成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(後編)動きだす産官学パートナーシップ
SAFの導入拡大をめざして、官民で取り組む開発と制度づくり
なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?~2030年度のエネルギーミックスとCO2削減を達成するための取り組み
成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(前編)どんな課題を解決するの?
廃炉からのゴミで作られた照明灯
原子力発電所からは、運転や廃炉にともなう解体などの過程で、さまざまな“ゴミ”、つまり廃棄物が出ます。そのうち、「人の健康に対する影響を無視できるレベル」と見なされたものの中には、一般の産業廃棄物と同じように扱われ、リサイクルされ役立てられているものもあります(「廃炉からのゴミをリサイクルできるしくみ『クリアランス制度』」参照)。今回はこの「クリアランス制度」のもと進められている廃棄物の再利用について、最新の活用事例や実証実験のようすなどをご紹介します。
原子力発電(原発)の廃炉などをおこなうにあたって出る廃棄物については、放射能レベルに応じて、適切に処分するよう法律でさだめられています。その中で「人の健康に対する影響を無視できるレベル」と見なされたもののうち、国(原子力規制委員会)の確認を受けたものは「クリアランス物」と呼ばれ、一般の産業廃棄物と同じ扱いができるのです。「クリアランス物」とされるレベル(クリアランスレベル)は年間0.01ミリシーベルトで、これは自然界の放射線から受ける放射線量(日本平均で年間約2.1ミリシーベルト)の100分の1以下に相当します。
1基の原子炉を廃炉すると、周辺設備や建屋から約54万トンの廃棄物が発生すると推定されます。「クリアランス制度」は、廃炉が増える中で、廃棄物の処理・処分をスムーズにかつ安全に進めるため、また資源を有効活用するために設置された制度なのです。現在は、クリアランス制度が社会に定着するまでのあいだ、電気事業者などが自主的に再利用先を限定することで、クリアランス物が市場に流通することがないよう運用されています。
「廃炉からのゴミをリサイクルできるしくみ『クリアランス制度』」でクリアランス物の再利用の実例をいくつかご紹介しました。その後も、さまざまなところで、クリアランス物の再利用が進められています。たとえば中部電力は、静岡県清水町の木村鋳造所に委託し、クリアランス金属を再利用して側溝用のグレーチングを製造しました。完成したグレーチングは、中部電力浜岡原子力発電所の敷地内にある道路などの側溝に利用されています。また、2021年度から、国の委託事業として、クリアランス物の再利用に関する実証実験をおこなっています。この実証では、福井県にあり廃炉作業がおこなわれている原子力発電所「新型転換炉ふげん」などから生じたクリアランス金属が使われています。このクリアランス金属を、福井県にある加工事業者などが溶融・加工して、再利用製品を製造しました。この実証では、クリアランス物を加工する前後における放射能の影響を測定。その結果、製品や、製造に使用した設備や工場の周辺に放射能の影響がないことが確認できています。福井県のサイクリングルート沿いにある一部の公共施設には、この事業で製造したサイクルラック(自転車を停めるためのラック)が設置されています。
福井県立美浜町レイクセンターに設置されたサイクルラック
また、敦賀工業高等学校と福井南高等学校では、生徒たちが金属のリサイクルやクリアランス制度について学び、クリアランス物でつくる照明灯のデザインなどに取り組みました。
敦賀工業高校に設置された照明灯。近隣で盛んなボート競技を模したもの
福井南高校に設置された照明灯。越前水仙を模したもの
日本にはいま60基の原子力発電所があります。そのうち24基はすでに廃炉することが決定していて、2020年代半ば以降、原子炉などの解体が本格化していく見通しです。クリアランス対象物は現状で年間1,000トンほど発生していますが、すでに廃炉が決まっている原子力発電所の数を考えると、約10年後には10倍ほど発生する見通しです。廃炉のスムーズな進行や資源の有効活用という観点でいえば、今後は、電力業界内でのクリアランス物の使用に限らない、積極的な利用を進めていくことが必要になってきます。そこで、令和3年(2021年)度から、有識者による検討委員会が開催されました。委員会では、クリアランス金属を汎用性の高い資材に加工するため福井県内の企業が実施した実証事業をもとに、加工事業者などに向けた留意事項や、今後必要となる取り組みに関する取りまとめがおこなわれました。また、令和4年(2022年)度は、検討委員会による提言を踏まえて、電力業界以外でクリアランス金属を利用する場合の留意事項の改定や、利用先の区切りなどの規則を取り払い通常の金属スクラップ同様に取りあつかうフリーリリースを見すえた今後のステップについて検討がおこなわれました。国は今後もクリアランス制度に関する適切な情報の開示や広報などをおこなっていく予定です。「エネこれ」でも、クリアランス制度の動向をわかりやすくお伝えしていきます。
電力・ガス事業部 放射性廃棄物対策課
長官官房 総務課 調査広報室
※掲載内容は公開日時点のものであり、時間経過などにともなって状況が異なっている場合もございます。あらかじめご了承ください。
従来の太陽電池のデメリットを解決する新たな技術として、「ペロブスカイト太陽電池」が注目されています。これまでの太陽電池との違いやメリットについて、分かりやすくご紹介します。