送電線「空き容量ゼロ」は本当に「ゼロ」なのか?~再エネ大量導入に向けた取り組み
「太陽光発電を始めたいのに、送電線に空きがなく、つなげない」。そんなニュースが最近世間をにぎわせています。これはいったいどういうことでしょう?なぜ空きがないのか?本当に空き容量はゼロなのか?今回は、送電線の空き容量の考え方、日本の送電線の状況、検討が進められている改善策についてご紹介します。
「空き容量ゼロ」では再エネの電気が流せない
太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギー(再エネ)の利用を拡大するには、いくつかのクリアすべき課題があります。そのひとつが「系統」にまつわる課題です。系統とは「送電網・配電網」のことで、電気を各地へ送るためのシステム全体のことを指します。送電線や電柱なども、この系統を構成する要素のひとつです。
発電所がつくった電気は、送電線を通じて各地へと送られます。しかし、送電線には容量のリミットがあり、そこに空きがなければ、電気を流すことはできません。発電所が新設され、その発電量が増えてくるにつれ、「系統の空き容量」は大きな問題となってきています。
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- 再エネの大量導入に向けて ~「系統制約」問題と対策
「空き容量」の考え方とは
では、系統の「空き容量」とは、現在、どのような考え方のもとに算出されているのでしょうか?発電は、何十年にもわたり電気をつくり続けるビジネスです。このため、新規に発電を始めようとする人が、何十年にもわたって、確実に電気を送ることができるかどうかを評価する必要があります。この前提のもと、以下のような考え方で評価をおこなっています。
①送電線の1本が切れても、ほかでカバーできるか?
電力系統は、電気の性質上、需要=電力利用量と供給=発電量のバランスをとりながら運用されなくてはなりません。このバランスがくずれると、停電が引き起こされてしまいます。
もし、いつも100万kWの電力を流している送電線が、落雷事故などで切れてしまうことにより電力を流せなくなってしまうとどうなるでしょう。100万kWの電力が流れることを前提にバランスをとっていた系統は、急にその流れが止まることで、全体の需給バランスをくずしてしまい、停電につながってしまいます。
そこで、電力系統には、たとえ1本の送電線が故障した場合でも、電気をほかの送電線に流してカバーできるようにすることで、停電を防ぐしくみになっています。これは「N-1(エヌ マイナス イチ)基準」とよばれる考え方に基づくもので、日本だけでなく、欧米など国際的にも広く採用されているものです。
そのためには、送電線の容量に、ある程度の空きが残されている必要があります。たとえば送電線が単純な2回線であれば、原則的には1回線分の容量である「50%」という利用率が、平常時に電気を流すことができる最大の容量となるのです。
送電線のイメージ(単純な2回線の場合)
②発電量が最大になっても大丈夫か?
発電所が発電する量には波があります。特に、季節や天候や時間帯などに発電量が大きく左右される再エネを使った発電では、その波が激しく変動します。
電力系統には、さまざまな種類の電源がつながっていますので、それらのすべてが最大量の発電をおこなった瞬間でも、問題が生じないようにしておくことが必要です。このため、送電線の容量は、送電線を流れる電気がピークとなった瞬間でも確実に流せる空き容量があるかどうかを評価しています。
もし、送電線を流れる電気の量を、「平均値」で評価してしまうと、平均よりも多く電気が流れる時には、送電線の運用容量をオーバーしてしまい、落雷時などに停電になるおそれが高まるため、適切ではありません。
送電線のイメージ(単純な2回線の場合)
③接続契約をした発電所が発電を始めても、空きはあるか?
発電事業者が新たに発電ビジネスを始める場合には、土地を確保するための手続などとあわせて、発電所でつくった電気を系統に流すために、系統への「接続契約」を申し込みます。接続契約は、公平性や透明性を保つため、すべての電源に共通で、申し込んだ順に系統の容量を確保するという「先着優先」の考え方がとられています。
もし、すでに接続を申し込んで容量を確保していた事業者Aがまだ発電を始めていない状況であるにも関わらず、実際に今、系統を流れている電気の量が少ないからといって、後から接続を申し込んだ事業者Bに接続をOKしてしまうとどうなるでしょう。Aが発電所を運転した段階で、空き容量が不足することとなり、Bは電気を系統に流せないことになります。これでは、Bの発電事業は将来の見込みを立てづらいものになってしまいます。
発電ビジネスは、数十年にわたる長期のビジネスになります。このため、この先稼動する予定のある発電所が運転した場合でも、確実に電気が流せる空き容量があるかどうかを評価しています。これは、電源の種類が何であれ、共通の考え方で運用されています。
「空き容量ゼロ」って本当?
たとえば北東北の利用率を見てみると…
こうした観点から日本の電力系統を評価すると、各地の電力系統の中には、現在、「空き容量ゼロ」の場所があります。
利用率だけを見れば、まだまだ空きがあるように見えるかもしれません。たとえば次の図は北東北の電力系統ですが、ピーク時の利用率は42.8%となっている送電線もあります。しかし、①~③の観点で考えてみれば、この数字は、利用できる容量いっぱいに近いものであることがわかります。
北東北の電力系統の利用率
また、すべての送電線で、50%まで利用できるのかというと、そうではありません。
現在、東北地方の北部では、複数の送電線がループ状に接続されており、全体として、北から南方向に電力が流れている状況ですが、その途中のどこかの送電線で空き容量がゼロとなってしまうと、その箇所がボトルネックとなってしまいます。
もし、ボトルネック以外の場所では空き容量があったとしても、その場所に新たな電源を接続することにより、ループ状の送電網を通じて、ボトルネックの箇所にも自然に電気が流れこんでしまいます。
電力の特性上、1カ所だけ運用容量をオーバーした場合にも、ループとなっている送電網全体に影響が及ぶため、この地域全体の空き容量をゼロと評価せざるを得ないのです。この問題を解決するためには、ボトルネックとなっている箇所の送電線の増強といった対策が必要となります。
海外と比較してみると…
では、海外ではどうでしょうか。送電線の利用状況について、あまり公開情報はありませんが、ドイツ東部の「50Hertz」という送配電会社は、1時間ごとの利用率を公開しています。これによれば、今年の春(2017年4月30日15時ごろ)に再エネの発電量がピークとなった時でもほとんどの送電線が50%以下という利用率になっています。
欧州(ドイツ東部)の系統利用率
欧州(ドイツ東部)における系統の利用状況。2017年4月30日15時頃に、ドイツ国内の電力消費量に占める再エネ発電量の割合が100%になった時点の系統の利用率。ほとんどの系統が「利用率50%以下」であることがわかる。
- 詳しく知りたい
- ドイツ 「50Hertz」Webサイト (ドイツ語)
- ※右側にあるボタンで「2017年4月30日15時」を指定すると、その時の利用率がわかる
加えて、周辺7カ国と接続しているドイツに代表されるように、迂回路が多い「メッシュ型」系統のヨーロッパと違って、日本の系統は、迂回路が少ない「くし型」であるという特徴もあるため、1カ所の送電線に電気が集中し混雑すると、広範囲の系統に影響しがちです。いわば、迂回ルートの多い首都高速道路と、迂回ルートの少ない中央自動車道のような関係にあります。
送電線を増強する場合には
空き容量ゼロの系統もある中で、再エネ電力をもっと導入していくためには、系統の増強や新設が必要となります。
この系統増強にかかる費用については、電源の場所や規模によって、その額が大きく変わってきますが、工事費を複数の事業者で共同負担することで、個々の事業者にかかる負担を軽くするためのしくみが設けられています。
また、工事費の標準的な単価(電線1km当たりの費用など)は、電力広域的運営推進機関のホームページで公表されています。もし、事業者が、その単価と比較して工事費が高額であると感じた場合などには、電力広域的運営推進機関に対して、工事費の妥当性の検証を求めることができるしくみも設けられているなど、透明性の確保に向けた取り組みがすすめられています。
送電線の「すきま」を上手に活用! 「コネクト&マネージ」
このような形で、必要な系統増強は進めつつも、現在の電力系統を最大限に活用するさまざまな方法が検討されています。そのひとつが、「コネクト&マネージ」と呼ばれる、イギリスやアイルランドなどで導入されている制度です。緊急時用に空けていた容量や、容量を確保している電源が発電していない時間などの「すきま」をうまく活用して、よりたくさんの電気を流せるようにしようというものです。
2017年12月18日、再エネをコスト競争力のある主力電源にし、大量導入を持続可能なものにするための政策について検討をおこなう「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」第1回が開催されました。「日本版コネクト&マネージ」は、この小委員会の論点のひとつとして、今後検討が進められていく予定です。
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