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(出典)令和4年度愛媛県原子力防災訓練等の記録
日本は、台風や地震、津波など自然災害の発生件数が多い国です。そのような非常事態が起こってもできるだけ被害をおさえることができるよう、防災や減災に努める必要があります。原子力発電所は厳しい規制基準に基づいて安全を最優先に運用されていますが、想定外の災害が起こる可能性はゼロにはできないことから、たとえ万が一のことがあっても周辺住民の方々の安全は守られるようにしておかなくてはなりません。東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、防災のための取り組みはさらに強化されています。今回は、愛媛県の事例を引きながら、原子力発電所の立地地域でおこなわれている防災の取り組みをご紹介しましょう。
2011年の東京電力福島第一原子力発電所で起こった事故からの教訓を活かし、現在運転中の原子力発電所では、新規制基準に基づいたよりいっそう厳しい安全対策が実施されています。しかし、原子力発電所周辺に住む人々の生命や財産を守るためには、こうした安全対策だけでなく、万が一の事態を想定して日頃から防災を考え、「地域防災計画」や「避難計画」を整備しておくことが求められます。そこで、原子力発電所がある地域の自治体では、原子力防災体制の充実や強化に取り組んでおり、政府も一体となってその取り組みを支援しています。その中心となっているのが、原子力発電所がある全国13の地域に設置された「地域原子力防災協議会」です。この協議会は、内閣府や国の関係省庁と、避難計画を策定する関係自治体などで構成されており、関係者が協力しながら、避難計画の策定や充実化の取り組みを進めています。
もちろん、災害対策においては予測や計画を立てるだけでなく、訓練をおこなうことも大切です。国は、原子力発電所のある地域を毎年ひとつ選び、自治体、原子力事業者などと合同で、大規模な「原子力総合防災訓練」をおこなっています。一方、原子力発電所のある地域の自治体においても、これとは別に年間を通じてさまざまな防災訓練がおこなわれています。自治体が実施するこの訓練では、原子力発電所で事故が発生したことを想定し、避難や検査などのさまざまな訓練をおこないます。また、一部の訓練には、地域住民も参加します。地域ごとに、地形や気候、住民の人数などの発電所をとりまく事情が異なる中、想定する状況や取り組む内容に毎年工夫を重ねながら実施されています。例として、2022年度(令和4年度)に愛媛県でおこなわれた訓練を見てみましょう。訓練は10月12日におこなわれ、多くの地域住民・機関が参加しました。参加者数は、避難をおこなった人が約200人、屋内に退避した人が約1.9万人、参加機関は国、自治体、四国電力などの92機関、約1,400人でした。訓練で想定されたのは、「地震によって四国電力伊方発電所で事故が発生し、放射性物質が放出された」というシナリオ。緊急時における災害対策の習熟と関係機関の相互協力体制の強化を図るとともに、県民の原子力防災に対する理解を促進することを目的として、主に以下の訓練がおこなわれました。
県などは災害対策本部を設置し、災害状況の把握、放射線からの防護措置、広域避難の受け入れ調整などを協議し、決定しました。
愛媛県災害対策本部/2022年度(令和4年度)愛媛県原子力防災訓練の様子 (出典:令和4年度愛媛県原子力防災訓練等の記録)
住民避難の多様化のため、バスによる避難に加えて、道路寸断を想定した海路・空路による避難なども実施。また、多言語による災害情報の提供や、翻訳アプリを活用した外国人の避難誘導などをおこないました。
海上自衛隊「11m作業艇」 による住民搬送(出典:令和4年度愛媛県原子力防災訓練等の記録)
海上自衛隊多用途支援艦「げんかい」 による海路避難(出典:令和4年度愛媛県原子力防災訓練等の記録)
松山海上保安部巡視艇「おきなみ」 による海路避難(出典:令和4年度愛媛県原子力防災訓練等の記録)
愛媛県漁業取締船「うわかぜ」 による海路避難(出典:令和4年度愛媛県原子力防災訓練等の記録)
航空自衛隊中型ヘリ「UH-60J」 による空路避難(出典:令和4年度愛媛県原子力防災訓練等の記録)
避難のために支援が必要な住民の搬送(出典:令和4年度愛媛県原子力防災訓練等の記録)
翻訳アプリを活用した外国人の受付(出典:令和4年度愛媛県原子力防災訓練等の記録)
県の職員などが、原子力発電所周辺の放射線の量を測定する訓練をおこないました。土壌や飲料水を採取して検査するなど、実際に計器を動かすことにより、正しい測定・分析方法を学び、緊急時に速やかに情報収集できるようにするためのものです。
放射線量の測定(出典:令和4年度愛媛県原子力防災訓練等の記録)
緊急時に、一時集合場所などで「安定ヨウ素剤」(放射性ヨウ素を吸入する前に服用することで、甲状腺に放射性ヨウ素が蓄積しないようにするもの)の配布・服用の訓練をおこないました。また、住民が避難する際に放射性物質が付着しているかどうかを検査し、必要に応じて簡易除染をおこなう訓練も実施しました。
安定ヨウ素剤の配布(出典:令和4年度愛媛県原子力防災訓練等の記録)
放射性物質の検査・簡易除染(出典:令和4年度愛媛県原子力防災訓練等の記録)
このような地域住民が参加する大規模な訓練以外にも、関係機関の対応力の向上を目指して、さまざまな訓練がおこなわれています。2022年度(令和4年度)に愛媛県でおこなわれた訓練としては、以下のようなものがありました。
「オフサイトセンター」(原子力災害時に対策の拠点となる施設)にて、国、自治体、四国電力などの関係機関が一堂に会し、防災体制やマニュアルの確認、情報収集・共有のほか、避難・屋内退避といった各種防護措置の検討などの訓練をおこないました。参加者にシナリオを事前に伝えないブラインド要素も取り入れ、参加者の主体的な活動を促進しました。
全体会議(出典:令和4年度愛媛県原子力防災訓練等の記録)
各班の連携の様子(出典:令和4年度愛媛県原子力防災訓練等の記録)
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で、ドローンとヘリの衝突を回避し、同時に運用する実践的な実証をおこないました。原子力災害時に、住民避難に必要な避難道路の被災状況を、迅速かつ効率的に把握できるようになります。
ドローンへの指示、映像確認(出典:令和4年度愛媛県原子力防災訓練等の記録)
JAXAからの説明(出典:令和4年度愛媛県原子力防災訓練等の記録)
ほかにも、全国の原子力発電所がある地域の自治体で、さまざまな原子力防災訓練が実施されています。万が一の際にも地域住民の安全と安心を守れるよう、地域住民の協力を得ながら、原子力防災対策のさらなる充実・強化に向けた努力が続けられているのです。
電力・ガス事業部 原子力立地政策室
長官官房 総務課 調査広報室
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