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2018年5月21日、LNG船の入船の様子(出典)東京ガス株式会社
2018年5月21日、ある一艘の船が、神奈川県横浜市の港に到着しました。東京ガス株式会社が米国から受け入れた、「シェールガス」由来の液化天然ガス(LNG)を積んだ船です。「シェール革命」によって世界最大の天然ガス生産国となった米国。そんな米国から天然ガスを輸入することは、日本のエネルギー安全保障に大きな影響をもたらします。今回は、シェールガス由来LNGの輸入プロジェクトと、それが持つ意義をご紹介しましょう。
2000年代後半、米国では「シェール(Shale)」と呼ばれる種類の岩石の層に含まれている石油や天然ガスを掘削できる新しい技術が開発され、また経済的に見合ったコストで掘削できるようになりました。これにより、米国ではシェールガス(シェール層から採れる天然ガス)の生産が本格化。生産量は大幅に増加し、輸入量は減少、国内価格も低下していきました。これが「シェール革命」です。
この“革命”により、米国は、天然ガスの輸出を進めるようになりました。日本へも、2017年1月、ルイジアナ州サビンパスから輸出が開始されました。1969年より日本はアラスカ州から天然ガスを輸入していましたが、アラスカ州をのぞく米国で生産された天然ガスを輸入するのは初めてのことでした。
今回、横浜市の東京ガス根岸LNG基地に受け入れられた液化天然ガス(LNG、天然ガスを運搬できるよう液化したもの)は、日本初の長期契約に基づいた調達プロジェクトによるものです。メリーランド州ラスビーに位置する「コープポイントLNGプロジェクト」は、現地でのガス調達から液化加工委託、購入まで日本企業がかかわっています(液化加工を受託しているのは米国企業)。「シェール革命」ののち、数年の投資と開発を経て、2018年4月、やっと初出荷にこぎつけたのです。
コーブポイントLNGプロジェクトの概要
(出典)東京ガス株式会社
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この受入れを記念して、在日米国大使館 経済・科学担当公使、神奈川県知事、横浜市長を迎え、「コーブポイントLNG受入記念式典」もおこなわれました。
「コーブポイントLNG受入記念式典」の様子 (出典)東京ガス株式会社
根岸LNG基地で受け入れたLNGは約7万トン。一般家庭の年間都市ガス使用量におきかえると、約22万件分に相当します。コーブポイントLNGプロジェクトは、今後、年230万トンのLNGを20年間にわたって輸出する予定で、東京ガスグループと関西電力グループが購入します。
では、米国からLNGを輸入することにはどのような意義があるのでしょうか。
日本は、原油や天然ガスのほぼすべての量を、海外からの輸入に頼っています。さらに、2017年度は、そのうち約87%を、天然ガスでは約21%を、中東に依存しています。国際情勢の影響を受けるリスクを低減するためには、できるだけエネルギー資源を異なる国から輸入することが必要です。
(出典)貿易統計
米国からのLNG輸入は、生活に欠かせないエネルギーを安定的に供給するという「エネルギー安全保障」に大きなメリットをもたらします。
「仕向地」とは、LNG船の目的地のことをいいます。LNGの輸入では、この「仕向地」を指定する「仕向地条項」と呼ばれる制限がもうけられていることがあります。その場合、LNG船が向かうことのできる基地は、LNGを買った企業が持つ受入れ基地のみなど、あらかじめ限定されます。しかし、米国のLNGプロジェクトでは、こうした仕向地の制限がありません。買主は市場の状況やLNGの需要に応じて、仕向地を柔軟に設定したり、変更したりすることができます。これにより、状況に応じてLNGを転売することも可能になります。
天然ガスの取引価格は、通常、一定の算定式によって決定されており、石油価格または天然ガス市場価格が「価格指標」として採用されています。アジア向けのLNG取引では、石油価格を指標とする石油価格連動方式が一般的にとられており、原油価格の影響を強く受けます。一方、米国内で取引される天然ガスの価格指標はいくつかありますが、代表的なものとして「ヘンリーハブ」と呼ばれる価格指標があり、「ヘンリーハブ」に連動する方式が採用されています。このため、原油の価格が上昇しても、米国の天然ガスの価格は原油価格変動に影響されにくいと考えられます。事業者は、こうした価格決定方法の異なる天然ガスを組み合わせることで、価格の安定化を図っています。
また、こうした米国からのエネルギー輸入は、日米の経済関係の強化につながります。加えて、日本は現在、アジアのLNG需要を開拓することで米国と連携し、そのための経済対話もおこなっています。アジアのLNG需要は経済成長にともなって日増しに高まっており、米国はLNGの輸出先として、日本は輸入基地などインフラの輸出先として、アジアを重視しています。さらに、こうしたアジア各国を巻き込んで柔軟かつ流動性の高いLNG市場を構築することができれば、日本に対するLNGの安定供給を確保することにもつながります。そこで日本政府として、2017年10月に開催した「LNG産消会議」(「LNGを安定的に供給するための取り組み」参照)において、アジアにおけるLNGの潜在的需要を現実化することを目指して、アジア各国に対し官民で100億ドル規模のファイナンスを支援すること、また、今後5年で500人規模の人材育成の機会を提供することを、世耕経済産業大臣より発表しました。この発表に基づき、日本はLNGに関する投資や技術・ノウハウの伝達を進めています。2018年6月と8月には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が、アジア9カ国(ベトナム・タイ・ミャンマー・インドネシア・フィリピン・インド・スリランカ・パキスタン・バングラデシュ)の政府・国営石油関係者に向けて、LNGのバリューチェーン構築に関する研修を実施予定です。
(2018/6/19追記)「LNGバリューチェーン構築に関する研修」の実施について、JOGMECからリリースが発表されました。
米国からのLNG調達はコープポイント以外にも進められています。すでに契約がおこなわれ2019年から輸入を開始するものを含め、日本企業(電力・ガス事業者)が買主として米国から引き取る予定のLNGは、年間約1000万トンとなると見られます(長期契約分)。
米国からのLNG調達(長期契約)見込み
(出典)報道情報などより資源エネルギー庁試算
前述したとおり、仕向地の制限がないため、このうちのどの程度の量が日本へと輸入されるかは市場や需要の状況によって変わりますが、米国で生産されたLNGの取引量は今後も増加していくと見込まれます。国としても、これら日本企業の順調な操業開始に向けて、ファイナンスを含めた支援をおこなっています。これからも、米国における日本企業のLNGプロジェクトへの参加を支えていきます。
資源・燃料部 石油・天然ガス課
長官官房 総務課 調査広報室
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