2025年、「放射性廃棄物」の処分プロセスはどうなっている?(後編)

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原子力発電の利用についてはさまざまな意見があるものの、原子力発電により発生した「放射性廃棄物」(メディアなどでは、いわゆる“核のゴミ”と呼ばれることもあります)をどのように処分するか?ということは、私たち全員が考えるべき問題です。放射能レベルの高い「高レベル放射性廃棄物」の処分については、日本は世界各国と同じく「地層処分」という処分方法を採用しており、処分地を選定するためのプロセスが丁寧に進められています。現在、3つの自治体でおこなわれている「文献調査」のプロセスについて、2025年の現状をご紹介しましょう。

処分地選定のプロセスと、その最初のステップ「文献調査」

「2025年、『放射性廃棄物』の処分プロセスはどうなっている?(前編)」 では、「最終処分」や「地層処分」についてあらためておさらいしました。最終処分の処分地選定プロセスは、「文献調査」「概要調査」「精密調査」の3つのステップで構成されており、現在は最初のステップの「文献調査」が、北海道の寿都町(すっつちょう)と神恵内村(かもえないむら)、佐賀県の玄海町(げんかいちょう)で実施されています。

「文献調査」は、住民が最終処分事業や事業が地域にあたえる影響などについて議論をおこなうために、全国規模の文献やデータと地域に即した地域固有の文献やデータが調査・分析された上で、提供されるものです。

ただし、前編でもお伝えした通り、文献調査は、処分地選定に直結するものではありません。文献調査の結果を受けて次のステップ(概要調査)へと進む場合には、地元の意見を聴く場が設けられます。そこでの意見に反してプロセスが先に進められることはない、ということを覚えておきましょう。

では、文献調査を通じて、実際にどのようなことが分かるのでしょうか。また、そこからどのような議論が期待されるのでしょうか。先行して文献調査を進めている北海道の2自治体を通じて見てみましょう。

文献調査でどんなことがわかったの?

北海道の寿都町と神恵内村で文献調査がはじまったのは、2020年11月17日のこと。そこから約4年を経て、法律に基づく一連のプロセスとして、原子力発電環境整備機構(NUMO)が文献調査報告書案をとりまとめ、2024年11月22日に同報告書を北海道知事・両町村長に手渡しました。それぞれの報告書案のポイントは次の通りです。

北海道の地図のうえで、寿都町・神恵内村の場所を示しています。

寿都町の報告書案のポイント

文献調査の対象地区となったのは「寿都町全域およびその沿岸海底下」です。文献調査では、主に以下のことがわかりました。

リストアイコン 雷電山などのエリアが、昔活動した火山の活動中心である可能性が確認された。次の「概要調査」で火山の活動中心であることが確定した場合、その地点からおおむね15キロメートル以内は、調査対象範囲から除外する。
リストアイコン 低周波地震の震源が局所的に分布しているエリアを確認。最終的な評価は次の「概要調査」でおこなうが、新たな火山が生じる可能性が判明した場合、影響を受ける範囲は調査対象範囲から除外する。
リストアイコン 寿都鉱山の鉱床の規模は、鉛、亜鉛の合計として10キロトン~100キロトンで、避けるべき基準に該当すると考えられたが、この鉱床は230メートルより深い場所の記録が確認できず、最終処分をおこなおうとする地層についての判断はできなかった。

こうした文献調査の結果、調査対象となったエリアの全域が、次のステップの「概要調査」に進む場合の調査対象候補となることとなりました。

文献調査の結果、概要調査地区の候補となったエリアが地図上で示されています

文献調査の結果、次の「概要調査」地区の候補となったエリア(青ドット)

神恵内村の報告書案のポイント

文献調査の対象地区となったのは「神恵内村全域およびその沿岸海底下」です。文献調査では、主に以下のことがわかりました。

リストアイコン 珊内川中流などに、昔活動した火山の活動中心である可能性のあるエリアが確認された。次の「概要調査」で火山の活動中心であることが確定した場合、その地点からおおむね15キロメートル以内は、調査対象範囲から除外する。
リストアイコン 文献調査対象地区外の北東に位置する「積丹岳」の火山活動の中心から15キロメートル以内の範囲が、避けるべき場所と評価された。
リストアイコン 神恵内湾西方沖の大陸棚の一部において、海底下300メートルほどの位置に、未固結の堆積物の分布が認められるという情報が確認された。

こうした文献調査の結果、調査対象となった積丹岳の火山活動の中心から15キロメートル以内の範囲を除いたエリアが、次のステップの「概要調査」に進む場合の調査対象候補となることとなりました。

文献調査の結果、概要調査地区の候補となったエリアが地図上で示されています

文献調査の結果、次の「概要調査」地区の候補となったエリア(青ドット)

ただし、繰り返しになりますが、「概要調査」に進むかどうかは地元の意見を聞いた上で決定されます。

文献調査をふまえて、どんな議論がおこなわれているの?

これら北海道の2エリアでは、地元住民との対話もスタートしています。2021年4月から、各町村とNUMOが「対話の場」を立ち上げ、中立的な立場のファシリテーターを進行役とし、地元住民をメンバーとする会を開催しています。2025年1月末時点で、寿都町では17回、神恵内村では20回の対話が実施されました。

対話の場では、「地層処分について思うこと」「地層処分の概要」などの対話や説明はもちろん、文献調査についても、模擬体験や進捗状況の報告が実施されています。

将来の町・村のありかたに関する議論もおこなわれています。議論にあたっては、処分地選定で先行するフィンランドとの意見交換など、考える材料となりえるさまざまな情報が住民に提供されています。さらに、これらの対話の場から派生した取り組みとして、現地視察や、「まちの将来に向けた勉強会」、専門家による地元住民向けシンポジウムなどが開催されています。

今後、文献調査を受け入れる自治体をもっと増やしていくためには、まずは私たち皆が最終処分事業に対する理解を深め、自分ゴトとして考えるような機運を高めることが必要です。

そこで、国・NUMO・電力会社の合同チームが地域ブロックごとに新設され、2023年7月から、全国の地方公共団体などを個別に訪問する活動をスタートさせました。2024年12月末時点では、累計187市町村の首長を訪問しています。また、資源エネルギー庁とNUMOの共催で、少人数で円卓を囲む対話型全国説明会も実施。2017年の開始から2025年1月末までの間に、200回開催しています。

資源エネルギー庁でも、地層処分に関心のある大学生の集まり「ミライブプロジェクト」による大学祭への出展や、職員などによる大学での出前授業、高校生向けの研修事業など、さまざまな広報活動を展開。より若い世代が、高レベル放射性廃棄物の最終処分について考えるきっかけを提供しています。加えてNUMOでも、新聞やWebでの広告、イベント出展などを通じた情報提供をはかっています。

「ミライブプロジェクト」による大学祭出展と高校生向けの研修事業の様子を撮影した写真です

「ミライブプロジェクト」による大学祭出展(左)と高校生向けの研修事業(右)

最終処分は、エネルギーを使う私たちみんなの問題です。ぜひ理解を深め、一緒に考えていきましょう。

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