2050年のエネルギーの姿はどうなる?~エネルギー情勢懇談会が示す方向性

2018年4月10日に開催された第9回エネルギー情勢懇談会の写真です。

第9回エネルギー情勢懇談会の様子(2018年4月10日開催)

私たちの暮らしに欠かせないエネルギーの未来について、さまざまな分野の有識者が集まって話し合う「エネルギー情勢懇談会」。「エネルギーの未来を皆で考えよう ~『エネルギー情勢懇談会』スタート」で2017年8月の初開催をお伝えしたこの懇談会も、回を重ね、2018年4月10日の開催で第9回目を迎え、提言が発表されました。今回は、発表された提言について、どのような認識や方向性が掲げられたのかをご紹介しましょう。

2050年の「エネルギー情勢の変化」をどう見るか?

エネルギー情勢懇談会では、「2050年に向けたエネルギーを取り巻く世界の情勢」、そして、「2050年に向けてどのようなエネルギー政策のあり方が求められるのか」について、海外のエネルギー企業や識者などにもヒアリングし、さまざまな角度から議論をおこなってきました。懇談会の模様は毎回生中継され、フルオープンな検討がおこなわれてきました。

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エネルギー情勢懇談会

情勢懇談会では、2050年に向けたエネルギー情勢の変化を、どのように捉えているのでしょうか。

①「戦後第5回目のエネルギー選択」を考えるべき局面

温暖化対策に関する2050年の長期目標を掲げた「パリ協定」(「今さら聞けない『パリ協定』~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」参照)の発効で、「脱炭素化」へのトレンドが生まれています。これにより、脱炭素化というキャッチフレーズの下で繰り広げられる「エネルギー技術の覇権」を目指した国家間の競争が熾烈さを増しています。そんなエネルギー転換をめぐる競争の中で、もし日本が受動的に対応していると、他国のエネルギー技術に依存することになるという、エネルギー安全保障上の問題が生じるかもしれません。こうしたリスクに対する危機感を共有し、したたかな戦略を策定する必要があります。

第5回目のエネルギー選択
日本がこれまで行ってきたエネルギー選択と、第5回目となる今回のまとめです。

※ここでの脱○○化は、依存度を低減していくという意味

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②エネルギー技術間の競争が生む「不透明さ」

近年、技術革新によって、再生可能エネルギー(再エネ)やシェールガスの価格は下落しています。これらの新しいエネルギーに転換すれば、経済成長をはかりつつ脱炭素化が実現できるのではないかと期待されています。しかし、現在の太陽光や風力発電は火力発電による補完が必要で、それ単体では脱炭素化を実現できません。一方、新エネルギーに対抗する形で、化石燃料や原子力などの従来エネルギーについても、水素化や小型化などの技術革新が生じています。

脱炭素化が可能で、経済的で、そのエネルギー需要を単体で満たすことができる“完璧なエネルギー技術”は実現しておらず、将来的に実現するかどうかも不確実です。また、2050年に向けては、さまざまなエネルギー技術の間で技術競争が本格化することが予想され、その情勢がどのように変化するのか、どのような国や企業が主導権を握るのか、いまだ不透明です。

③技術の変化が地政学的リスクを増やす

こうした技術の変化は、地政学的なパワーバランスにも影響をもたらします。国際エネルギー機関(IEA)によれば、エネルギー情勢が石油による地政学的リスクに左右される構造は続くと見られています。一方、新興のエネルギー大国が経済的パワーを通じてもたらす地政学的リスクも起こりえます。特に、再エネや原子力などエネルギーの脱炭素化をになう分野について、エネルギーに関するコア技術を自国で握り革新をリードするという、「技術自給率」を重視する必要が出てくると予想されます。

再エネの主力化がもたらすエネルギー安全保障への影響
再エネが主力電源となった時どのような地政学的問題があるかをまとめた表です。

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④国家間・産業間の競争の本格化

前述したように、エネルギー転換・脱炭素化に向け、国家間の覇権争いは本格化しています。主要国は野心的な戦略を掲げる一方で、その達成方法についてはコミットしていません。欧米の主要エネルギー企業も、野心的ではあるものの、したたかで多様なエネルギー転換・脱炭素化の戦略を掲げており、金融を巻き込んだ、産業間の競争も激しさを増しそうです。

こうした「可能性」と「不確実性」をはらむ情勢の変化に対して、日本も、世界のエネルギー構造変革に挑戦していくことが求められます。

「可能性」はあるが「不確実性」が高い2050年に向けたシナリオ設計の考え方

複雑で予測困難な環境下での2050年シナリオは、現行の「エネルギー基本計画」で採用したような、「2030年のエネルギーの姿」という単一ターゲットを掲げるだけでは対処が困難です。野心的なゴールを掲げつつも、状況変化に応じてこれを設定し直す「しなやかさ」が必要となってきます。

また、エネルギー選択は各国固有の環境を反映したものにするという点を重視する必要があります。日本固有の特徴には、どういった点が上げられるでしょうか。

①エネルギー安全保障の厳しさ

日本は、自国の化石資源に乏しい国です。また、国際的なパイプラインや国際送電線もありません。さらに、中東に依存している度合いは、主要国の中で突出して高い状況です。

主要国と比較した日本が置かれている状況
主要国と日本で、自給率や国際送電線などについてどのような違いがあるか比較した表です。

日本は資源に乏しく、国際的なエネルギー連携も難しい

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②「安定的で質の高い電力」に対する要求の高さ

人口減少により、長期のエネルギー需要は量的に増大し続けるとは見込まれません。一方で、停電などが少なく安定した電力供給を長期にわたって実現しており、このような高い品質の電力に対する要求は今後も続くと思われます。

③すでに充実したインフラ

日本経済は成熟しており、エネルギーインフラ(送電線、ガスパイプライン、ガソリンスタンド)が、すでに全国に張り巡らされています。

④産業・技術の強さ

エネルギー多消費産業を中心にエネルギー効率はきわめて高く、高信頼のエネルギー技術を持ちます。また、そのような技術に基づくサプライチェーンを構成しています。

こういった日本の特徴をしっかりと認識しながら、「可能性」はあるが「不確実性」が高い2050年に向けて、しなやかなシナリオを設計していくことが大切です。

「脱炭素化」「可能性」「不確実性」がこれからのエネルギーのキーワード

これらの情勢分析や日本の立ち位置を踏まえて、情勢懇談会では提言をまとめ始めています。まとめるにあたっては、以下の3つの点が踏まえられています。

まず、福島第一原発事故をエネルギー政策の原点におくという姿勢は変わらないということです。2050年のエネルギー戦略を考えるにあたっても、原子力についての検証・検討は欠かせないものであり、事故から得られた教訓をどのように活かしていくのかを示す必要があります。

2点目として、2050年に向けた可能性と不確実性の高まりです。脱炭素化を可能とする技術革新について、期待が高まる一方で、国家間競争の行く末は不透明です。その中で、日本はどのように主導性を発揮できるかを考える必要があります。

最後に、エネルギーのコストを抑え、海外依存の構造を変えるという「エネルギーの自立」は、戦後一貫して求められているということです。

この3点を踏まえて、現在、以下のような提言が主にまとめられています。

リストアイコン 2050年の未来のエネルギーを見据えた「2050年シナリオ」の設計は、可能性と不確実性に着目した、「野心的」なシナリオ、なおかつ、再エネ・水素・原子力などあらゆる選択肢を追求する「全方位での複線」シナリオとする。

リストアイコン 「全方位での複線」シナリオを追求しながら、技術や政策の重点をしなやかに設定・修正するため、透明性の高いしくみ「科学的レビューメカニズム」を導入する。

リストアイコン 電力だけでなく、熱システム、輸送システムなどもあわせたすべてのエネルギーシステムについて、脱炭素化に挑戦する。このため、「科学的レビューメカニズム」においては、電源(電気をつくる方法)別のコスト検証に替えて、①蓄電系 ②水素系 ③炭素固定系 ④原子力系 ⑤デジタル系などの間でコストやリスクを検証する。

リストアイコン コストやリスクを検証する際の視点として、各国固有の環境を反映することを引き続き重視し、「より高度な3E+S」をエネルギー選択の評価軸として定める。
S 安全最優先⇒技術とガバナンス改革による安全の革新により実現
E 環境適合⇒脱炭素化へ挑戦
E 経済効率性⇒国民負担抑制に加え、自国産業競争力を強化
E 安定供給⇒資源自給率に加え、技術自給率向上とエネルギー多様化

リストアイコン 「より高度な3E+S」を実現していくために、世界共通の過少投資問題への対処として、必要な投資が確保される仕組みを設計する。

電源別のコスト検証から脱炭素化システム間のコスト・リスク検証への転換
コストやリスクを脱炭素化システム間で検証していくことを示した図です。

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懇談会では、このような「野心的な複線シナリオ」を追求し「より高度な3E+S」を実現するためには、世界の競合を相手に先手を打っていく戦略性が求められること、また「技術」「人材」というエネルギー安全保障の源をたくわえ、「総力戦」で対応することが重要だということも指摘されています。

総力戦での対応の考え方は「360度対応」
2050年のエネルギーに対する「総力戦」の概念図です

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この提言は、その後、夏を目途に政府でまとめていく「エネルギー基本計画」改定に反映されていく予定です。

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