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今回は、英国原子力廃止措置機関(NDA)の戦略・技術担当理事である、エイドリアン・シンパー氏のインタビューをお届けします。原子力発電分野でのキャリアを長年にわたって積んできたシンパー氏は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構の海外特別委員として、東京電力福島第一原子力発電所(福島第一)廃炉の戦略策定やプロジェクト管理に関する支援をおこなうとともに、国際廃炉研究開発機構(IRID)に対しても、「国際エキスパートグループ(IEG)」の一員として、国際的な知見を提供しています。海外の専門家は、福島第一の廃炉状況をどのように評価するのでしょうか。前後編の2回に分けてご紹介します(この記事は、シンパー氏来日時の2018年8月に実施したインタビューを再構成したものです)。
―福島第一の廃炉の進展について、シンパーさんはどのような印象を持っておられますか?シンパー 私は(2011年3月11日の東日本大震災にともなって)原発事故が起こった直後から福島第一の現場に行っていますが、その当時から比べると、現在は見違えるほど変わってきていますね。 事故の直後の作業員たちは、みんな非常に勇敢でした。その場その場の状況に応じて、やらなくてはいけないことを無我夢中でおこなっているという感じでした。しかし、そうした(緊急的な)対応は長く続けられるものではありません。労働環境もよくないですし、何十年もかかる廃炉作業に対して、適切な基盤を整えることはできません。 現在の福島第一には、ごく普通の現場と正常な労働環境があって、労働者が必要とする福利厚生施設がととのっています。また、日々発生する廃炉作業をサポートするための仕組みやインフラも導入されています。 このように、今ではもう普通の労働環境のようですが、ここに至るまでの道のりは非常に困難なものでした。だからこそ、このような労働環境の変化に私はとても感銘を受けています。労働者を保護するためのさまざまな対策や作業エリアの管理など、あらゆるものすべてが、事故当時に比べて、驚くほど改善されています。 また、廃炉作業そのものも進展しています。原子炉内を初めて調べ、燃料デブリ(原発事故によって溶融した核燃料や原子炉内の構造物が冷えて固まったもののこと)を取り出すための準備を進めています。また、振り返ってみれば、4号機から使用済核燃料を取り出すことができましたが、そのスピードには、感動をおぼえるほどです。まだまだいろいろな変化がありますが、加えて指摘しておきたいのは、汚染水の発生量が減少しているということです。汚染水は福島第一での大きな課題になっていて、その量を減らすことは非常に重要でした。 ―4号機からの使用済核燃料の取り出しについてのお話がありましたが、それについて、もう少し詳しくお聞きできますか。特に印象的だったのはどのようなことだったのでしょうか?
現在の東京電力福島第一原子力発電所3、4号機の様子(出典)東京電力ホールディングス株式会社
シンパー 強く印象に残ったのは、そのスピードです。イギリスだったら、このような想定外のシナリオに、どのように対処できたかと思って考えてみると、事故処理のための設計、その具体化、製造、設置……そういったことすべてにおいて、イギリスではもっと時間がかかっただろうと思います。 日本の原子力産業と技術設計チームがひとつになって、素早く対応した、その能力は本当に素晴らしいものです。
―一方、シンパーさんは今後の作業について、困難さも伴うと分析されています。3つの課題を挙げていらっしゃいますが、それについてご説明いただけますか?シンパー はい。私は、今後の廃炉作業の進捗にともなって、3つの課題が出てくると考えています。 まず1つ目ですが、まだ大変な作業は始まっていないということを忘れてはなりません。これから待ち受けているのは、まさに原子炉内部で廃炉作業をおこなうことなのです。私たちは今後の作業の過程において、うまくいかないこともあると心得ておく必要があります。なぜなら、この作業はこれまで誰もおこなったことがないものだからです。新しい技術、新しいアプローチを駆使しつつ、失敗から教訓を得る準備も整えておかなければなりません。また、関係者や地域のコミュニティの人々が、今回の作業は過去に何度もおこなわれてきた作業とは異なるということをよく理解することが重要だと思います。これまでにない新しい試みをおこなうということであり、すべてが計画通りに進むわけではないということです。その点をまず指摘したいと思います。2つ目は、廃棄物管理の道筋の重要性です。廃炉作業では、放射性廃棄物が生じます。その放射性廃棄物がどこに行くのか、どうやって管理をしていくのか知ることが重要になります。廃炉によって生じた放射性廃棄物の保管管理には、長期的な視点が必要です。どういう条件で、どういう入れ物に廃棄物を収納するのかなどを決めていく必要があるためです。つまり、長期的な廃棄物管理の道筋についての合意形成が非常に重要となります。 イギリスでは、これまで、廃棄物管理を短期的に考えてきました。とりあえず保管しておいて、どうするかは後で考えましょう、という態度だったのです。このような態度だと、かえって問題が生じえます。 3つ目は、より長期的な展望を持つことです。たとえば、この場所の将来的な活用方法について社会と認識を共有していくことで、廃炉を進めていくことができます。
―廃炉を進めるにあたって、現在の福島第一の周辺環境に対する影響については、どのようにとらえていらっしゃいますか?
シンパー 福島第一の原発事故は、人々のくらしにたしかに影響を与えました。そこからの復興のために膨大な作業がおこなわれており、それらの作業は今も継続中です。ですが、廃炉作業そのものの環境への影響は、比較的低いと私は考えています。事故そのものによる影響はたしかにあります。だからこそ、福島第一の敷地内では、(適正な)廃棄物管理が進められており、敷地外では、除染作業がおこなわれています。しかし、廃炉作業そのものが環境に与える影響は、比較的小さいと考えています。後編では、汚染水対策や廃炉作業に必要なコミュニケーションのあり方についてうかがいます。
長官官房 総務課 調査広報室
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