温暖化への関心の高まりで、ますます期待が高まる「二国間クレジット制度」

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地球温暖化対策のひとつとして始まった「二国間クレジット制度(JCM)」は、途上国を中心としたパートナー国へすぐれた環境技術を広げることで、地球全体のCO2削減目標に貢献し、さらに日本のCO2削減目標にも役立てることのできる制度です。「『二国間クレジット制度』は日本にも途上国にも地球にもうれしい温暖化対策」でご紹介したこの制度、「脱炭素」への動きが加速している近年、さらに活用が期待されるようになってきました。JCMの現状や、これからの可能性を解説します。

日本の技術で世界全体のCO2削減に貢献する「JCM」

JCMは、すぐれた脱炭素技術などをパートナー国展開することで、地球規模でCO2の削減に貢献するとともに、日本の貢献を定量的に評価することで、日本のCO2削減目標の達成にも活用するしくみです。日本企業がパートナー国の現地企業などと協力してプロジェクトを実施し、そこで削減・吸収されたCO2など温室効果ガス(GHG)を「クレジット」として取得し、日本の温室効果ガス削減目標の達成に活用することができます。

JCMの実施スキーム
日本とJCMパートナー国、合同委員会(第三者機関)の関係を示した図でJCMの実施スキームをあらわしています。

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政府は「2030年度までに、温室効果ガスの排出を2013年度に比べて46%削減する」という目標をかかげていますが、その実現に向けた取り組みのひとつがJCMの活用強化です。たとえば、JCMを活用した温室効果ガスの削減量・吸収量について、2030年度までの累計で1億トン程度を目標としています。この目標値は、2020年末時点の削減見込み量の5倍以上にあたり、官民合わせた事業規模は最大で1兆円程度になると見込まれています。

こうした動きの背景には、世界的な環境問題や地球温暖化への関心の高まりがあります。JCMは温暖化対策に貢献できるだけでなく、民間企業における温室効果ガス排出削減および自主目標達成にも活用でき、また、海外市場の獲得につながる可能性もあることから、政府だけでなく、民間企業の中でもJCMの積極的な活用への関心が高まりつつあります。

17のパートナー国で進むJCMプロジェクト

日本は2011年から途上国とJCMに関する協議を始め、現在までに17ヵ国とパートナー関係を築いています。すでに多くのプロジェクトが実施され、終了してクレジットが発行されたものもあります。ここでは、経済産業省が実施しているプロジェクトのうち、現在進行している、タイにおけるプロジェクトについて紹介しましょう。

経産省が実施するJCMプロジェクトの一覧
経産省が実施するJCMプロジェクト、6か国11件を世界地図上へ記載しています。6か国はモンゴル、ケニア、タイ、ラオス、ベトナム、インドネシアとなっています。

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ICTを使った送電系統の最適制御
制御の様子の写真

Courtesy by EGAT

タイの電力需要における課題が、送電系統における電力の損失、いわゆる「送電ロス」です。

火力発電中心のタイでは、再生可能エネルギーの導入が求められていますが、複数の電源(電気をつくる方法)でつくられた電力を安定的に供給するためには、送電設備の増強や送電系統の電圧を最適化するしくみが必要です。

NEDOとタイのエネルギー省は、送電ロスの抑制と安定的な電力供給の両立のために、電力系統の低炭素化(CO2排出量をおさえること)・高度化を目的とした実証事業に合意。「ICTを活⽤した送電系統の最適制御(OPENVQ)による低炭素化・⾼度化事業」として、日立製作所とタイ発電公社がタイ東北部で実施中です。

この事業で実証されているシステムは、送電系統制御システムから電力に関するデータを取り込み、発電計画や気象予測といった外部情報と組み合わせることで、将来の電力系統の状況や需給バランスを予測します。これをもとに、最適な電力系統の運用をオンラインでおこなうことで、CO2削減への貢献を目指します。

世界で活発化するさまざまなクレジットの取引

クレジット制度はJCM以外にもさまざまな種類があります。多くはJCMのように政府が主導するものですが、最近、世界で増えているのが「ボランタリークレジット」と呼ばれる、非政府機関によって運営されるクレジット制度です。

ボランタリークレジットは、主に民間企業による自社のCO2削減目標の達成に利用されており、その取引量は増加傾向にあります。企業における温暖化対策への関心の高まりが影響していると考えられます。政府主導のクレジット制度にくらべると、まだまだボランタリークレジットの市場規模は大きくありませんが、今後も発行量は増えていくと予想されます。

ボランタリークレジットの取引動向
ボランタリークレジットの取引傾向を、2009年から2020年までの発行、無効化、取引価格のグラフで示しています。

(出典) Ecosystem Marketplace; プレスサーチ; VCS, GS, CAR, ACR, PlanVivo市場レジストリ等より経産省作成

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JCMをさらに拡大し国際標準に

今後、JCMをさらに活用していくためには、いくつかの課題をクリアしていく必要があります。

第一に重要なのは、認知度の向上です。パリ協定の第6条には、海外で実現した排出削減・吸収量を各国の削減目標の達成に活用できる「市場メカニズム」がうたわれていますが、その先駆例ともいえるのが日本のJCMです。市場メカニズムの認知度の向上を図り、実施プロジェクトから得られた経験やデータを生かすことで、削減のカウント方法などの国際的なルールの形成や、今後の市場メカニズムの活用に貢献できる可能性があります。

第二に、パートナー国をさらに拡大していく必要があります。現在の17ヵ国に加えて、継続的に温室効果ガスの排出削減プロジェクトが組める国・地域と関係を構築していかなければなりません。

第三に、プロジェクトの大規模化や資金源の多様化です。今後は費用対効果も考慮し、より多くの排出削減量が見込める大規模プロジェクトを推進していく計画です。具体的には大規模な再生可能エネルギー、水素、CO2を分離・貯留するCCS(「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる『CCUS』」参照)などの事業が考えられます。また、公的機関を含めた資金源の多様化も、プロジェクトの拡大には重要です。

第四に、民間資金によるプロジェクトを推進する体制づくりです。政府によるCO2排出削減目標の達成のみならず、今後の増加が見込まれる民間企業によるクレジット需要に対応するには、制度の柔軟性を高めていく必要があります。この観点から、現在の政府予算にもとづくプロジェクトに加え、民間資金を中心としたプロジェクトの組成の促進が重要になります。そのようなプロジェクトを組成するにあたっての課題を整理し、必要なルール整備を進める必要があります。

気候変動問題はグローバルな課題であり、さまざまな国が連携しなくては解決できません。JCMなどのクレジット制度が広がることで、各国と協力し、低炭素・脱炭素技術や、温室効果ガスを吸収する取り組みが広がることが期待されます。

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