もっと知りたい!エネルギー基本計画⑥ 安定供給を前提に、脱炭素化を進める火力発電

常陸那珂火力発電所の風景

常陸那珂火力発電所

日本のエネルギー政策の基本的な方向性を示す「第6次エネルギー基本計画」が2021年10月22日に策定されました(「2050年カーボンニュートラルを目指す 日本の新たな『エネルギー基本計画』」参照)。計画には、「2050年カーボンニュートラル」実現に向けた課題と対応、日本のエネルギー需給構造が抱える課題の克服などを中心に、さまざまな方針が盛り込まれています。その内容について詳しくご紹介するシリーズの6回目は、安定供給を守りながら、CO2排出削減をどのように進めるのか、火力発電の今後の方針についてご紹介します。

石炭火力の比率を大幅に削減することを明記

長きにわたり、日本の産業や生活を支える電力供給源として稼働してきた火力発電。電力の安定供給や、災害時などにおける電力レジリエンスを支えてきました。近年の再生可能エネルギー(再エネ)の導入拡大にあたっても、自然条件に左右される太陽光や風力発電の出力(発電量)の変動をおぎない、電力の需給バランスを調整する重要な役割をはたしています。

その一方で、火力発電はとくに石炭火力を中心に、CO2を排出するという課題があり、「2050年カーボンニュートラル」に向けては、火力発電からのCO2排出を実質ゼロにしていくという脱炭素化の取り組みが求められています。

そこで、第6次エネルギー基本計画では、電力をつくる方法つまり「電源」の構成(エネルギーミックス)のうち、現在約32%を占める石炭火力の割合を、2030年度には19%程度にまで減少させることが明記されました。これは、2015年策定の「長期エネルギー需給見通し」で示された26%よりも、さらに高い数値目標であり、今後よりいっそうの取り組みが必要とされます。

現在の電源構成の状況と、現行ミックスと新ミックスの関係
2019年度現在の電源構成の状況と、2015年に策定した2030年度のエネルギーミックス、さらに第6次エネルギー基本計画で示された2030年度の新エネルギーミックスを比較し、グラフに表しています。

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この目標を実現させるための道筋をどのように描くのか、今後の方向性について、詳しく見ていきましょう。

どのように火力発電の発電量を抑制していくのか?

日本のエネルギー政策は「S+3E」、つまり安全性(Safety)を大前提に、自給率を高め安定供給体制を確保し(安定供給=Energy security)、コストを抑え(経済効率=Economic Efficiency)、CO2を減少させる(環境適合=Environment)ことを追及しています。2050年カーボンニュートラルの実現に向けては、

① 石炭などの「化石燃料」を使用する火力発電を低減し、CO2を排出しない再エネの最大限の導入や安全性の確保を大前提とした原子力発電の再稼働
② 火力発電で排出されるCO2を実質ゼロにする脱炭素型火力への置き換え
(排出されたCO2を分離・回収して地下へ貯留または再利用するCCUS/カーボンリサイクルを活用したり、アンモニアや水素など燃焼時にCO2を排出しない燃料の活用)

といったことが必要です。

とはいえ、急激に火力発電をなくすことは現実的ではありません。なぜなら、火力発電には現時点で電源構成の7割以上を占める「供給力」があるとともに、再エネや原子力発電などでは補えない「調整力」という機能があります。アンモニアや水素を活用する技術については、今後の実用化を目指しながらも、それだけで必要な電力を供給することは難しい段階にあり、すぐに急激な火力発電の抑制策を講じることになれば、電力の安定供給に支障が出るおそれがあるためです。

火力発電を段階的に抑制するにあたっては、火力発電の燃料について、バランスよくポートフォリオを組んでいく必要があります。現在、火力発電の燃料には、石油、石炭、天然ガスが使われており、そのなかでは天然ガスがもっともCO2排出量が少ないのですが、天然ガスだけにしぼると、また別の問題が出てきます。実際に、ウクライナ危機をめぐる国際情勢においては、天然ガス輸入の大部分を1つの供給国に依存するリスクがあきらかになっています。そこで、資源のとぼしい日本国においては、燃料それぞれの特徴を考えながら、どの燃料をどれくらいの割合で使用するのか、バランスよくポートフォリオを組んでいくことが非常に重要となります。

燃料の特徴
火力発電の燃料について、石炭、石油、天然ガスそれぞれの特徴を、発電コストやCO2排出量など4つの面で比較して表にまとめています。

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では、そのポートフォリオで考えるべきポイントを、燃料別に見ていきましょう。

石油

石油火力については休廃止が進んでいます。現在の電源構成に占める比率も7%程度にとどまります。一方、夏季や冬季の電力の高需要期には活用されています。

石炭

保存も調達も容易という利点を持つ石炭ですが、ほかの燃料と比較してもっともCO2を排出し、環境面に課題があるため、削減を進めていくことが必要です。これまでも第5次エネルギー基本計画で明記されていたとおり、引き続き非効率な石炭火力発電については、フェードアウトが進行中です(「非効率石炭火力発電をどうする?フェードアウトへ向けた取り組み」参照)。

ただし、石炭火力の削減にあたっては、製造業など日本の主力産業への影響も考えねばなりません。たとえば、製鉄、化学、セメント、紙などの業界では、石炭火力が熱源として製造工程で利用されています。今後、石炭を減らしていく過程では、こうした製造業における影響にも考慮しながら進めていくことが大切です。

石炭火力の更なる引き下げの方向性
大手電力会社の高効率発電、非効率発電、製造業等のそれぞれにおいて、2019年度から2030年度まで石炭火力をどの程度削減していくのかという方向性をグラフで示しています。

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LNG(液化天然ガス)

脱炭素化に向けて石油や石炭などを削減していくなかで、今後は、CO2の排出量が石炭の約半分程度ですむ天然ガス(LNG=液化天然ガス)の割合が高まる可能性があります。

しかし、LNGに頼りすぎると、あらたな問題も生じます。LNGは保存がきかず、在庫を貯蔵するには冷却設備が必要です。また、欧米ではガスがパイプラインを通じて気体のまま流通しているため経済的なのですが、日本ではガスをマイナス162℃以下で液化して輸送する必要があるため、そのコストが追加で発生しています。

天然ガスのコスト比較
米国と日本で、天然ガスのコストがどの程度違うのかをグラフで表しています。日本は米国よりコストがかかっています。

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これに加え、近年では中国やインドとの獲得競争が激しくなっており、必要量を確保できないリスクや、価格上昇リスクもあります。つまり、LNGへの過度な依存は、エネルギーの安定供給や経済性を悪化させる可能性があるのです。

日中印のLNG輸入量推移
日本、中国、インドにおける2010年~2030年までのLNGの輸入量の推移を折れ線グラフで示しています。

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こうした事情をふまえて、特定の燃料にかたよることなく、3Eのバランスを考えながら、適切なポートフォリオを組むことが重要です。

燃料の脱炭素化など、新たな火力発電方法の開発も視野に

火力発電の今後の基本方針は、安定供給を前提に、火力発電の発電比率をできるかぎり下げていくことです。その中で、2030年のエネルギーミックスにおける「石炭比率19%」を実現することはとても高いハードルですが、適切な火力ポートフォリオを維持しつつ、非効率石炭火力のフェードアウトを進めていきます。

さらに2050年カーボンニュートラル実現という目標に向けては、イノベーションによって、従来の化石火力が果たしてきた機能を脱炭素型電源に置き換えていくことが必要です。たとえば、燃焼時にCO2を排出しないアンモニアや水素などの燃料を使用して発電する方法に転換したり、CCUS/カーボンリサイクルを活用するなどの取り組みを進めます。

火力の脱炭素化に向けたイメージ
火力発電の脱炭素化に向けて、燃料の削減やイノベーションなどをどのように進めるのかというイメージを図で表しています。

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今後もこうした取り組みを進めつつ、化石火力の削減、そして電源構成に占める火力発電の比率をできるかぎり引き下げることを目指していきます。

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次回は、安全性を大前提として安定的な利用をはかる原子力発電について、詳しくご紹介します。

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