成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(後編)動きだす産官学パートナーシップ
SAFの導入拡大をめざして、官民で取り組む開発と制度づくり
なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?~2030年度のエネルギーミックスとCO2削減を達成するための取り組み
成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(前編)どんな課題を解決するの?
AZEC首脳会合での集合写真(出典)内閣広報室
脱炭素化、経済成長、エネルギー安全保障を同時に実現することは世界全体の課題となっています。特にアジア各国は、経済成長にともない今後もエネルギーの需要が増加する中で、この課題解決は困難です。そこで、各国の取り組みを支援し、協力するための枠組みとして、日本は2022年、「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想」を提唱しました。2023年3月にパートナー国の閣僚と共に第1回閣僚会合が開催されAZECが協力枠組みとして立ち上げられたのち、2023年12月には首脳会合が開催されました。急速な経済成長と安定的なエネルギー供給のバランスを取りながら、東南アジア諸国はどのように脱炭素化を進めていくのでしょうか。AZEC首脳会合で示されたその道筋と日本の協力の内容について、2回に分けてご紹介します。
経済成長が著しい東南アジアでは、それにともないエネルギー需要も増加していますが、その多くを化石燃料に依存しています。一方で、多くの国では2050年から2065年までのカーボンニュートラル実現を表明しており、脱炭素化に向けた取り組みも進めていかねばなりません(「東南アジアのエネルギー事情」参照)。そうしたなかで、2022年1月、日本は「アジア各国が脱炭素化を進めるという理念を共有し、エネルギートランジション(移行)を進めるために協力する」ことを目的に、「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想」を提唱しました。翌年の2023年3月には、インドネシア、タイ、ベトナム、フィリピンなどの東南アジア各国とオーストラリアなど11の国による閣僚会合が、さらに12月には首脳会合が開催され、共同声明を発出しました。AZECの枠組みのもと、互いに協力することで合意しました。
AZEC構想パートナー国
オーストラリア連邦、ブルネイ・ダルサラーム国、カンボジア王国、インドネシア共和国、日本、ラオス人民民主共和国、マレーシア、フィリピン共和国、シンガポール共和国、タイ王国、ベトナム社会主義共和国(アルファベット順)
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東南アジアには日系企業が多く進出しており、その経済成長を支えることは、日本にとっても非常に重要です。日本が持つさまざまな脱炭素技術を活用して、エネルギートランジション(移行)に協力することで、アジアのみならず世界に貢献することを目指しています。
では、具体的にどのような協力が考えられているのでしょうか。2023年12月におこなわれた首脳会合で採択された「AZEC首脳共同声明」では、大きく以下の3つのポイントで合意に至りました。① 脱炭素に向けた「基本原則」1.経済成長が著しいアジア各国において、その経済成長を妨げないようにしつつ、低廉なエネルギーを安定的に供給するというエネルギー安全保障を実現し、同時に脱炭素化を目指すことを確認しました。2.国によって産業構造やエネルギー構成などの事情が異なることから、それらを踏まえた多様な道筋によるネットゼロ実現を目指すことの重要性を確認しました。たとえば、東南アジアでは、島嶼部が多く、大陸部でもグリッド(送配電網)のカバー範囲が狭く、地域間の電力系統の連結性も低いという特徴があります。そのため、再生可能エネルギーと蓄電池など多様な供給力を組み合わせた離島向けのマイクログリッドや、設置場所の拡大が期待できるペロブスカイト太陽電池の導入などが検討されています。また、電力・産業部門で水素・アンモニア、バイオマス、CCUSを活用したり、運輸部門でxEV、水素やe-fuel、バイオ燃料といった多様な技術を活用するなど、さまざまな方法が検討されています。
② 官民の連携促進、政策策定支援・具体的プロジェクトにおける協力の推進すでに日本とAZEC各国の企業などの間では、アジア各地で脱炭素案件が数多く進められています。協力関係を拡大し、またエネルギー移行を進展させるため、各国政府や関係機関からも後押ししていくことが重要です。首脳会合では、官民がコミュニケーションを取りながら連携していくことが確認されました。また、プロジェクトは各地でバラバラに進めるだけではなく、各国に根付いた形で脱炭素化を進めていくことが大切です。そこで、AZECパートナー各国が脱炭素に関する新たな政策を策定する際に、日本が知見を提供したり、政策やプロジェクトに関する調査を実施することとしています。これにより、脱炭素技術の展開を進めることを目指しています。③ 脱炭素技術分野での協力強化 、 製造業のサプライチェーングリーン化 、 トランジション・ファイナンスの推進日本が持つさまざまな脱炭素技術は、活用に向けてすでに調査や議論が進められており、今後も継続して取り組んでいきます。一方、国際的な市場のグリーン化への期待の高まりを受け、環境に配慮した新たな製品・サービスをつくることが必須となっています。日本も、インドネシア、ベトナム、タイなどをはじめ、東南アジアの多くの地域に工業団地を持っており、製造業のサプライチェーングリーン化を重要課題として取り組みを進めていきます。また、脱炭素化社会の実現に向けては、着実な脱炭素化に向けた移行(トランジション)への取り組みに対する多額の資金供給(ファイナンス)が必要です。そこで、温室効果ガス(GHG)削減の着実な取り組みをおこなう企業に対し、その取り組みを金融面から支援することを目的とした新しいファイナンス手法「トランジション・ファイナンス」(「企業の脱炭素化をサポートする『トランジション・ファイナンス』とは?(前編)~注目される新しい金融手法」参照)をアジアでも進めていくことを提起しました。AZEC首脳会合では、こうした政府間の議論に加え、企業や政府、金融機関の間で、日本とAZEC各国での協力案件について68件のMOU(協力覚書)が発表されました。首脳会合以前に進められてきた案件も含めると、その数は合計で350件以上にのぼります。これらは「AZECプログレスレポート」や「AZEC首脳会合に向けたMOU概要」としてまとめられ、経済産業省から発表されました。後編では、アジアの脱炭素化に向けた具体的な協力の例をご紹介します。
長官官房 国際課
長官官房 総務課 調査広報室
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