエネルギーの基礎用語~CO2を集めて埋めて役立てる『CCUS』」参照)。ただ、このような石炭火力発電を選ばざるを得ない国々に対しては、日本ができる貢献として、日本が持つ高効率発電技術の輸出をおこなっているのです。これは、途上国の発展に対する貢献になることはもちろん、アジア地域全体の温暖化対策、大気汚染物質の削減への貢献にもなります。ちなみに、日本で商用化されている最高効率の技術(USC:超々臨界圧)を、中国やインドといったアジアの国々と米国の石炭火力に適用すると、CO2削減効果は約12億トン(11.8億トン)にのぼるという試算があります。これは、日本全体のCO2排出量(約13億トン)に匹敵する規模です。こうしたことから、諸外国から要請があった場合には、相手国のエネルギー政策はもちろん気候変動対策にも見合うかたちで、高効率石炭火力発電の導入を支援しています。導入を支援するのは、原則的に、世界で最新鋭の発電設備となります。また、経済協力開発機構(OECD)が定めた、石炭火力発電への支援方法に関するルールも守っています。さらに、CCSの技術開発も進めつつ、再生可能エネルギーや水素エネルギー技術の開発と輸出についても加速していきます(「さまざまなエネルギーの低炭素化に向けた取り組み」「3.日本の技術を世界の低炭素化に活かす」参照)。
2030年度のエネルギーのありかたを描いた「エネルギーミックス」では、2030年度における電源(電気をつくる方法)構成のうち、石炭火力発電の比率は26%とされています。しかし、最近、石炭火力発電の新設計画が増えており、もし計画されている石炭火力発電のすべてが建設されると、エネルギーミックスやCO2削減目標が達成できなくなるのではないかといった心配の声が聞かれます。現在、日本における石炭火力発電所の新しい増設計画は、1673万kW、30機となっています(2018年3月末時点)。ただし、これらは構想中のものも含めた計画段階の数字で、実際には、必ずしもすべてが建設されるわけではないことに注意が必要です。また、もうひとつ注意していただきたいのは、建設が計画されているのは石炭火力発電だけではなく、ガス火力発電も同様だということです(1341万kW、20機が計画[2018年3月末時点])。ですから、石炭火力発電だけがたくさん増えようとしているというイメージは、正確ではありません。
そもそも、なぜ、すでに発電設備を持っているにもかかわらず、新たに発電設備を建設しようとしているのでしょう。それは、日本全体で、火力発電の高効率化を進めようとしているためです。古くて発電効率の悪い火力発電に代えて、先ほど説明した「クリーンコール技術」を活用した、新しく発電効率の高い火力発電を導入することで、火力発電設備の新陳代謝をおこし、CO2排出量も減らしていくことが必要と考えています。逆を言えば、現在の建設計画をすべて中止させてしまうと、古くて発電効率の悪い火力発電が残ったままになるおそれがあります。
2030年度のエネルギーミックスや、CO2削減目標を実現するために、経済産業省と環境省との合意にもとづいて、政府として、「電力事業者の自主的枠組みと支える仕組み」を整えています。
まず、「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」、通称「エネルギー供給構造高度化法(高度化法)」という法律があります。これによって、小売電気事業者には、2030年度に販売する電力量の44%を、「非化石電源」、つまり化石燃料ではない電源にすることが求められています。これは、裏を返せば、石炭やガスといった化石燃料を使っている火力発電の比率を、全体の56%以下にしなくてはならないということを意味しています。また、「省エネ法」によって、発電効率を向上させることも求められています。新しく建設する火力発電については、最新鋭の設備である「USC」に相当する発電効率が求められます。既存の設備を含む火力発電全体の2030年度時点における平均効率については、石炭火力だけでは達成することが困難な基準が求められています。これは、実質的に、新しく建設する火力発電の高効率化を義務づけ、ガス火力発電の活用をうながし、石炭火力発電を火力発電全体の半分未満(※)におさえることが求められているということです。※2030年度の石炭火力発電比率を、火力56%×2分の1未満=26%におさえるということ加えて、電力事業者としても自主的な枠組みを設けており、電力業界は、2015年7月、「電気事業における低炭素社会実行計画」をつくり、CO2排出を削減する自主的な取り組みを進めています。これらの法令と自主的な枠組みは、どれか1つだけで2030年度のエネルギーミックスやCO2削減目標を達成するものではありません。3つの取組が相互に作用しあい、「三位一体」となって機能することによって、これらの目標の達成につなげていくものなのです。
電力・ガス事業部 電力基盤整備課資源・燃料部 石炭課
長官官房 総務課 調査広報室
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