原子力にいま起こっているイノベーション(後編)~実は身近でも使われている原子力技術

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米国や日本で進められている、革新的な原子力技術の研究開発。これまでにない原子力技術が確立すれば、発電分野はもちろん、さまざまな分野で新しい用途が広がると見られています。「原子力にいま起こっているイノベーション(前編)~次世代の原子炉はどんな姿?」では、発電分野で起こっているイノベーションをご紹介しました。後編では、私たちの身近なところで利用されている発電以外の原子力技術の用途と、そこで起こっているイノベーションについてご紹介します。

発電以外にも使われている原子力関連技術

原子力技術の中でも、特に放射性物質や放射線は、医療、工業、農業、科学、日用品など、意外と身近なところで利用されています。たとえば、健康診断でおなじみのX線を使った胸部レントゲン撮影も、放射線を活用したものです。そして今、さらなる高度な利用方法や、新しい利用方法の開発も進められています。いったいどのようなイノベーションが起ころうとしているのでしょう?各分野について見ていきましょう。

放射性物質でガンを見つける、治療する

原子炉などでつくられた放射性物質は、ガンの検査や治療などにも利用されています。

代表的なもののひとつに、「骨シンチグラフィ」と呼ばれる検査があります。ガン細胞は、活発に細胞分裂をおこなう、代謝が盛んなどの性質があります。そこで、骨の代謝が盛んなところに集まる性質をもつ物質と放射性物質を化合させたものを注射して、ガン細胞に取り込ませます。この放射性物質はごくわずかな放射線を発していますから、体の外からその位置を追跡することができます。こうして、ガンがどの部位にどの程度転移しているかを診断するわけです。この技術はすでに広く使われています。

治療に関しては、「α線」という放射線を使った治療があります。α線は、2個の「陽子」と2個の「中性子」からできており、放射性物質の「自然崩壊」という現象が起こることによって発生します。このα線は、水中では短い距離(1mm未満)しか進むことができません。放射線の飛ぶ距離が短いため、エネルギーを集中してガン細胞に与えることができる、逆に周りにあるほかの細胞には悪影響が少ないという特長を持ちます。このα線を放出する放射性物質をガン細胞に選択的に取り込ませて、ガン細胞を直接攻撃し、消滅させるのです。この治療に使われる放射性物質には、すでに利用されているものもあれば、実用化を目指して研究が進められているものなど、複数あります。

α線を放出する放射性物質のひとつ「アスタチン」を使ったがん治療のイメージ
アスタチンのアルファ線によりがん細胞が縮小、消滅するまでをあらわしたイラストです

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「γ線」と呼ばれる放射線を使ったガン治療もおこなわれています。たとえば、原子炉でつくられた「金」の一種(「Au198」と言います)は、きわめて小さな管に密封され、舌ガンの治療のために患部に埋め込まれて使用されています。この「Au198」は国内の原子炉で生産されてきました。原子炉は2011年3月に起こった東日本大震災後に停止していましたが、2021年2月末に再稼働する予定です。

期待があつまる小型原子炉「マイクロリアクター」

「骨シンチグラフィ」で使われる放射性物質(テクネチウム)は、原子炉を使ってつくられます。ただ、これをつくることができる原子炉は、世界中を見回しても数か所しかありません。その上、それらの原子炉は老朽化が進んでいます。

加えて、日本は100%を海外から輸入していますが、この放射性物質は半減期(放射性物質が持っている放射線を出す能力が半分に減るまでの期間)が6時間と短いことから、ひんぱんに輸入する必要があります。実際、2007年には海外の原子炉が停止し、1か月間国内供給が途絶えたことがありました。

このような背景から、今、これらの用途に特化した原子炉の研究開発が進められています。移動と設置が簡単で、「原子力にいま起こっているイノベーション(前編)~次世代の原子炉はどんな姿?」で紹介した「Small Modular Reactor(SMR)」よりもさらに小型な原子炉、「マイクロリアクター」です。

医療に必要な放射性物質を生産することに特化したマイクロリアクターが実現できれば、より優れた検査や治療の技術が、もっと気軽に手の届くものになっていくかもしれません。

放射線測定技術でさまざまなものを測る

放射線の測定技術が明らかにする世界の歴史

放射線の利用は、放射線を使った測定技術の発達とあゆみを共にしながら進歩してきました。レントゲン撮影も、放射線を使った測定技術のひとつです。最近では、半導体を使った小型で持ち運びできる放射線計測器も登場しています。

この測定技術は、歴史研究の分野でも利用されています。近年、ピラミッド内部の未知の空間を探りあてたという考古学のニュースが話題になりました。これは、宇宙から地表にふりそそいでいる放射線の一種「ミュー粒子」を、ピラミッドに配置した特別なフィルムに感光し、感光の濃淡で内部の様子を探るという技術を使って実現されました。つまり、X線撮影と同じようなことを、ピラミッドに対しておこなったのです。最大のポイントは、貴重な遺跡を掘ったりすることなく、内部を探ることができるということでしょう。こうした技術が、さまざまな歴史の謎を解き明かすかもしれません。

ミュー粒子を使ったピラミッド内部の調査手法(イメージ)
ミュー粒子を使ってピラミッド内部を調査するようすをあらわしたイラストです

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測定技術もどんどん進化中

このような放射線を使った検査や測定の技術は、着実に進歩しています。

原子炉などを使ってつくられた放射性物質を使って、製品の内部にひそんでいる欠陥(空洞など)を見つける手法は、金属工業の分野では広くおこなわれています。「非破壊検査」や「ラジオグラフィー」などと呼ばれる分野です。

X線を使った非破壊検査の例
X線発生器とX線フィルムを使い、試験体の検査をするようすをあらわしたイラストです

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最近では、画像解析技術が発達し、高解像度化が可能になりました。また、複雑な解析処理を自動で瞬間的におこなうコンピュータ解析技術も確立。さらに、放射線を特定の方向に集中して出す技術なども向上しています。こうした、さまざまな分野にわたる技術を活かし改良を重ねることで、エンジン内部で高速で動いているピストンやオイルの動きをまるで“透視”したかのように把握する、といったことができるようになっています。

放射線を使った可視化装置と、高速で動くエンジン内部でのオイルの動きの透視例
放射線を使った可視化装置のしくみのイラストと、エンジン内部でのオイルの動きを透視した写真です

(提供)日産自動車株式会社・日本原子力研究開発機構

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ほかにも、放射性物質や放射線はさまざまなところで利用されています。あなたが今見ているPCやスマートフォンには「半導体」と呼ばれる部品が組み込まれていますが、半導体の中でも高性能なもの(n型半導体)は、製造の過程で、放射性物質による加工がほどこされます。これらの半導体は、電車や送電設備などで利用されています。

放射性物質や放射線は、このように、私たちのさまざまなところで活用され、現代の生活を支えています。これからも、さまざまな技術の発展と新しい活用法に注目していきましょう。

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