成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(後編)動きだす産官学パートナーシップ
SAFの導入拡大をめざして、官民で取り組む開発と制度づくり
なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?~2030年度のエネルギーミックスとCO2削減を達成するための取り組み
成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(前編)どんな課題を解決するの?
英国原子力廃止措置機関(NDA)の戦略・技術担当理事である、エイドリアン・シンパー氏のインタビュー、後編をお届けします。後編では、廃炉作業に関してコミュニケーションのあるべき姿に関する助言や、これまでに前例のない廃炉作業に挑む人々に対するメッセージをおうかがいしました(この記事は、シンパー氏来日時の2018年8月に実施したインタビューを再構成したものです。)。
―汚染水対策に関するお考えを聞かせてください。福島第一原子力発電所(福島第一)では、原発事故により高濃度の放射性物質を含む「汚染水」が発生しました。現在、汚染水から放射性物質を取り除く処理が進められており(「現場で進む、汚染水との戦い~漏らさない・近づけない・取り除く~」 参照)、浄化処理をおこなってトリチウム以外の大半を除去した水(ALPS処理水)は、敷地内のタンクに保管されています。 現在の汚染水管理の状況については、どうお考えでしょうか。また、この状況に対処するうえで、今後どのような課題があると思われますか?シンパー 最初に言っておきたいのは、これほど大量の汚染水を中期的であっても敷地内に保管することは大きな問題であるということです。これは廃炉に取り組む上で、大きな障害になります。どんどん量が増えていくタンクの管理に、多大な注意を払う必要が生じるからです。これが難しい問題だということは、私も認識しています。しかし、トリチウムを含む水を放出することは、世界中の原子力施設で日常的におこなわれていることです。福島第一でも過去そのようにしてきました。ただ、地域の経済に与える影響を緩和しながらトリチウム水の処分をおこなうことができるようにするため、どのような支援体制を構築すべきか、関係者が共に考えていく必要があると思っています。―日本政府は、ALPS処理水をどのように処理するか、この状況をいかに打開するかについて検討をおこなっています。東京電力や政府が、農業関係者や漁業関係者、また国内外の消費者とコミュニケーションを図っていく上で、何か適切なアドバイスはありますか?シンパー これは、とても難しい問題だと思います。この問題について、永遠に議論し続けることもできるでしょう。廃炉作業はその間ずっと、その議論に影響を受け続けることになります。経済的に何ら悪影響をおよぼさず、ALPS処理水を処分する方法を見つけることは、おそらく不可能でしょう。悪影響を避けようとしてもなかなかうまくいかないからです。人々の考えや行動は変えようとしても変えられないものです。コミュニケーションやエンゲージメント(関わり合い)を通じてできることはもっとあるかもしれません。一方、消費者の持つ懸念や不安を完全に無くすことはできないと、あらかじめ認識しておくことが大事です。経済的な観点から見て、こうした不安が大きい時期をどのようにカバーできるのか、なんらかの対策を整える必要はあるでしょう。
―現在、避難指示も少しずつ解除されており、原発事故後に避難した周辺住民の帰還が進んでいます。そういった中で、東京電力とNDFは地元住民との対話をおこなっていますが、この対話の行方をどのように予測されていますか?
シンパー 地元の住民自らが、廃炉作業に関与していると感じられることが、私はとても重要だと思います。通常の状況では、企業には営業上、守らなければならない規則や規制があり、その範囲内であれば、かなりの自由が許容されます。それが、企業が事業を営むということです。しかし原発事故の後は、「地域社会が主体者である」という意識が現れてきました。住民、そこに住んでいる人々が、事故により非常に大きな影響を受けたのですから、自分たちの声を聞いてほしいと要求することは正当なことであると思います。 私は、コミュニケーションとエンゲージメントには違いがあると考えています。コミュニケーションというのは、人々に対し、自分が何をしているのか、なぜそれをおこなっているのかを伝えるということです。これはとても重要なことです。一方、エンゲージメントというのは、人々に、何を求めているのか、何が重要なのかを聞いていくことです。住民との対話では、何をしているかということだけでなく、どういうふうにしているかについて、人々に理解を深めてもらう。そうした取り組みを積み上げていくことか重要になります。コミュニティと対話するということは、解決策について話すことではなく、人々が向き合っている課題や、求めていることについて話を聞き、住民が何を必要としているかを聞いていくということなのです。私は、自分のチームによく言っていることがあります。それは、「正しいことをしなければならない」ということです。(事故の解決方法として)廃炉は技術的にはもちろん「正しい」ことですが、それは社会的にも「正しい」ことでなければならない、ということです。技術的には正しいけれど、社会的には正しくないということを進めるのは、とても難しいことです。 コミュニティに働きかけるためには、いくらでもできることがあるでしょう。ところが往々にして、人々の話に耳を傾けるよりも、こちらから話していけばよいと考えてしまうことがあります。ですが、事故によって人生にとても大きな影響を受けてしまった人々の話を聞いたり、その人達と対話をする機会は、もっとつくることができると思います。
―とても示唆に富んだお話ですね。最後に、福島第一で廃炉作業に携わっている人たちや福島市内で毎日働いている人たちに、何かメッセージをお願いできますか?
シンパー ええ、喜んで。まずお伝えしたいのは、感謝、そして敬意です。事故の原因がなんであれ、またその予防可能性がどうであれ、事故が起きたということは事実です。そのような中、福島第一の作業員、サプライチェーン、エンジニア、作業に関わる全員が、休むことなく本当に献身的に働いてきました。その誠心誠意の献身により、廃炉が進んできたのです。「廃炉の工程は、より長期的な視点に立って見るべき」 でもその進展状況について触れましたが、その成果は、作業に携わる人々の無償の献身と技術的知見の賜物です。
現場を支える作業員
原発事故についての考えはさまざまであっても、作業に携わる人々の献身と技術的知見については、すべての人がそれを認めてたたえてほしいと望んでいます。本当に素晴らしい仕事をしているのですから。また、皆さんの能力を信頼しているということをお伝えしたい。これからも強く、くじけないでいてください。私がお話させていただいた、作業に携わっているすべての方が、技能と社会への貢献の強い意志を持ち合わせていることを私はよく知っています。それは廃炉を成功させるために、なにより必要なものです。そして、廃炉を成し遂げられる人がいるとすれば、それは皆さん方にほかならない、私はそう考えています。
長官官房 総務課 調査広報室
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