知っておきたいエネルギーの基礎用語〜大気中からCO2を除去する「CDR(二酸化炭素除去)」
カーボンニュートラルを達成する上で重要な役割を果たすのが「CDR」です。CDRとはCarbon Dioxide Removalの略で、二酸化炭素除去、つまり大気中のCO2を除去することを指します。2050年までにCO2排出を実質ゼロにするためには、企業や家庭が排出するCO2の量を減らすだけでは難しく、大気中に存在しているCO2を除去することが不可欠なことから、日本や欧米を中心に注目が高まっています。なぜCDRが重要なのか、またCDRを実現するために期待されている技術にはどのようなものがあるのかを解説します。
カーボンニュートラル達成のため必要不可欠なCDR(二酸化炭素除去)
日本は2050年までに「カーボンニュートラル」達成を目指しています。「カーボンニュートラル」とは、CO2を含む温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを目指す目標で、全体(=ネット)として排出ゼロを目指すことから、「ネットゼロ」という言葉も同じ意味合いで使われています。
ネットゼロを目指すためには、CO2をできるだけ排出しないよう、排出削減を進めることが重要ですが、どうしても排出が避けられない分野もあります。そこで、やむを得ず排出したぶんについては、大気中に存在するCO2を同じ量取り除くことで、差し引きゼロを目指すという方法が考えられています。そこで重要になるのが「CDR」の技術です。
下図を見ながら、もう少し詳しく説明しましょう。
日本の2019年のCO2排出量は、電力をつくる時などに排出される「電力由来」と、運輸など電力以外からの排出「非電力由来」を合わせて10.3億トンでした。この先、電力由来CO2については、火力発電の比率を引き下げたり、再生可能エネルギーや原子力といったCO2を排出しないエネルギー源を活用したりすることで、削減が進められる予定です。また非電力由来CO2については、低炭素・脱炭素なエネルギー源に切り替えることなどにより、2050年までにはかなりの量のCO2排出が削減できると見込まれています。
ただ、たとえば電気自動車(EV)のように自動車の電化は進んでいるものの、大型トラックや航空機、船舶など大型輸送機の電化は、技術開発にまだ時間がかかると見られています。また、セメントのような製造過程でCO2が排出されるモノについては、排出量を減らす新技術の研究が進められているものの、CO2削減に限界がある分野もあります。上の図でいうと、電力・非電力とも右下のグレーの箇所がCO2排出の避けられない部分を示しており、これを「残余排出」と呼んでいます。カーボンニュートラル達成のためには、この残余排出と同量のCO2を大気中から吸収・回収(CDR)し、差し引きゼロにする必要があるのです。
CDRに役立つ「ネガティブエミッション技術」とは
CDR(二酸化炭素除去)を可能にする技術を、「ネガティブエミッション技術(NETs)」と呼びます。「エミッション」とは排出のことで、よく耳にする「ゼロエミッション」が排出をゼロにするのに対し、「ネガティブエミッション」は排出をマイナスにする、つまり大気中のCO2を除去する技術を指しています。
下の図表の通り、ネガティブエミッション技術(NETs)には大きく分けて「自然プロセスを人為的に加速させる手法」と「工学的プロセス」とがあります。「自然プロセスを人為的に加速させる手法」については、CO2を吸収する木を増やす「植林」や、海洋のCO2吸収を促進する技術、岩石を粉砕・散布して人工的に風化を促進し、その過程でCO2を吸収する技術(風化促進)などが研究されています。一方、「工学的プロセス」に分類されるのは「DACCS」と「BECCS」で、長期のCO2固定(CO2を取り込んで炭素化合物としてとどめておくことで大気中のCO2を減らすこと)が期待されるとともに除去効果の検証が容易なため、ネガティブエミッション技術(NETs)の中でも特に期待されています。
ネガティブエミッション技術の分類・定義
G7での合意を受け、CDRの重要性が国際的にも認められる
気候変動対策としてのCDRには、さまざまな意味や技術が含まれているため、国際的な概念が確立されていませんでした。CDRを推進する立場の日本は、国際社会に共通の理解を確立すべく、IEA(国際エネルギー機関)、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)といった国際機関やG7サミット(主要国首脳会議)に働きかけ、合意形成を図ってきました。
その結果、2023年4月に行われたG7気候・エネルギー・環境大臣会合で、合意文書に以下の内容が盛り込まれました。

またCDR推進にあたっては、CO2の除去量の測定・報告・検証手法の国際的なルールづくりも必要になってきます。そのため日本は「ミッション・イノベーション(COP21で立ち上げを提唱、2016年に正式に立ち上げられた、現在23カ国+EUが参画するクリーンエネルギー分野の研究開発について投資拡大を促すイニシアティブ)」内のCDRプロジェクトにおいて測定・報告・検証手法についての議論をリードしてきましたが、この点についてもG7の合意文書で国際協力の加速を支持する内容が盛り込まれました。
今後の取り組みと、カーボンニュートラルを目指す企業の動き
G7の合意によって、気候変動対策におけるCDRの位置付けが示されたことは、2050年カーボンニュートラル実現に向けての追い風になります。今後も日本は国内外の関係者との協調関係を構築しつつ、二酸化炭素除去に要する期間や永続性などCDRに求められる要件などを明確化し、CDRの測定・報告・検証手法を構築するなど、さまざまなルール形成を進めていきます。
現在、国内外合わせてもDACCSやBECCSを手がける事業者数は数えるほどで、事業規模も決して大きくありません。しかしCDRの必要性が社会に浸透するにつれて、事業の拡大が見込まれます。CO2排出が避けられない業界では、排出分を相殺するカードとしてCDRが必須になるからです。実際に、運輸関連の日本企業の中には、自社のSDGs目標「2050カーボンニュートラルの達成」のため、DACCS事業者からCDR由来のカーボンクレジットを購入する動きも出てきました。CDRを取り巻く動きは熱を帯びてきています。この先の動向が注目されます。
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