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資源エネルギー庁が毎年発行している、「エネルギー白書」。1年間おこなわれたエネルギーに関する政策や取り組み、また今後の方向性についてまとめられていて、エネルギーの状況やエネルギー政策などを知りたい人にとっては欠かせない資料です。今回は、2018年6月8日に公開となった「エネルギー白書2018」から、その読みどころをご紹介しましょう。
エネルギー白書では、その年に注目すべきエネルギーの動きや状況を特集しています。昨年、2017年に公開されたエネルギー白書では、アメリカや欧州で日本に先行しておこなわれた「電力・ガス事業自由化」について取り上げました。新たな需要を求め、国外展開や電力・ガス分野の相互参入、さらには異分野への進出などを進める欧米企業の展開や現状について調査。それらの国々とくらべると、電力・ガス小売全面自由化が始まったばかりの日本では、企業の事業に関する「事業地域の拡大」や「異分野への進出」、あるいは「新サービスの創出」の面でまだ遅れている状況にあること、これからは電力やガスといったエネルギーの枠にとらわれない「総合的エネルギー企業」への脱皮が必要であることを解説しました。では、2018年版のテーマは何でしょう。2017年のエネルギー政策を振り返ると、この1年は、来たる「エネルギー基本計画」の見直しに向け、さまざまな検討がおこなわれた1年だったといえるでしょう。「エネルギー基本計画」とは、国のエネルギー需給に関する施策についての中長期的な基本方針を示したもので、エネルギー政策基本法に基づき、少なくとも3年ごとに検討を加え、必要があれば変更し、閣議決定を求めることが定められています。現在の基本計画は2014年につくられたもので、2030年を目標年としていますが、日本を取り巻くエネルギーの情勢はここ数年で大きく変化しています。また、地球温暖化対策に関する国際的な枠組み「パリ協定」に基づいたCO2削減目標を達成するためには、2050年のエネルギーの姿を見据え、その実現に向けた取り組みを今から始めることが必要です。こうしたことから、エネルギー基本計画の目標年である「2030年」、さらに「2050年」のエネルギーのあり方を見据えて、以下のような検討や議論が進められてきました。
議論にあたっては、議論の前提として必要な、最新のエネルギー情勢変化やエネルギーの動向分析など、さまざまな情報の取りまとめや調査、分析が集中的におこなわれました。現在、これらの議論で得られた方向性を盛り込んだ「第5次エネルギー基本計画案」が公開され、パブリックコメントを募集しています。2018年のエネルギー白書では、こうした議論の前提となった、エネルギーの現状に関する調査や分析を取りまとめて公表しています。
それでは、「エネルギー白書2018」の読みどころを見てみましょう。
2018年は、日本が近代化に向けて歩み始めた明治元年から150年となります。そうした記念年でもあること、また過去からの学びは2050年という未来のビジョンを考える上でも役立つと考えられることから、「エネルギー白書2018」では、明治時代からこれまでの日本におけるエネルギーの歴史を振り返る特集を掲載しています。薪(たきぎ)や炭の時代から、石炭や火力発電の登場、さらに石油時代の幕開け、そして脱石油のトレンドへと、日本は数度の大きな「エネルギー転換」を経験しています。いずれの場合でも、海外から新しい技術を導入し、あるいは技術革新を自らおこなうことで、さまざまな困難を克服し、したたかに転換を乗り切ってきました。その歩みを、貴重な写真や資料とともに紹介しています。
2017年8月から開催された「エネルギー情勢懇談会」は、経済産業大臣主催のもと、さまざまな分野の識者が集まり、未来のエネルギーのあるべき姿について検討を進めました。そこでは、エネルギーを取り巻く世界の情勢をみきわめるべく、さまざまなデータの提示や海外の有識者によるプレゼンテーションなどがおこなわれました。
情勢懇談会では、たとえば、主要各国が掲げている2050年に向けた温暖化対策を分析。削減目標とその比較年、主な戦略やスタンスはもちろん、予測が難しい長期的目標に各国がどのような柔軟性を持たせているかについての分析・比較もおこなっています。「エネルギー白書2018」では、そのようなエネルギーの情勢変化が分かるデータや解説を掲載し、これからのエネルギーの国際情勢を考える際に必要となる情報をまとめています。
2050年のエネルギー政策を考えるにおいては、エネルギー自給率などの「エネルギーセキュリティ」が近年どのような状況にあり、主要国とくらべてどういう状態にあるのかを知ることが大切です。
さらに、未来のエネルギー政策を実現可能なものにするための「エネルギー技術」について、その現状とこれからの可能性についても知っておく必要があります。たとえば、「低炭素化技術」のひとつである太陽光パネルについては、かつて日本企業のシェアは高いものでしたが、太陽光パネルの市場規模が急成長したこともあり、現状では低いシェアとなっています。このような低炭素化技術は、市場がある程度成熟しており、技術開発競争に加え、新たなビジネスモデルなどを描いていくことも重要となります。一方、燃料電池、地熱、蓄電池などの「脱炭素化技術」における日本企業のシェアは高く、脱炭素化に向けた世界のエネルギー転換の動きをけん引できる可能性があります。この分野の研究開発は、未だ各国が試行錯誤の段階であり、一日の長がある日本が世界を主導していけるよう、いっそう努力していくことが重要です。「エネルギー白書2018」では、それらの情報を深く掘り下げて解説しています。
エネルギー技術と日本企業の可能性
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今、世界では、温室効果ガスの人為的な排出量と植物などの吸収源による除去量とのバランスを達成する「脱炭素社会」を今世紀後半に実現するべく、化石燃料利用への依存度を引き下げることなどによって炭素排出を低減していく「脱炭素化」の動きが活発になっています。また、それを背景にした大きな「エネルギー転換」も進みつつあります。この目標に、日本もトライしていかなくてはなりません。「エネルギー白書2018」を読むことで、日本がこれまでエネルギー分野でおこなってきた挑戦と現状、これからおこなうべき挑戦、そのためにはどのような政策や取り組みが必要かを読み解くことができるでしょう。これからのエネルギーのあるべき姿を考えるヒントとなる情報が、「エネルギー白書2018」にはたくさんつまっています。ぜひ皆さんもご覧ください。
長官官房 総務課 調査広報室
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