【インタビュー】「JOGMEC自ら探鉱し、日本企業参入の道筋をつけた東シベリア」―横井 研一氏(後編)

横井研一氏

独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の理事、横井研一氏のインタビュー。前編「石油・天然ガス『自主開発比率40%以上』をめざす上流事業の取り組み」に続き、後編ではアブダビと並ぶもう一つの事例として、東シベリアでの自主開発について詳しくうかがいます。

いくつもの参入障壁があった東シベリア

―東シベリアでの自主開発は、どのような経緯で始まったのでしょうか。

横井 日本の隣国のひとつであるロシアは、実はアメリカ、サウジアラビアに並ぶ大産油国で、開発のポテンシャルが高いことはわかっていました。中東への原油依存度が86%を占める日本にとっては、供給源の多角化を図る意味でも、ロシアでの権益拡大をめざしたいところです。しかし、ロシアの油ガス田への日本企業の参入は、これまでは1990年代に契約締結した「サハリン1」および「サハリン2」があるのみでした。

それには理由があります。まず、現地の地質評価に必要な技術情報の入手が難しいこと。またロシアでは技術の評価手法に独自の方法を採用しているなど、“ロシア流”を習熟する必要があります。法制や税制も分かりにくいところがあり、しばしば変更されるという事業環境上のリスクもありました。加えて、たとえば東シベリアでは、冬の最低気温はマイナス50℃を超えるという過酷な気象条件。これらが参入障壁となり、なかなか踏み込めなかったのです。

契機となったのは、2003年の日露首脳会談で採択された「日露行動計画」でした。両国が協力して東シベリアの開発を推進する、という政府の方針が固まったのです。2007年には、両国の企業の協力促進事業が謳われた「極東・東シベリア地域での日露間協力強化に関するイニシアティブ」が日露首脳間で支持され、プロジェクトは正式に動き出しました。

その裏で、JOGMECは来たるべき日に備え、2000年代からロシアの地質調査機関をたびたび訪ね、東シベリア地域の地質についてのデータを入手し、着々と知見を蓄積していました。東シベリアのようなフロンティアエリアに日本企業がいきなり参入するのはリスクが高すぎるため、このようなケースではJOGMECが先行して現地に入り、地質構造調査(探鉱)をおこなって初期データを取るのです。その結果じゅうぶんなポテンシャルがあることが確認できれば、事業を日本企業に継承します。

横井研一氏

共同調査をおこなう現地の事業パートナー探しは難航しましたが、最終的には地場企業のイルクーツク石油(INK)という良いパートナーに出会えました。彼らは2000年創業の若い会社ということもあり、日本という異国の、未知の組織であるJOGMECとの共同調査を前向きに捉えてくれたのです。彼らは日本語が話せる社員を雇い、こちらはロシア語が話せる職員を配置するなど協力体制を整える中で、深い信頼関係が生まれていきました。

日露共同作業のデータ解析が結実し、油ガス田の試掘に成功

―そしてINKとの共同探鉱の結果、油ガス層を発見したわけですね。

INKとの共同探鉱鉱区図
セベロ・モグジンスキー鉱区、ザパドナ・ヤラクチンスキー鉱区、ボルシェチルスキー鉱区を示した地図

(出典)JOGMEC

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横井 そうです。INK-Sever(セベロ・モグジンスキー鉱区)とINK-Zapad(ザパドナ・ヤラクチンスキー鉱区、ボルシェチルスキー鉱区)という2つのプロジェクトでそれぞれ2009年、2010年から試掘井を掘削したところ、双方から油ガス層が見つかりました。我々石油開発に携わる者は、どこに井戸を掘るか議論することは楽しいものです。イルクーツクでのINK、JOGMEC両者交えての度重なる議論では、双方の意見がしばしば対立し、白熱することもありましたが、最終的に合意できる点を見つけ事業を進めました。その結果、油ガスを見つけたのですから大きな喜びでした。

特にINK-Zapadでは6坑掘削し油ガス田が見つかり有望だとわかったため、2012年に日本企業への譲渡を目的に入札を実施し、2013年に事業を伊藤忠商事とINPEXに継承しました。JOGMECはその後出資の形で支援を続け、商業ベースに乗るだけの埋蔵量を確認し2016年に生産段階に移行。現在は、東シベリア―太平洋パイプラインを通じてアジア市場に輸出されています。JOGMECが自ら探鉱を開始したプロジェクトが、日本企業の自主開発油田となり生産・供給まで実現されていることは、感慨深いものがあります。

東シベリアの石油は中東から運ぶのとは違い、輸送距離の短い隣国から運べるメリットは、安全保障の観点からも大きいです。

残念ながらINK-Severは、じゅうぶんな埋蔵量が確認できなかったため日本企業に継承することなくプロジェクトが終了しています。しかし、この2つのプロジェクトを通して構築できた信頼関係をベースに、2017年、INKと東シベリアの新たな5鉱区を対象とした共同探鉱事業をスタートさせました。2019年夏に最初の試掘井を掘削する計画で、こちらに期待をかけているところです。

―ちなみに試掘成功率はどのくらいなのでしょう?

横井 世界平均で3割から4割くらいでしょうか。商業量が確保できる油ガス田になるとさらに確率は低くなり、せいぜい1割から2割ではないでしょうか。東シベリアの場合、民間企業にとってリスクが高く参入ができないフロンティアでの地質構造調査でしたので、油ガス田の発見は容易ではないと思っていました。それだけにINK-Zapadでの成功は、喜びもひとしおなのです。

横井研一氏

―最後にうかがいます。政府は今後、再生可能エネルギーなどの強化によって国内エネルギー自給率を高めることを目標に掲げています。これによって石油・天然ガスの上流開発の位置づけは変わっていくのでしょうか?

横井 長期的には再生可能エネルギーの割合を増やし、化石燃料を減らす方針が示されていますが、短期間のうちに急激な変化が起きるわけではありません。国内の一次エネルギーの割合を2017年度の実績と2030年度の需要見通しとで比べた場合、再生可能エネルギーは11%から13~14%へ、石油は39%から30%、天然ガス23%から18%、石炭は変わらず25%となっています。この数字の推移からみて、2040年頃までは化石燃料が中心的な役割を果たすことに変わりはありません。ですから、海外からの資源を安定的に確保するJOGMECの上流での取り組みは依然として重要だと考えています。

プロフィール
横井研一(よこい けんいち)
独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 理事、石油天然ガス開発推進本部長。1983年、独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構の前身である石油公団に入団。海外地質構造調査やメタンハイドレート研究プロジェクトでチームリーダーを務めた後、2009年10月から東シベリアチームリーダーとして東シベリアでの石油開発プロジェクトを牽引。その後、事業推進部担当審議役、探査部長、技術部長、石油開発推進本部特命審議役を経て、2018年3月、理事に就任。

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