もっと知りたい!エネルギー基本計画⑦ 原子力発電(1)再稼働に向けた安全性のさらなる向上と革新炉の研究開発

国内にある原子力発電所の写真

(出典)関西電力株式会社

日本のエネルギー政策の基本的な方向性を示す「第6次エネルギー基本計画」が2021年10月22日に策定されました(「2050年カーボンニュートラルを目指す 日本の新たな『エネルギー基本計画』」参照)。計画には、「2050年カーボンニュートラル」実現に向けた課題と対応、日本のエネルギー需給構造が抱える課題の克服などを中心に、さまざまな方針が盛り込まれています。その内容について詳しくご紹介するシリーズ、第7回は原子力発電に関する取り組みと今後の方向性について見ていきます。

エネルギー政策における原子力の位置付け

原子力は、運転時にCO2を排出しないことから地球温暖化対策に貢献する電源(電気をつくる方法)であり、すぐれた安定供給性と効率性、また運転コストの低さや燃料価格変動の影響を受けにくいといった特性を持っています。

今回の基本計画では、こうした特性をふまえ、「2050年カーボンニュートラル」(「『カーボンニュートラル』って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?」参照)に向けては、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していくことが示されました。それとともに、2050年を見すえた2030年の原子力発電の比率については、電源構成比の20~22%程度と、これまでと変わらない数値が示されています。

原子力利用における安全性向上のためのさまざまな取り組み

原子力政策の出発点は、2011年に起こった、東京電力福島第一原子力発電所の事故に対する真摯な反省です。東京電力福島第一原子力発電所の事故について、政府および原子力事業者が、いわゆる“安全神話”におちいり、悲惨な事態をまねいたことを片時も忘れず、真摯に反省しなければなりません。それとともに、東日本大震災で被災し、大きな被害を受けながらも東京電力福島第一原子力発電所のような重大な事故にまではいたらなかった原子力発電所を含めたさまざまな経験を教訓として、このような事故を二度と起こさないよう努力を続けていかなければなりません。

このため、政府として、2012年に独立性の高い原子力規制委員会を設置しました。また、福島第一原子力発事所の事故の教訓をふまえ、IAEA(国際原子力機関)や諸外国の規制基準も考え合わせて、世界でもっとも厳しい水準の新規制基準を2013年に策定しました。

原子力発電所の再稼働については、このような高い独立性を持つ原子力規制委員会が科学的・技術的に審査し、新規制基準に適合すると認めた原子力発電所のみ、その判断を尊重し、地元の理解を得ながら進めていくこととなっています。

再稼働にそなえた産業界全体での安全性追求

2022年7月現在、再稼働している原子炉は10基。また原子力規制委員会から設置変更許可を得た上で、地元自治体が再稼働に理解を表明した原子炉が4基あります。エネルギーミックスの実現に向けては、引き続き再稼働に向けた取り組みを進めていく必要があります。

電気事業者は、再稼働にそなえ、安全性向上に向けた大規模な投資や、さらなる安全設備の追加を実施しています。また、事業者共通の技術的な課題に取り組む「原子力エネルギー協議会(ATENA)」や、発電所の安全管理体制についてピアレビュー(事業者が相互に指摘しあうこと)をおこない、現場の安全性向上を図る「原子力安全推進協会(JANSI)」などの組織を立ち上げて、産業界全体での自主的な安全性向上を進めてきました。また、核物質防護対策やサイバーセキュリティ対策についても、規制要求への対応だけでなく、自主的な対策強化に取り組んでいます。

さらに2021年、原子力事業者をはじめとする産業界は、「再稼働加速タスクフォース」を設置しました。外部専門家を含め人材や知見を結集し、規制基準に対応したハード・ソフト面の安全性向上に着実に取り組むだけでなく、運転員・保守員の力量向上といった人的支援など、業界全体での技術力維持・向上の取り組みを開始しています。

安定的な長期運転の実施と設備利用率の向上

第6次エネルギー基本計画における20~22%程度という電源構成比を達成するためには、長期的に安定して運転をおこなうことが求められます。そのためには、事業者自ら、また産業界全体で、安全性向上を継続的に追求することが重要です。

このため、ATENAを中心とした、トラブル低減に向けた技術課題の検討や、保全活動の充実、経年劣化に関する継続的な知見の拡充に取り組み、先手を打った点検・保全を進めることにより、安全性・信頼性の向上を進めていきます。

また、定期検査の効率的な実施、運転サイクルの長期化に向けた技術的な検討が始められています。いずれも、米国など海外では実施例があり、日本でも過去に検討した事例があることから、国内外の事例を参考にしつつ、こうした取り組みを引き続き進めていきます。

安全性、核のゴミ…問題を解決する革新炉の開発も推進

現在、世界では「革新炉」と呼ばれる新しい原子炉の開発が加速しています。第6次エネルギー基本計画では、この世界の動きに歩調を合わせ、2050年カーボンニュートラルに向けて、日本においても安全性や信頼性、効率性を抜本的に高める革新炉の開発を推進していくことが記載されています。

たとえば、現在の軽水炉に新しい技術を導入した革新軽水炉の開発が進められています。地震や津波などの自然災害へのレジリエンス向上や、航空機衝突・テロ対策などといった安全対策、出力を変動させて自然エネルギーの変動をおぎなうなどの機能向上が追求されています。特に、事故時に電源を失った場合でも原子炉を自然に冷やすことができるシステムや、炉心が溶融したとしても放射性物質を発電所敷地内にとどめることができる設計を取り入れています。

また、福島第一原子力発事所の事故時には、燃料を覆う管が発生させた水素が爆発の原因となりました。この燃料を覆う管を金属でコーティングすることなどによって酸化や水素発生をふせぎ、安全性を大幅に高める「事故耐性燃料」の開発などが進んでいます。

革新軽水炉のイメージ
革新軽水炉のイメージ図です。耐震性向上、セキュリティ高度化などの特徴が書かれています。

(出典)第1回総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 革新炉ワーキンググループ「 資料8 三菱革新炉開発の取組み(三菱重工業提出資料)」(PDF形式:2,590KB)

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事故耐性燃料の開発イメージ
事故耐性燃料について、コーティングあり・なしなど諸条件で開発しているイメージ図です。

(出典)第1回総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 革新炉ワーキンググループ「資料6 エネルギーを巡る社会動向を踏まえた革新炉開発の価値(事務局提出資料)」(PDF形式:9,372KB)

また、現在の原子炉よりも核のゴミを減らすことができ、すぐれた安全性などを持つ「高速炉」という新しい技術も注目されています。米国ではビル・ゲイツ氏が会長をつとめるTerraPower社で高速炉の開発が進められています。TerraPower社は過去、高速炉「もんじゅ」の建設・運転でつちかった日本のノウハウに着目し、2022年1月、原子力研究開発機構(JAEA)と三菱重工業、三菱FBRシステムズとの間で協力に向けた取り決めを結びました。今後、日米協力を含め、世界の高速炉開発の更なる進展が期待されます。

また、高速炉を活用したがん治療などの研究も進められています。JAEAの持つ高速実験炉「常陽」で大量に安くつくることができる放射性物質「アクチニウム」は、世界最先端のがん治療薬として着目されています。

米TerraPowerがワイオミング州で運転開始を目指す高速炉実証炉
高速炉実証炉のイメージ図です。

(出典)第2回総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 革新炉ワーキンググループ「資料4 TerraPower社の高速炉開発について(英語/日本語(仮訳))(TerraPower社提出資料)(PDF形式:6,832KB)

高速炉から造られる医療用ラジオアイソトープによるがん治療のイメージ
医療用ラジオアイソトープがどのようにがんを治療するかを示したイメージ図です。

さらに、「高温ガス炉」と呼ばれる新しい原子炉の開発も進められており、日本が試験炉「HTTR」に代表される、世界最先端の技術を持っています。世界最高温度950℃の高温を記録したHTTRの技術を活用すれば、発電だけでなく、同時に水素をつくるコジェネレーションが可能です。高温ガス炉では、たとえば太陽光発電を使って水素を製造した場合と比較すると約1600分の1の敷地面積で、大量かつ天候に左右されず安定的に、カーボンフリーの水素と熱を電気に加えて供給することができます。これによって、鉄鋼や化学などのエネルギーを多く消費するタイプの産業部門においても、2050年に脱炭素化を実現できる可能性があります。

高温ガス炉試験炉HTTR-水素製造施設の構成(イメージ)
高温ガス炉試験炉HTTRと、その横に並ぶ水素製造施設のイメージ図です。

(出典)第1回総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 革新炉ワーキンググループ「資料6 エネルギーを巡る社会動向を踏まえた革新炉開発の価値(事務局提出資料)」(PDF形式:9,372KB)

そして、世界で研究開発が進む「SMR」(Small Modular Reactor、小型モジュール炉)と呼ばれる新しいタイプの原子炉も注目されています。原子炉が小さいため、設計がシンプルで人的ミスや機器故障などを回避できたり、初期投資コストが小さいなど、小型ならではのさまざまなメリットがあります。米国では、NuScale社が2029年に初号機を建設するべく開発を進めています。国内でも日揮ホールディングスやIHI、国際協力銀行が出資を行うなど、こうした国際連携も活用しながら開発を推進していきます。

次回も、原子力発電に関する政策のポイントをご紹介しましょう。

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