【インタビュー】「カーボンニュートラルなバイオマスのエネルギー利用」—牛久保 明邦氏(前編)

牛久保 明邦氏

資源の有効活用や循環型社会の形成に有効だと考えられる「バイオマス」の利活用。エネルギーとしての利用にも注目が集まっており、各地でさまざまな取り組みも広がりつつあります。バイオマス利活用の拡大に取り組む日本有機資源協会会長の牛久保明邦氏にお話をうかがいました。前後編の2回に分けてインタビューをお届けします。

さまざまな生物資源を有効活用するバイオマス

—「バイオマス」という言葉自体はかなり広まっていますが、バイオマスとはいったいどのような利活用ができるものなのか、具体的にはまだ知られていないように思います。まずはそこから解説いただけますか?

牛久保 「バイオマス」というと、木質系の残材や食品残さ(廃棄物)のことを思い浮かべる人が一般的でしょう。しかし、それだけではありません。「バイオマス」とは本来、生物資源(Bio)の量(Mass)を示す概念。そこから転じて、生物由来の有機的な資源のうち、化石資源を除いたものを指します。木や果物のような植物だけが「バイオマス」ではなく、それを食べる動物も「バイオマス」です。陸上だけでなく海の生物、植物プランクトンや海藻、またそれらを食べる魚などもそうです。つまり、地球上の生命体すべてがバイオマスなのです。

資源として活用されるバイオマスは、「廃棄物系バイオマス」と「未利用系バイオマス」、「資源作物」に大きく分けられます。

「廃棄物系バイオマス」とは、家畜の排泄物や製材工場などの残材、あるいは下水の汚泥などを指します。最近、いかに削減を図っていくかが深刻な問題となっている食品廃棄物も廃棄物系バイオマスの代表的なものです。廃棄物であっても、まったく付加価値がないわけではないと捉え、その価値を有効活用しようというのがバイオマス利用の基本的な考え方になります。

一方、「未利用系バイオマス」とは、稲や藁(わら)など農作物の非食用部や、林地残材など今まで利活用されていなかったものを資源として活用するカテゴリーです。

最後に「資源作物」とは、廃棄物や未利用の部分を活用するのではなく、最初からバイオマスとしての利用を目的として、栽培や培養をおこなうものです。代表的なものでは、ミドリムシのような単細胞でできた小さな生き物「微細藻類」や、ブラジルなどで進んでいるトウモロコシ、サトウキビなどによるバイオエタノールなどが挙げられます。

バイオマスのエネルギー利用

—バイオマスと一口で言ってもさまざまな種類があるのですね。こうした、さまざまなバイオマスは、具体的にどのように利用されるのでしょうか?

牛久保 明邦氏

牛久保 大きく分けると、製品として加工される「マテリアル利用」と「エネルギー利用」があります。

マテリアル利用とは、バイオマスを原材料として利用することです。石油系プラスチックのストローやレジ袋などの代替品として注目されるバイオマス由来の「バイオマスプラスチック」などもその一例です。有機性の廃棄物を加工して、プラスチックや樹脂などの素材として活用します。アミノ酸や「有用化学物質」など化学品の原料としても使われます。

エネルギー利用とは、バイオマスが生み出す電気や熱を活用したり、燃料として利用したりすることです。例としては、間伐材など木質系バイオマスを直接燃焼したり、加熱してガス化利用する場合と、下水汚泥、家畜ふん尿や食品廃棄物を空気を遮断した状態で発酵させて(嫌気性処理)発生するメタンガス(バイオガス)をエネルギーとして、発電タービンを回す力として利用する方法があります。そこから発生する熱も利用されます。一方、バイオマスから、ペレットなどの固体燃料や、バイオディーゼルなどの液体燃料をつくる方法もあります。

たとえば、てんぷら油などの廃油は、「バイオディーゼルフユーエル(Bio Diesel Fuel)」通称「BDF」と呼ばれる、軽油の代替エネルギーとして活用されています。廃油をろ過して加工し、バイオディーゼル車の燃料として利用するのです。京都の市バスや都内百貨店のシャトルバス、ゴミの収集車などで利用されている事例があります。廃油を原料としているので、車の後ろにまわるとてんぷら油の匂いを感じることもあります。バイオマス燃料はなかなか一般の方がイメージしづらい現状がありますが、廃油のような食品廃棄物は身近な例といえるでしょう。

—エネルギーとしてのバイオマスが、「環境に優しい」といわれるのはなぜですか。

牛久保 バイオマス発電では、木質系の原料をそのまま燃やしたり、食品廃棄物や汚泥を発酵させてつくったメタンガスを用いたりするとお話しました。有機物を燃料として燃焼すれば、当然CO2を排出します。しかし、植物は生育の過程でO2を放出してCO2を吸収して光合成をしています。たとえば、バイオマス発電の燃焼時に排出されたCO2を新しい苗が吸収して成長するとの考えから、理論上CO2は実質「差し引きゼロ」となるわけです。こうした考え方を「カーボンニュートラル」といいます。

従来の火力発電で使用されてきた石炭も、元をたどれば植物由来のものではあるのですが、再合成することはできない、いわゆるワンウエイの燃料です。燃焼すれば、CO2が大気中に放出されることになります。しかし木材などになる植物であれば、再び山に苗木を植えることで、資源を再生産・循環することができます。

また、国内バイオマスの利活用を推進していくということは、エネルギーの観点で見ても、燃料輸送の際にかかるエネルギーの軽減につながります。バイオマス資源には、地域ごとに特色がありますが、その特徴を活かすことができれば、エネルギーの地産地消を実現できます。エネルギーの地産池消が実現すれば、地域に新たな産業を興して、雇用を創出し地域を豊かにしていくことにも結びつくでしょう。

このようなバイオマス発電は、再生可能エネルギー(再エネ)のひとつとして、日本のエネルギー政策の指針である「エネルギー基本計画(「新しくなった『エネルギー基本計画』、2050年に向けたエネルギー政策とは?」参照)において、2030年の「エネルギーミックス」の再エネの中では水力、太陽光に続く柱のひとつという位置づけがなされています。

リサイクルを進めることは省エネルギーにもつながる

—エネルギーを含むバイオマスの利活用には、「リサイクル」をどう進めるかということが非常に重要な問題になりそうですね。

牛久保 明邦氏

牛久保 はい。資源を有効に活用する方法としては、リサイクルを含めた「3R」が原則です。3Rとは、廃棄物の発生を低減させる「Reduce(リデュース)」、再び使う「Reuse(リユース)」、廃棄物を循環資源として利用する「Recycle(リサイクル)」のこと。ただし、食品ロス由来の食品廃棄物については、紙や容器包装などと同じように再利用(リユース)することはできません。ですから本来は、食品廃棄物を出さない、または減らすことを目指して(リデュース)、食品を計画的に調達、消費することが重要となります。

とはいえ、食品廃棄物はどうしても生じます。日本で年間に流通する食料は輸入食料を含めて8088万トン(農林水産省、2016年度推計)供給されています。このうち食品製造業、卸売業、小売業、外食産業など事業系から生じる廃棄物の総発生量(1970万トン)から有価物(大豆ミールや、小麦を製粉した時にできるふすまなど)を除いたいわゆる食品廃棄物は772万トンです。一方、一般家庭からの食品廃棄物は789万トン発生しています。これらをどのようにしてバイオマスのようなリサイクルへと回していくかを考える必要があります。

このうち、食品廃棄物など食品循環資源の再生利用などを促進する「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」、通称「食品リサイクル法」が施行されていますが、その食品リサイクルの対象となるのは、事業系の食品廃棄物のみです。リサイクルの方法として、飼料化、肥料化やメタンガスをエネルギーとして発電に利用するなどの利用法があります。

ところが、一般家庭の食品廃棄物は、食品リサイクル法の対象となっていません。事業系のような分別の徹底が難しく、資源として再利用できないものも混在しているなど課題が多いためです。しかし、将来は家庭からの食品廃棄物も食品リサイクル法の対象とすることが検討されているため、バイオマスに利用できる食品廃棄物の量も増えていく可能性があります。

皆さんに考えていただきたいのは、「食料自給率」がカロリーベースで約38%である日本では食料の約6割を海外に依存しており、そのぶん輸送のために膨大なエネルギーが消費されているということです。先進国の中でも、日本はフードマイレージ(食料の輸送距離のこと。食品の重量(t)×原産地からの輸送距離(km)で表わす)がトップクラスといわれます。食品とその3Rの問題は、実はエネルギーとも密接に関連しているのです。食品廃棄物を減らすこと、そしてやむを得ず出た廃棄物についてはバイオマスとして有効活用することは、エネルギーの観点から見ても、極めて重要なことだといえるでしょう。

後編では、日本のバイオマスの現状や課題、利活用拡大への取り組みをご紹介します。

プロフィール
牛久保明邦(うしくぼ あきくに)
日本有機資源協会 会長。1945年長野県生まれ。東京農業大学名誉教授。農学博士。環境科学、土壌学、水質化学が専門。農林水産省「食料・農業・農村政策審議会食品リサイクル小委員会」、「食品ロスの削減に向けた検討会」座長等を歴任。

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