2050年カーボンニュートラルを目指す 日本の新たな「エネルギー基本計画」
「エネルギー基本計画」とは、エネルギー政策の基本的な方向性を示すために政府が策定するものです。内外のエネルギー情勢を鑑みて、少なくとも3年ごとに検討を加え、必要に応じて見直されます。2021年10月22日、「第6次エネルギー基本計画」が発表されました。2018年の第5次計画策定時(「新しくなった『エネルギー基本計画』、2050年に向けたエネルギー政策とは?」参照)から大きく変化したエネルギー情勢や、それをめぐる課題をふまえ、どのような方針が示されたのかを解説します。
第6次エネルギー基本計画のテーマ
第6次エネルギー基本計画の大きなテーマは2つあります。ひとつは、世界的に取り組みが加速している気候変動問題への対応です。2020年10月に表明された「2050年カーボンニュートラル」(「『カーボンニュートラル』って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?」参照)と、2021年4月に表明された「2030年度の温室効果ガス排出46%削減(2013年度比)、さらに50%削減の高みを目指す」という野心的な削減目標の実現に向けて、エネルギー政策の道筋を示したものとなっています。
もうひとつは、日本のエネルギー需給構造が抱える課題の克服についてです。気候変動対策を進めながらも「S+3E(安全性+エネルギーの安定供給、経済効率性の向上、環境への適合)」という基本方針を前提にした取り組みが示されています。
エネルギー基本計画は、この2つのテーマを軸に、以下の3パートから構成されています。
1.東京電力福島第一原子力発電所の事故後10年の歩み
10年前に起こった事故の経験、その反省と教訓を肝に銘じて取り組むことは、日本のエネルギー政策の原点です。まずは特定復興再生拠点区域の避難指示解除に向けて環境整備を進め、特定復興再生拠点区域外についても、2020年代をかけて、帰還意向のある住民が帰還できるよう、避難指示解除の取り組みを進めます。(「あれから10年、2021年の福島の『今』(前編)」参照)また、「福島新エネ社会構想」に基づき、再生可能エネルギー(再エネ)の最大限導入や、水素の社会実装に向けた取り組みを加速し、エネルギー分野からの福島復興の後押しを一層強化していきます。
東京電力福島第一原子力発電所の廃炉についても、国が前面に立って、2041~2051年までの廃止措置完了を目指します。今回のエネルギー基本計画で新しくかかげられたのは、2021年4月に方針が決定された、ALPS処理水の処分方法についてです。風評対策を徹底し、原子力規制委員会の認可を得て、約2年後をめどに海洋放出をおこなう方針です(「『復興と廃炉』に向けて進む、処理水の安全・安心な処分~ALPS処理水の海洋放出と風評影響への対応」参照)。
2.2050年カーボンニュートラル実現に向けた課題と対応
「2050年カーボンニュートラル」の実現には、温室効果ガス排出の8割以上を占めるエネルギー分野の取り組みが重要です。この高い目標の実現に向けては、産業界、消費者、政府など国民各層が総力を挙げて取り組むことが必要です。
まず、電力部門では、再エネや原子力などの実用段階にある脱炭素技術を活用し着実に脱炭素化を進めるとともに、水素・アンモニアを使った発電(「アンモニアが“燃料”になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先」参照)や「CCUS」(「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる『CCUS』」参照)、「カーボンリサイクル」(「CO2削減の夢の技術!進む『カーボンリサイクル』の開発・実装」参照)などを前提とした火力発電などのイノベーションを追求し、脱炭素化をはかっていきます。
非電力部門は、脱炭素化された電力による電化を進め、高温の熱が必要な産業など電化が難しい部門については、水素や合成燃料(「エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料『合成燃料』とは」参照)などを活用して脱炭素化をはかります。
とくに産業部門では、製造プロセスそのものを抜本的に変えなければ、対応がむずかしい分野もあります。たとえば、産業部門のCO2排出量で多くの割合を占める「鉄鋼業」では、「水素還元製鉄」といったイノベーションを追求していくことが不可欠です(「水素を活用した製鉄技術、今どこまで進んでる?」参照)。
一方、カーボンニュートラルを目指す中にあっても、安全の確保を大前提に、安定的で安価なエネルギー供給を確保することは重要であり続けます。こうした観点から、再エネ、原子力、水素、CCUS/カーボンリサイクルなどあらゆる選択肢を追求していきます。
3. 2050年を見据えた2030年に向けた政策対応
2050年を見据え、2030年に向けた具体的な政策対応のポイントも定められています。2030年まではすでに10年を切っているため、今ある技術を最大限活用することが求められます。
2030年に向けた、主なエネルギーの対応策は以下の通りですが、どれも「S+3E」を実現すべく、最大限の取り組みをおこなうことが求められています。
① 再生可能エネルギー(再エネ)
S+3Eを大前提に、主力電源化を徹底し、最優先の原則で取り組み、国民負担の抑制と地域との共生を図りながら最大限の導入をうながします。まだコストが高いので、FIT・FIP制度での入札制度の活用、再エネの市場への統合などをはかって国民負担を抑制します。また、地元理解の促進、適正な事業実施の確保、安全対策を強化し、地域との共生をはかります。
② 原子力発電
いかなる事情よりも安全性をすべてに優先させ、国民の懸念の解消に全力を挙げることを前提の下、原子力規制委員会により新規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し、原子力発電所の再稼働を進めます。その際、国も前面に立ち、立地自治体など関係者の理解と協力を得るように取り組みます。
③ 火力発電
現在7割以上の電力をまかなう火力発電は、重要な供給力であるとともに、太陽光や風力の出力変動に対応し需給バランスの調整をおこなったり、災害などで発電設備が送電系統から切り離されること(電源脱落)による周波数の急減を緩和しブラックアウトの可能性を低減するなどの機能によって、電力の安定供給に貢献しています。一方、野心的な削減目標の実現に向けて、安定供給を大前提に、できる限り電源構成に占める比率を引き下げます。また、次世代化・高効率化を推進しつつ、非効率な火力発電のフェードアウトに取り組み、アンモニアや水素など脱炭素燃料への置き換え、CCUS/カーボンリサイクルなどのCO2排出削減対策を促進します。
- 詳しく知りたい
- 非効率石炭火力発電をどうする?フェードアウトへ向けた取り組み
④ 水素・アンモニア
カーボンニュートラルの実現に向け、水素・アンモニアを新たな資源として位置づけ、社会実装を加速していきます。このため、⻑期的・安定的かつ⼤量に供給するサプライチェーンをつくり上げるとともに、利用も拡⼤し、普及に取り組みます。
ほかにも、容量市場の着実な運用、「包括的な資源外交」の展開、燃料供給体制の強靭化などもかかげられています。
また、需要サイド、つまり私たち国民一人ひとりの省エネへの取り組みも重要なものとして示されています。省エネ技術の開発や導入支援の強化、2030年度以降に新築される住宅や建築物の省エネ性能引き上げ、電動車の推進やAIを活用した高効率な貨物輸送システムの構築などを目指します。取り組みを加速するため、「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)」の改正を進めることも検討されています。
エネルギー基本計画見直しで、「2030年度におけるエネルギー需給の見通し」も見直し
2030年度の新たな削減目標をふまえ、徹底した省エネや非化石エネルギーの拡大を進める上で、需給両面におけるさまざまな課題の克服を野心的に想定した場合、どのようなエネルギー需給の見通しとなるのかも示されました。
大前提として、安定供給に支障が出ないよう、施策の強度や実施のタイミングなどを考慮する必要があります。たとえば、再エネなどの非化石電源が十分に導入される前の段階で、ただちに化石電源を抑制すれば、安定供給に支障が生じかねないことから、じゅうぶんな配慮が必要です。
2030年度におけるエネルギー需給の見通し(エネルギーミックス)は以下の図の通りです。
電源構成
2030年度の発電電力量・電源構成
新たなエネルギーミックスのポイントは以下の通りです。
2030年度の新たな削減目標はこれまでの目標を7割以上引き上げるもので、その実現は容易なものではありませんが、エネルギーミックスの実現に向けて、あらゆる政策を総動員し、全力で取り組みます。
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この第6次エネルギー基本計画で定められた取り組みについては、今後のスペシャルコンテンツで詳しく解説していく予定です。
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