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地球温暖化対策の話題でよく見る言葉、「クレジット」。中でも、日本が持つ環境技術を開発途上国へと広げる「二国間クレジット制度」は、いま要注目の温暖化対策です。そのしくみを、わかりやすくご紹介します。
温暖化を防ぐために必要なのは、CO2など温室効果ガスの排出をできるだけ少なくすることです。そのためには、温室効果ガスをあまり排出しない(低炭素、低排出)技術や、温室効果ガスを吸収する取り組みを広げることが求められます。省エネ製品の利用や、再生可能エネルギーの導入、森林を育ててCO2を吸収することなどが考えられるでしょう。このような温室効果ガスの削減量や吸収量に応じて発行され、他の企業や国と取引することを可能にするのが「クレジット」です。温暖化対策の国際的な枠組み「京都議定書」では、「クリーン開発メカニズム(CDM)」というクレジット発行のしくみが作られました。これは、先進国が途上国に技術や資金を提供して温室効果ガス削減プロジェクトなどをおこない、それによって得られた削減分を、先進国が「クレジット」として自国の削減目標達成にカウントできるというしくみです。
なぜ、このようなしくみが作られたのでしょうか。たとえば開発途上国にとって、先進的な低炭素技術の多くはコストが高く、投資がきちんと回収できるのか見込みが立てにくい場合があります。そんな時に、先進国から資金や技術を提供してもらって排出削減プロジェクトに取り組み、成果をクレジットとして先進国に渡します。こうすれば、途上国は自国だけでは実施が難しかったプロジェクトに取り組むことができ、先進国はクレジットで自国の削減目標をおぎなうことが可能になるのです。
日本が進めている「二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism、JCM)」は、日本の持つすぐれた低炭素技術や製品、システム、サービス、インフラを途上国に提供することで、途上国の温室効果ガスの削減など持続可能な開発に貢献し、その成果を二国間で分けあう制度です。JCMによって、温室効果ガスの排出削減や吸収に対する日本の貢献を定量的に評価することが可能になり、日本の排出削減目標の達成に活用することができます。また、地球規模で温室効果ガス排出削減・吸収の活動をうながすことにもなるため、温室効果ガスの大幅削減を目指す「2℃目標」の達成にも役立つこととなります(「今さら聞けない『パリ協定』 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」 参照)。(パリ協定におけるクレジットの活用のルールなどについては、2018年のCOP24でまとめるべく現在交渉中)日本は、JCMなどの国際貢献によって、2030年度までの累積で5000万~1億トンの温室効果ガスを排出削減・吸収することを見込んでいます。
JCMができてどう変わったのでしょうか。CDMと比べて変わった点を簡単にまとめると、次の比較表のとおりです。ようするに、JCMはCDMよりも簡易で、効率的で、柔軟なしくみになったといえます。
JCMとCDMの比較
(出典)2015年の環境省の資料(※)を基に資源エネルギー庁が独自に作成。 ※環境省「二国間クレジット制度 (Joint Crediting Mechanism (JCM))の最新動向」(PDF:872KB)
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表の内容について、具体的にみてみましょう。
CDMでは、京都議定書締約国やCDM理事会が一括して管理していました。このため、調整はむずかしく、コストも大きかったと言えます。JCMでは、基本的に当事者の2カ国が管理する形なので、より調整しやすく、コストも少なくてすむようになりました。具体的には、日本と各パートナー国で設置した「合同委員会」が、JCMの実施に必要となるルールやガイドラインなどを定めて管理します。
CDMではプロジェクトの対象となる範囲が限定的でしたが、JCMでは、より広くなりました。たとえば、省エネ技術については、省エネへの取り組みそのものにコスト削減効果があること、すなわち事業そのものに収益性が見込まれ、クレジット化しなくてもプロジェクトとして成立する可能性が高いことから、CDMのプロジェクトとして認められるためにはより厳しい基準が求められました。一方、JCMでは認められやすくなっています。
CDMでは、複数の計算式の中から事業者が式を選択して、排出量を計算する必要があります。また、排出量のモニタリングをおこなう時のパラメータ(媒介変数)に不確実な要素がある場合、あらかじめ誤差がどのくらい出るか、どうやって調整するかなどの方法を特定しておくことも必要です。このため、計算が複雑になります。JCMでは、あらかじめ用意されているひとつのスプレッドシート(計算表)で、より簡単に計算することができます。また、モニタリングをおこなうパラメータに測定できない数値がある場合、一時的な数値を使って算定することが可能です。
CDMでは、CDMが指定する「指定運営機関(DOEs)」(32機関)のみが、プロジェクトの妥当性を確認し、このプロジェクトがなければCO2削減ができないか(「追加性」の証明)、厳しく限定的に判断します。JCMでは、DOEsだけでなく、ISO14065(温室効果ガスに関する妥当性を確認・検証することができる機関に与えられる国際認証)認証を受けた機関(6機関)も実施可能です。また、プロジェクトが客観的に判断することのできる「適格性要件」を満たしていれば、CDMのような「追加性」の証明がなくても認められます。
CDMでは、プロジェクトの妥当性を確認した機関は、基本的に検証を実施できません。また、仮にプロジェクトが進んでいたとしても、事前の妥当性の確認と事後の検証は、あくまで別に実行される必要があります。JCMでは、プロジェクトの妥当性を確認した機関も検証を実施できるため、よりスムーズに検証できるようになります。また、プロジェクトが進んでいる場合は、妥当性の確認と検証を同時に並行しながら進めることができるので、コストが低くなります。
日本は、途上国とのJCMに関する協議を2011年からおこなってきました。2017年12月時点で、17カ国とJCMを構築しています。JCMは、今のところは取引をおこなわない制度となっていますが、パートナー国の政府と協議を続け、取引可能なクレジット制度に移ることを検討していきます。経済産業省では、予算事業などを通じて、JCMプロジェクトの実施や手続きを支援しています。2017年度は、モンゴルでの省エネ送電システムや、ベトナムでの国立病院の省エネ化などの実証事業が採択されました。
今後もパートナー国の拡大や、JCMプロジェクト支援に努めていきます。
経済産業省 産業技術環境局 地球環境連携室
長官官房 総務課 調査広報室
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