【インタビュー】「世界第3位のポテンシャルを持ち、高い技術を有する日本の地熱開発」—小椋 伸幸氏(前編)

小椋伸幸氏

地熱発電は世界各国で再生可能エネルギー(再エネ)のひとつとして注目を集めています。日本は世界第3位の地熱資源を持つ国ですが、その実情はあまり知られていません。地熱エネルギーの活用を推進する日本地熱協会会長の小椋伸幸氏に、地熱開発の現状や課題をお聞きしました。前後編の2回に分けてインタビューをお届けします。

長期安定電源として魅力的な地熱

—地熱発電は、火山の多い日本では昔から有望なエネルギーとして注目されてきましたが、具体的なしくみや現状については今ひとつ理解がされていないように思います。改めてお聞きしたいのですが、地熱発電の魅力とはどのようなものなのでしょうか?

小椋 まず、CO2がほとんど排出されない、クリーンな再生可能エネルギーのひとつであるということ。加えて、同じ再エネの太陽光発電や風力発電とは異なり、昼夜や季節の変動がない安定した電源(電気をつくる方法)だということです。再エネの中で、もっとも安定したベースロード電源となりうるものなのです。

また、稼働中は手間がかかりません。地下から安定的に蒸気が出続けるため、自動で運転できるようになっています。実際に地熱発電所に行ってみるとわかるのですが、安全確認などの要員はいるものの、稼働中はほとんど人の手が必要ありません。

寿命が長く、利用率が高いのも特徴です。日本で最初に設置された松川地熱発電所は、現在もそのまま運用されており、今年で53年目を迎えます。今も順調に発電しているので、この記録はもっと伸びるでしょう。地熱資源は石油などのように枯渇するということがないため、設備を更新していけば、半永久的に運転できると考えています。こうした特性から、地熱発電でつくった電気をあらかじめ決まった価格で買い取る「固定価格買取制度(FIT)」(「FIT法改正で私たちの生活はどうなる?」参照)では、買取期間が15年と、ほかの再エネよりも短く設定されていますが、これは15年で大きな初期投資の回収をおこなうことを目指しています。

もちろん、買取期間の15年が満了しても運転そのものはその後長期にわたって継続することができますし、満了後は主要電力と競合できるくらいの価格で電気を販売することも可能です。つまり、経済性にも優れた電源なのです。

小椋伸幸氏

さらに、国産エネルギーであること、日本には世界第3位の地熱資源のポテンシャルがあることも大きな魅力です。山間部の地方自治体にとっては、エネルギー安定供給に貢献する「分散型」のエネルギーともなりえます。そのため、まだ数は少ないのですが、地域の自治体と企業が協力して地熱開発をおこなう事例も出始めています。

世界で活躍する日本の地熱技術

—世界では、地熱発電はどのような状況にあるのでしょうか?

小椋 世界で地熱発電が進んでいる国はいくつかあります。ニュージーランドやアイスランドが代表的です。ニュージーランドのワイラケイで世界初の熱水型地熱発電所が操業を始めたのは、1958年のことでした。

この、ワイラケイの地熱発電所のタービンや発電機などは、日本のメーカーのものです。日本のメーカーは早い時期からニュージーランドで地熱発電に取り組んでいて、そこで培った技術を日本の地熱開発でさらに発展させて技術を磨いてきました。現在でも、地熱のタービンや発電機におけるシェアは、日本企業が世界一、6割強を占めています。

最近の事例で言えば、ニュージーランドのナ・アワ・プルワ地熱発電所で、日本企業である住友商事、富士電機と、地元企業のホーキンス建設がチームを組み、最新の「トリプルフラッシュ方式」で発電所を建設しました。「フラッシュ方式」というのは、蒸気と熱水を分離して、蒸気のみを発電に使う方法なのですが、この蒸気と分離した熱水を再利用して低圧の蒸気をさらに取り出して発電に利用するのが「ダブルフラッシュ」、再々利用するのが「トリプルフラッシュ」です。

地熱発電(シングルフラッシュ)のしくみを図で示しています

「生産井(井戸)」から「地熱流体(地熱で熱せられた高温高圧の地下水)」を取り出して、「セパレータ」で熱水と蒸気に分け、蒸気は発電に利用、熱水は「還元井(井戸)」で地中に戻す
(出典)日本地熱協会

出力(発電量)は、ダブルフラッシュでは20%、トリプルフラッシュでは30%増加します。ナ・アワ・プルワ地熱発電所は、単体の発電所としては世界最大の14万kWで、たいへん効率よくプロジェクトを進めたことで高い評価を得ています。

また、インドネシアにある、3基合わせて33万kWの発電能力を持つサルーラ地熱発電では、日本側3社(九州電力、伊藤忠商事、国際石油開発帝石(INPEX))の出資比率が68.5%となっているだけでなく、開発にあたっても3社が大きな役割を果たしています。

こうした事例は、日本の技術が、世界のさまざまな場所で建設される地熱発電において活かせるという証明になると考えています。

しかも、日本企業は、開発から地表の設備まで、地熱発電に必要なものをトータルでまかなうことができる技術を持っています。こうした技術を、海外に売り込んでいくことはとても大事だと考えています。

地熱に早くから取り組んできた日本、大震災以降ふたたび注目が集まる

—日本国内での地熱発電はどのような状況にあるのでしょうか?

小椋 日本は、地熱開発にかなり早くから取り組んできました。1966年に日本初の地熱発電所である松川地熱発電所(岩手県)が誕生しましたが、松川は熱水をともなわないドライスチームタイプ(蒸気卓越型)の発電所です。翌67年には大岳発電所(大分県)が運転を始め、こちらは熱水と蒸気が混じっているタイプ(熱水卓越型)で、フラッシュ方式を採用しています。

こうした地熱発電の開発は、従来、石油や鉱山などの資源開発をおこなっている企業が手がけていました。地熱発電にはどうしても“地下リスク”、つまり、掘削してみないと正確な資源量や状況はわからないというリスクがあります。リスクも承知した上で事業に挑戦し、失敗を乗り越えて初期投資を回収する、そうしたビジネスに慣れている企業でなければ、参入が難しかったのです。

当時の通商産業省(現・経済産業省)主導で、枯渇しないクリーンなエネルギーの活用技術を開発しようと進められた「サンシャイン計画」(「再生可能エネルギーの歴史と未来」参照)のころは、地熱発電も国の支援対象とあり、発電所も多く完成しました。しかし、1997年からは政策が変わって、地熱発電に対する政府予算も減少し、長い間開発がおこなわれないなど、地熱発電の「冬の時代」が続きました。風向きが変わったのは2011年、東日本大震災で再エネが注目された頃です。さまざまな再エネがFITの対象となりましたが、地熱もそのひとつとなりました。

—地熱発電はどういう地域でおこなわれているのでしょうか?

小椋伸幸氏

小椋 開発が最初におこなわれたのは東北地方ですが、その後は九州で活発に開発がおこなわれました。今は東北地方での開発が再び増えています。FIT導入で経済性が向上し、これまでためらっていた地域が開発を一斉にスタートしたからです。2019年1月には、松尾八幡平地熱発電所(岩手県)の7,499kWが稼働を始めました。今後も、2019年5月に湯沢市山葵沢(秋田県)で42,000kW、2024年に八幡平市安比(岩手県)で14,900kW、湯沢市かたつむり山(秋田県)で15,000kW級が運転開始を予定しています。

これらは比較的大型の開発です。政府は2030年までに地熱発電を約150万kWにする目標を掲げていますが、現状稼働している地熱発電は50万kWほど。FIT以降に新設された約60カ所の地熱発電所も、ほとんどは温泉熱を利用した小さな発電所で、全体で約3万kWしか増えていませんでした。東北の開発ラッシュで、ようやく達成すべき100万kW導入のうち10%のめどがついた段階です。

ただ、これらの案件は、これまでの調査で「ポテンシャルがある」とわかっていた場所の開発がスタートしたということです。現在、開発が進んでいる多くの案件は、以前、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が積極的に地熱資源の調査をおこなって、井戸も掘ってポテンシャルが確認できたものなのです。そういう点では、本当の意味での新規開発はまだまだ進んでいないと言えます。

現在は、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が、さまざまな助成制度を設けたり、空中からセンサーを活用して有望な地域を探査しています。ただ、本当に開発に向いている地域であるかどうかは、実際に井戸を掘ってみないとわかりません。我々も、政府の2030年目標を達成できるよう業界をあげて努力していますが、こうした“地下リスク”を少しでも軽減できるよう、国にもさらなる支援をお願いしたいと思っています。

後編では、地熱発電をより普及させるための課題や取り組みについてうかがいます。

プロフィール
小椋伸幸(おぐら のぶゆき)
日本地熱協会 会長。1975年、石油資源開発株式会社に入社。国内・海外で石油・天然ガスの開発に携わる。同社 探鉱本部海外探鉱部長、環境・新技術本部長(地熱事業を含む)などを経て、2016年取締役副社長。2017年より同社顧問。

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長官官房 総務課 調査広報室

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