2021年初頭、電力供給が大ピンチに。どうやって乗り切った?(後編)

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2021年1月上旬、日本では断続的な寒波による急激な電力需要の高まりが起こり、さまざまな要因のもと、需給ひっ迫の危機と、それにともなう電力市場価格の高騰が生じました。「2021年初頭、電力供給の大ピンチ。どうやって乗り切ったのか?(前編)」では、どのようなことが起こったのか、そのピンチを乗り切るためおこなわれた取り組みをご紹介しました。後編では、背景にある現在の日本の電力システムの姿と、今後さらにスムーズに安定供給を確保できるよう進められている対策を見てみましょう。

2021年冬期の電力の大ピンチを分析し、対策に活かす

「2021年初頭、電力供給の大ピンチ。どうやって乗り切ったのか?(前編)」でご紹介した、2020年12月から起こった電力需給ひっ迫と、市場価格の高騰。こうした事象をふせぐ対策を練るには、そもそも今の日本の電力システムがどのような姿なのかを理解し、背景にある問題を探る必要があります。

事象の要因
それぞれの事象が、「需給ひっ迫」と「市場価格高騰」のどちらの要因になったかを表にまとめています。

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そこで、経済産業省の総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会で、検証と課題の抽出、対策の検討がおこなわれました。2021年6月15日には、中間報告として「2020年度冬期の電力需給ひっ迫・市場価格高騰に係る検証中間取りまとめ」が公表されました。

背景にあったのは、大きく変わった日本の電力システムの姿

中間取りまとめでは、今回の電力需給ひっ迫と、電力市場の価格高騰の背景に、以下のような電気事業の構造的な変化があると分析されています。

発電の方法の変化

2011年の東日本大震災以降、日本の電源(電気をつくる方法)の構成は大きく変化しました。

原子力発電は順次停止し、発電電力量に占める原子力発電の割合は、2014年度には0%になりました。そこで、発電事業者は火力発電の発電電力量を増やすことで、国内の電力需要をおぎなってきました。発電電力量に占める火力発電の割合は、震災前の2009年度は約61.4%でしたが、2014年度は約87.7%となりました。

並行して、再生可能エネルギー(再エネ)の導入量は拡大しました。ただ、太陽光発電や風力発電は、天候や季節によって発電量が変動します。その変動性をおぎなう“調整力”としても、火力発電の重要性が増すこととなりました。

こうして、現在の日本の電力事業は、火力発電に依存した供給構造となっています。中でも、石油火力発電の休廃止もあいまって、LNGを燃料とするLNG火力発電に頼る度合いが増えています。

電力の担い手の変化

一方、電力自由化などの「電力システム改革」が進められてきたことで、電力事業の担い手も近年大きく変化しています。

電力システム改革の前までは「一般電気事業者」と呼ばれる事業者が、電力供給に責任を持ち、一定区域内に独占的に電力を供給していました。現在は、「発電事業者」「送配電事業者」「小売電気事業者」などが存在し、電力供給を担っています。

そうした中では、電源や燃料の種別、あるいは発電所間で競争が拡大し、電力市場の取引が増加しています。拡大する再エネが安価な市場価格をつける一方、火力発電がビジネスとして成り立つかどうかという「事業予見性」が不透明となっています。結果、電気事業者は自社の発電設備の最適化を進めていて、石油火力発電などの廃止による供給力の低下傾向が見られます。

LNG火力発電については、前述の通り依存度が増していますが、LNGは気化しやすいという特性があり貯蔵に適していないため 、余剰が発生しないよう最適化した燃料調達がおこなわれています。そのため、予想と異なる燃料の消費が全国的また断続的に発生した場合、追加の調達には2か月ほどかかることもあって、燃料不足におちいる可能性をはらんでいます。

安定供給のための予防と緊急時の対策、さらに構造への対策も

こうした分析を受け、中間取りまとめでは主要な対策パッケージが提案されました。対策は、「需給ひっ迫への対策」「市場価格高騰への対策」の2つがあり、さらに2021年度の冬までにおこなう「予防対策」「緊急時対策」と、「構造的対策」の3種類に分かれています。どのような対策が提案されているのか、「需給ひっ迫への対策」を中心に見ていきましょう。

予防対策:さらなるリスク評価と燃料ガイドライン策定

これまで、冬期のピーク電力需要に対して供給力が足りているかについては、「電力需給検証」により「kW」ベースでの需給バランスを事前に確認されていましたが、今回の需給ひっ迫は、LNGの在庫「kWh」不足が要因の1つでした(「2021年初頭、電力供給の大ピンチ。どうやって乗り切ったのか?(前編)」参照)。

そこで、予防対策として、これまでのように供給力にどのくらい余裕があるかを示す「kW」だけをベースに電力需給検証をおこなうのではなく、「kWh」つまり一定時間に必要となる電力量をベースにした評価もおこなうしくみが考えられています。kWhを考えるということは、燃料の在庫量が評価されることとなります。

また、こうしたkWhの確保状況について、定期的にモニタリングするしくみの導入もあげられています。さらに、発電事業者などに対し、どのような燃料確保のありかたが望ましいかを示す「需給ひっ迫を予防するための発電用燃料に係るガイドライン)」を2021年10月25日に策定しました。

緊急時対策:体制の構築と「でんき予報」の拡充

万が一のことが起こった場合の対策としては、燃料が一定基準を下回るなど、将来のkWh不足が懸念される際に、関係者による「警戒対応体制」を構築することが提案されました。この体制のもとで、事業者間の電力融通をスムーズにしたり、電気を使う需要家へ働きかけたりすることが考えられています。

警戒対応体制のイメージ
事業者、広域、国、とそれぞれの警戒対応体制を図であらわしています。

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また、東日本大震災にともなう計画停電や節電要請をきっかけに構築された「でんき予報」の活用も提案されています。「でんき予報」は、各エリアの日々の電力需給の予測と実績を、電気を使う需要家に対して発信することで、節電の加減をかんがえる参考にしてもらうことを狙ったしくみです。

この「でんき予報」において、現在のような供給力(kW)情報だけでなく電力量(kWh)情報の発信も追加するなど、情報発信を拡充することが検討されています。

現行の「でんき予報」の表示方法
でんき予報の表示方法を図であらわしています。

(出典)東京電力パワーグリッドのHPより抜粋

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構造的対策:カーボンニュートラルと安定供給を両立させる

スペシャルコンテンツでもお伝えしていますが、日本は2050年にカーボンニュートラルを実現することを目指しており、CO2排出量を減らしていく必要があります。そのため、2020年7月の梶山経済産業大臣の指示を受け、非効率な石炭火力発電のフェードアウトを着実に進めるしくみについて議論をおこなってきました(「非効率石炭火力発電をどうする?フェードアウトへ向けた取り組み」参照)。

一方で、今回の需給ひっ迫において、LNG 火力への依存度の高まりを背景に、LNGの在庫減少にともなう供給面への影響力の大きさがあきらかになるとともに、石炭火力の供給力の優位性が浮き彫りとなりました。こうした状況をふまえて、カーボンニュートラルと安定供給を両立するような、適切な火力発電の配分を考える必要があります。

ただし、火力発電が担ってきた供給力や、再エネの変動性をおぎなう調整力は確保しなくてはなりません。そこで、将来の供給力・調整力となる発電設備への新規投資をうながすため、長期的に事業予見性を高めるような施策が求められています。

加えて、広域的に電力を融通する機能を強化するため、電力系統の整備に向けたマスタープランの策定、既存の電力系統を最大限活用するための施策を実施することも求められています。

新しい電力システムでも「S+3E」を実現するために

一方で、「市場価格の高騰」については、情報開示の充実や監視の強化、市場セーフティネットの導入といったしくみの強化がなされています。さらに、小売電気事業者などに適切な市場リスク評価・管理のありかたを示す「地域や需要家への安定的な電力サービス実現に向けた市場リスクマネジメントに関する指針(案)」などの構造的な対策も検討されています。

教訓を踏まえた主要対策パッケージ
需給ひっ迫への対策と、市場価格高騰への対策を、予防や緊急など対策の種類ごとに表でまとめています。

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日本の電力のあり方は、この10年で大きく変わりました。しかし、エネルギー政策の基本方針が「S(安全性)+3E(安定供給・経済効率性・環境への適合)」であることには変わりはありません。その実現のためには、電力供給体制、電力市場、各事業者の役割・責任などをふまえながら、総合的な議論を重ねていくことが必要です。

2021年3月に示された今後の電力供給計画の取りまとめによれば、2021年度の冬の需給についても、きびしい見通しが示されています。今後、たとえ同じような事象が起こったとしてもスムーズにすばやく安定供給を確保できるよう、さまざまな対策を確実に進めていくことが求められます。

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